会社での出来事のせいで落ち込んだ君を励ましたい妻が囁いてあげるお話。

「おかえりー！
……って、ど、どうしたの？　見るからに辛そうな顔して。
疲れた？　なんか、嫌なことでもあったの？

……そっか。今日はどうする？
夕飯は作ってあるけど、食べる元気もなさそうだね……
あ、いやいや、無理しなくていいの！
私が作ったからって気遣ってくれるのは嬉しいんだけど、今は気を休める方が大事だと思うんだ。

うん。それじゃ、ベッド行こ？
私の胸の中でだったら、落ち着けるでしょ？
……出来れば、何があったのかも教えてほしいし。


ほら、私の胸に飛び込んでおいで！
どんよりしててもそういうところは素直なんだね。
いいよ、私の胸は君の居場所なんだから、好きな時に使って。

どう？　落ち着く？
よしよし、私は今日も君が大好きだよー。
元気のない君に私の元気を分けてあげる。

ねえ、話してすっきりしよっか。今日はどんなことがあったの？
え、元カノが会社に入ってきた？
元カノって、高校時代に付き合ってたけど、浮気して別れてって言ってきたあの最低な元カノさん？
へー、世の中、いろんな不思議があるものだね。

でも、それだけで君がそんな辛い思いをして帰って来るとは思えないよ。
そこで、なにがあったの？

嘘を、広められた？　君が傷付くなんて、どんな嘘なの？
……君が、浮気？　別れた理由を捻じ曲げられた……か。

本当に浮気したのは自分自身なのに、君の目の前で君が浮気をしたせいだという嘘を吐いたんだね？
そして、社内は騒然、君が白い眼に晒されることになった。ってことかな？
……えっ、それどころか、彼女が何度も君のことを罵倒してきた！？
なんて、言われたの？

『あんたと付き合ったせいで人生無駄にした』
『私の恋人遍歴に傷が付いた』
『お前だけ浮気相手と結婚して幸せになりやがって』
『クズ……同士…………お似合い……』

あ、いいのいいの、無理して言いづらいこと言わなくてもいいよ。
ちょっと気になっちゃっただけだし、その酷さはよくわかったから。

本当、どこまでも最低な女みたいだね。
そういう話しか聞かないから偏見みたいになっちゃうけど、君はどうしてそんな女なんかと付き合ってたの？　一個も君と釣り合う要素が見つからないよ。

最初はそんな人じゃなかった？　ふーん、スクールカースト最上位の子に気に入られた日から合わなくなってきたんだ……
それでも、浮気して別れたり、その原因を君に押し付けるなんて許せるものじゃないよ。

はぁ、いつもの君からは考えられないくらいの落ち込み様だね。
そんな君のために私がいるんだから、もっと甘えていいんだよ？
君を、元気付けてあげる」

（ここから囁き）

「君は、何も悪くない。
悪いのは全部あの女。
君は、愛する人を傷付けるような事なんて絶対しない優しい人。
世界で一番素敵な男の子。
あの女は、愛する人なんて存在しない自分を満たすことに執心した君とは相容れない女。
世界で一番醜い女。
君は、何も悪くない。
悪いのは全部あの女。

君は、愛する人の幸せのために力を尽くしてくれる優しい人。
世界で一番相手思いの男の子。
あの女は、自分の幸せだけのために頑張ってるだけの哀れな女。
世界で一番見栄と虚構でできた女。
君は、何も悪くない。
悪いのは全部あの女。

君は、周りを気にしすぎるあまり傷付きやすいだけの繊細な人。
世界で一番心配な男の子。
だから、私がいつでも君の頭を撫でてあげる。君の全てを褒めてあげる。
君は、繊細だからこそ他人の抱える脆さを抱き締めることが出来るの。
あの女はもちろんだけど、私にも出来ない君のすごいところ。
君は、何も悪くない。
だって、こんなにも素敵な人なんだから。

あの女は、君の幸せなんてどうでもいい。
かつての幸せな日々を裏切って、今の幸せな日々に手を出してくる女。
もう、あの女のことは忘れようよ。
私は、元カノとすらも思いたくない。
あの女に君と関わる価値なんてないよ。
自分しか見えていない女。私の君を傷付けるなんて許せない。
君は、何も悪くない。
悪いのは全部、全部あの女。
君の愛を裏切ったあの女が悪い。君を捨てて浮気したあの女が悪い。君に罪を擦り付けてまで自分を守ろうとするあの女が悪い。
全部、全部、あの女のせい。
何にも君は悪くないよ。

どんなにあの女が君を傷付けようとも、その分だけ……ううん、それよりもずっとたくさん、君を私の愛で満たしてあげる。
私の一番大切な君の幸せを守るため。
私の一番大好きな君の笑顔を見せてほしいから。
君に触れるもの全てが敵になったとしても、私だけは変わらず君の味方になってあげる。
君は、何にも悪くない。
だって、こんな私をこんなにも一途に深く愛してくれる、世界で一番愛おしい君だから。

もし君が辛く感じることがあれば、いつでもこうして私の胸に頼るといいよ。
君を愛するために私がいるんだから、君の辛さも忘れさせてあげる。
もし君が悲しい思いをすることがあれば、いつでもこうして私を求めてくれるといいよ。
君への愛で私はできてるから、君の悲しみを包み隠してあげる。
もし君の目に映る全てが敵に見えるのならば、いつでもこうして私以外に盲目になるといいよ。
君がいることが私の幸せだから、私の胸の中ででも一生生きていられるようにしてあげられる。

君には私がいる。
君は素敵な人だから。
君を大好きな私がいる。
君は優しい人だから。
君にはそれだけで十分。
それ以外は何も考えなくていいの。
私が神聖なる君を汚すことを誰にも許さない。
君にすらも君のことは否定させない。
君は、今の君で十分素晴らしい。
だから、ずっと、ずっと、君のことを愛し続けてあげる」

（囁き終わり）

「……どうかな。ゆっくりと、顔が穏やかになってきたね。
ねえ、まだちょっとだけあの女のこと考えてる？
無駄だよ、あの女、君とはどうやっても無理なんだよ」

（囁き）

「大丈夫。もし君がまた悩むことがあれば、あの女を消してでも私は君を守るから。
もう、君を悲しませたりなんかしない。君の愛のお礼として、精一杯頑張るね」

・台本（ゆるボイ！）
悲観に染められた君を取り戻す囁き
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
夜木嵩