これは、耳かきを巡る戦い。

進めぇ！

帝国の暴挙（ぼうきょ）を許すな！

奴らに耳かきをしてもらう素晴らしさを思い知らせてやるのだ！

(間)

くそ！

どいつもこいつも自分で耳かきしおって！

耳かきはしてもらうから良いんだろうが！

そこかしこで我が軍を説得するな！

耳かき棒を取り上げ、口を封じろ！

そして、奴らに強制耳かきをしてやれ！

自分でやるのは手軽だが、それだけだ！

他人（ひと）にしてもらう耳かきの良さを教えてやるんだ！

(間)

ん？

伝令伝令（でんれい）か、どうした？

(間)

なに！？

ヤツが帝国に寝返っただと！？

何かの間違いではないのか！？

ぐっ……仕方ない。

私が出る！

ヤツはどこに居る？

(間)

分かった。

幸い、この近くのようだな

待っていろ、今すぐ耳かきして、引き戻してやるからな。

(間)

うおおおおお！！

どけぇ！

邪魔だあああ！！

貴様らの耳など、一瞬で堕としてくれるわ！

ふん！。せい！。はっ！

ふっ、他愛（たあい）ない耳め。

貴様らの耳など、一瞬で堕とせると言ったはずだ。

少し耳かきしただけで戦闘不能になるとは、自分でする耳かきに満足出来ていない証拠ではないか。

それに、複数でかかってくるのは耳かき精神に反する行為だぞ。

耳かきは１対１の勝負。

堕とすか、堕とされるかだ。

それよりも、ヤツはどこに行った？

ん？。あそこか！

(間)

貴様あああああああ！！

よくも私を裏切りおったなあああ！！

自分で耳かきして気持ち良さそうに！

貴様は私の耳かきより、自分でする耳かきのが良いと言うのか！！

簡単に説得されるんじゃない！

どうせ、良からぬ事を吹き込まれたのだろう。

こっちに来い！

耳を貸せ！この愚（おろ）か者が！

黙れ！動くと耳を突くぞ！

貴様はおとなしく、私に耳かきをされていればいい。

始めるぞ。

(耳かき開始。どちらの耳からでも良い。時間自由)

まったく、貴様というやつは。

(しばらく無言で耳かきした後に台詞)

どうだ？

私の耳かきは？

自分でするより、何倍も気持ちいいだろう？

貴様が周りに流されやすいのは分かっていたが、まさか寝返るとはな。

ん？

ああ、それは大丈夫だ、安心しろ。

戦争であろうと、耳かき中に介入するのは御法度（ごはっと）。

そのような事をすれば、神から罰が下（くだ）り、２度と耳かき出来ない身体になってしまう。

そんな苦痛、死ぬより辛（つら）いだろう？

だから、介入はされない。

安心して、私に耳かきされていろ。

先ほど、複数に襲われたがな。

帝国は常識すら知らんのか？

まったく……。

(しばらく無言で耳かきした後に台詞)

よし、梵天で仕上げをして、こちらは終（しま）いだ。

(梵天。時間自由)

モフモフだぞ～？

天にも昇（のぼ）る心地だろう？

私のところに戻ってこい。

(しばらくして、梵天終わり)

次は反対だ。

顔の向きを変えろ。

よし、それでいい。

(耳かき開始。反対側。時間自由)

(しばらく無言で耳かきした後に台詞)

そうだ、聞いていなかったな。

貴様は何故、私を裏切った？

祖国を裏切るなど、余程の説得をされたのだろう？

(間)

ほう、いつでも、どこでも耳かきし放題で自由な耳かきが出来る……か。

ふん、帝国の奴らめ、くだらん戯（ざ）れ言（ごと）を。

１人孤独に耳かきをして何のメリットがある。

とりあえず、話の続きは後だ。

耳かきに集中するぞ。

(無言で耳かき)

よし、仕上げの梵天だ。

(無言で梵天)

こんなものだろう。

終わったぞ。

耳かきをしてもらうのは良いものだろう？

１人孤独にするものじゃない。

耳かきは、する側もされる側も相互に幸せな気分になれるものだ。

する側はする喜びを、される側はされる喜びを感じられる。

自分の耳かきで気持ちよくなってくれた、とても気持ちいい耳かきをしてもらえた、と。

する側もされる側も、互いにそう思えるからこそ、耳かきに意味があるのだ。

耳かきは、耳の汚れを取る為だけの行為ではない。

好きな人に耳かきをして、距離を縮める。

夫婦なら、互いに耳かきをして、より仲を深められる。

耳かきは人と人とを繋（つな）ぐ大切なものなのだ。

帝国が何を思って１人での耳かきを周りに広め、我々の国に侵攻してきたのかは分からんが、１人で耳かきをするなど、寂し過ぎるだろう。

神様もそんな寂しい事は望まないだろうさ。

人の心は千変万化（せんぺんばんか）。

常に移（うつ）り変わっていく。

だが、耳かきは不変（ふへん）のものだ。

(永遠＝えいえん、とわ、どちらでも可)
どれだけ時が流れようと、耳かきで得られる心地（ここち）良さや幸せは永遠に変わらない。

耳かきをしてもらった心地良さや幸せ、記憶は永遠に色褪せる事なく、人の心にあり続ける。

私も、母にしてもらった耳かきの心地良さや幸せな気持ちは、今でも鮮明に覚えている。

亡き母の形見と言っても良い。

この温もりや愛情が、母から貰った私の宝物だ。

だからこそ耳かきは、決して疎かにしてはいけない。

貴様は、私の最愛の人だ。

失ってたまるものか。

私というものがありながら、１度、帝国に寝返った愚か者だが、戦場に１人で立たせた私にも責任がある。

すまなかった。

次からは、私も共に行こう。

２度と、私の側（そば）から離れないでくれよ。

貴様の耳かきをする事が、私の幸せなのだからな。

もちろん、貴様にしてもらう事もな。

さて、早くこの戦いを終わらせよう。

そして、共に紡（つむ）いでいこう。

未来を。

(少しの間)

さあ、行くぞ！

(↓は声高らかに。句読点で区切っても、区切らず一息でも良い)

我が耳かきに、一切の隙（すき）なし！

・台本（ゆるボイ！）
耳かき戦争
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
如月英梨