オンラインゲームでギルドマスターをしているあなたは、ギルドのオフ会に参加することになる。
少し早めに着くとギルドメンバーの一人から声を掛けられ、集合時間までお茶をすることに。
あなたはギルドメンバーからギルドに入れてくれたことを感謝される。

もしもし。
えーっと、違ってたらごめんなさい。
もしかして……、アイスカのギルマスさん？

あ、やっぱりそうなんだ！
えっと、リリ（任意の名前）です。そうそう、メイン聖騎士（パラディン）の。
良かったー。マスターじゃなかったらどうしようかと思った。
そうそう、ディスコで「はやく来すぎて変な銅像の前で待ちぼうけてる」って言ってたし、ちょうど近くまで来てたから合流しようと思って。

ええーリアルのマスターだー。めっちゃうれしい。
え、だって、マスターってオフ会について乗り気じゃなかったじゃないですか。

あ、ギルドのディスコで合流したって言っときますね。

……ん？　どうかしました？
え、いや、……女って言ってましたよね？
ＶＣ？　あれ？　マスターにはボイチェンで低い声作ってるって言ってませんでしたっけ？
え？　冗談だと思ってたんですか？
もー……、まあいいけど。マジで私のこと男だと思ってたんですか？　そうなんだ……。
それで、どうです？　本物のリリ（任意の名前）は？
……え？　VCよりかわいい声って、ボイチェンでおじさん声にしてるVCよりかわいい声なのは当たり前だろ！　もうばか！

……ていうか、マスター早く来すぎじゃないですか？　集合時間１時間以上前ですよ？
……。ふんふん、あーそっか。マスター地方住みだもんね。どうやってここまで？
高速バスかー、どのくらいかかったの？　あー、結構かかったんだね。お疲れさまでした。
マスター、まだ時間あるし、近くの喫茶店でも行きません？　うん、大丈夫。うちのギルメンって基本時間にルーズだから、多分全員３０分くらい遅刻してくるよ。

（間）

マスター、あんまりこういうとこ来ない？
そうなんだ。あ、マスターは何にする？　私はアメリカン。うん。

あ、すいませーん。

アメリカンとカフェオレを一つ。

……マスター、なんかあれですね。なんかまんまマスターって感じですね。
ほら、チャット勢にはいるじゃないですか、テキストの雰囲気と実際会った雰囲気が全然違う人とか。

それに比べてマスターはそのまんまマスターですね。嘘がつけないというか、裏表がないというか、そんな感じ。

え？　ほめてますよ。ほめてるかな？　多分ほめてますよ。
いやでも、別にけなしてはいないですよ？　

……、そういえば、一応、なんですけど、マスターって成人してますよね？
ですよね。
いや、ＶＣとかで聴く限り絶対に成人組だとは思ってたんですけど、なんかリアルのマスターって童顔……ってあんまり男の人には誉め言葉じゃないですね。えらく若々しい見た目だったものですから。
ええ、他意はありませんよ。ふふっ。

ちなみに何年生まれなんですか？　……平成……うん。あ、そうなんですね。じゃあ私より１コ下なんですか。意外ですね。なんかVCの雰囲気とかはもっと年上だと思ってました。
え？　いやいやー、タメ語でいいっていうのは分かるんですけど、……確かに年齢が上か下かとかはあると思うんですけど、マスターはマスターですから。それに、マスターには敬語で話すのが慣れてますからね。

……ん？　あー、次のアプデの話ですか？
そうですねえ。なんか弓使い（アーチャー）にバフかかるんでしたっけ。
バフって言うかあれか。アーチャー以外の全職の物理必中スキルから必中削除で、高命中補正にナーフされて、相対的バフ、みたいな形でしたっけ？
……うんうん、あー確かに１年くらい前のナーフで、壊れスキルが軒並み鬼ナーフされてからアーチャーは息してなかったですからね。うちのアーチャーメインで今日来る人って誰いたっけな。
……、あ、フィルさんとかいましたね。あとで話きいてみたいですね。
でしたねえ……。そうそう、初期アーチャーは自バフ焚いただけで無詠唱のレインの範囲と火力が魔女（ウィッチ）のイラプションの７倍とか言われてましたからね。さすがにね。
でもまあ、今回の調整は悪くないんじゃないですかねえ。相対的なバフではあるけど、昔からこの手のゲームの物理遠距離職って強くしすぎると悪さしちゃいますからね。
……。うんうん……、あー確かに。必中減ったら回避職が強くなるかもですね。
マスターもメイン暗殺師（アサシン）だから活躍できるかもしれませんよ？
……、あ、そういえばそうでしたね。マスター、PVはしないかたでしたね。闘技場くらいくればいいのに。

（注文したコーヒーが運ばれてくる）
あ、アメリカンがわたしです。
どうもー。

えとね、私、マスターには感謝してるんです。
うん、マスター私がアイスカに入団したときのことって覚えてます？
……忘れちゃった感じですか？
いや、別にそれはいいんですよ。はい。……いや、怒ってるわけじゃないですよ。
ふふ、なんか、マスターらしいなって。だってマスターってあんまり意識もせずに人を助けるようなことしてるってことじゃないですか。
そうですそうです。私、助けてもらっちゃったんです。マスターがいなかったら、多分ゲームやめてたかも。
私、前ギルドに居たときにヘイト管理とかリザ関係からぎすぎすしてたんですよ。

……いや、よくある話です。
ほら、聖騎士（パラディン）ってタンクできるじゃないですか。でも基本タンクって巨人族（ジャイ）がやるけど、一時期おでんが実装されたときー、ん？　あ、そうそう、オーディンのことです。オーディンのことみんなおでんって呼んでませんでした？　もしかして前のギルドだけだったのかな……。
まあ、そのオーディンなんですけど、当時巨人族（ジャイ）だと後半の首吊り後のルーン光線が魔法なので、安定して受けられないことが多かったから、魔防が高い聖騎士（パラディン）がタンクやるギルドが多かったんですよね。
でも、聖騎士（パラディン）ってタゲ維持一応できるけど、巨人族（ジャイ）とかの他のタンクより弱いじゃないですか。
私がいたところもそうだったんですけど……、そうなんです。
元々タンクやってた人がタゲ取りスキル打ってタゲの奪い合いになることが多くて……、まあ、うまいギルドはそういうカオスも楽しめるんですけど、私のところはそこから死んだり、アイテムロストしたりでさんざんだったんですよ。
そうなると、タンクが悪い空気になるじゃないですか……。

そうですよね！　取り合ったら死ぬのに取り合いするのが良くないじゃないですか～。それは前のギルマスも言ってたんですけど。なんかそのあともぎすぎすしちゃって。
それにパラディンってリザが使えるじゃないですか。そうすると起こす順番がどうとか、変な感じになっちゃったんですよね。
え？　わかりません？　そっか、アイスカってあんまりパーティ壊滅することないですしねえ。……リザの順番って結構いざこざになるんですよ。
とくに、パーティに女の子が混じってたりすると……、ね。
基本的にはさ、他にリザができる人がいたらそこから起こしますし、一番に起こす人が誰だろうがあんまり関係ないけど……。

でも、死んだまま待ってるとそうも思えないみたいですね。
あの人を先に起こしたから好きだとか、自分の方が仲良いのに放っておかれた、とか。
……そういうやつです。

……たぶん、私が、そこそこかわいい声の女の子だったからかなって。あはっ……、自分で言うのも変なんですけどね。いわゆるサークラって奴なんですかね。マスター聴いたことありません？　サークルクラッシュっていうんですけど。
男を勘違いさせて、サークルを壊しちゃう魔性の女、みたいなやつ。
多分、私それだったんですよ。

実際、前のサブマスに言われましたよ。
女性を出してるからいろいろ言われるんじゃないかってね……。別に誰に媚びを売ってたつもりも無かったんですけどね。

頑張ってる女の子を応援しなきゃっていう人と、女のくせにゲームが得意なのは生意気だって思う人、それと、わたしっていうゲームが好きな女。ギルドを壊す要因はそろってたかもしれません。

ふふっ……ていうか今思うと前のギルドはヤバイひと結構いましたからね。私が入団して、VCに入ったら、そうそうにオフ会で会いたいって言ってた人とか、カメラつけてーって言いまくってた人とかいましたし……。

たぶん、前のギルドにとって私は劇物だったんです。私がいなければきっと、もっともっと長続きしたんでしょうけれど。

……そんなこんなで人間関係が壊れて、前のギルドが崩壊して。
そのあと次のギルドを探したんですけれど……。

大手のところは前のギルドの人たちがなんていうんでしょうね。手をまわしてた、みたいな感じで、ことごとく入団を断られちゃったんです。

それで、私しばらくソロでやってたんです。でも、ソロだけじゃいけない場所とかあるじゃないですか。それにソロだからなのか知りませんけど、変なキャラに粘着されることも多くなって。ホラ、このゲームだけかもしれませんが、PKって報復がなさそうなギルド未所属プレイヤーを狙いがち、みたいなところあるじゃないですか。

そんなこんなで、つらかったんですよね。
多分、その時、私の冒険は一度終わっていたんです。
そのころの私がしていたのは心躍る冒険じゃなくて、惰性の放浪。
家に帰ってきて、とりあえずログインする。それだけの身についた日課でしかない灰色の時間。
でも、でもね。そんな感じで、放浪してたところで出会ったのが、マスター。

マスターとは最初に狩場で出会ったんです。私、その時のことすごく覚えてます。
正直最初は狩場被っちゃったし相手が暗殺師（アサシン）だし嫌だなあとしか思ってなかったんですよね。またやられるかもしれないし、それでなくてもMOB（モブ）の取り合いになったら負けるのは火力で劣るこちらですしね。
その時に、マスター、チャットしてくれたんですよ。「パーティ組みませんか」って。
覚えてます？　ルイナ廃棄地区の上層のこと。あそこって人気の割にMOBの湧き微妙じゃないですか。だから、狩場が被ったら、どうしても譲ったりPVになったりするんですよね。
でも、マスターは違った。
あの時、私、ひさしぶりに『オンラインゲームをやっている』っていう感覚を思い出したんです。
その時は少し一緒に狩りをして別れただけだったんですけど、それから時々街でマスターがいないかなって探していました。
きっとこの人や、この人の仲間となら、もう一度、冒険ができるんじゃないかって。そう思いました。

……はい、結構すぐに見つかりましたよ。セキュア大樹（たいじゅ）の都（みやこ）東の城壁（じょうへき）上、今と同じギルドのたまり場。だいたいそこに居ましたよね。
……遠くからギルメンと集まってわちゃわちゃしてるのをみてました。
けれどまだ、わたしから話しかける決心がつきませんでした。
この楽しそうな輪に自分も入りたい。けれど……。
けれど、前のギルドみたいに、私がこの人のギルドを殺す劇薬になってしまったらどうしようって。私が旅を終えるのは、それは仕方のないことかもしれません。
でも、他の人の旅まで終わらせてはしまわないか。それが……とても心配でした。

そのあと、私はもう一回同じ狩場になって、……フレンド交換して、そのあと、確か硫黄D（いおうディー）に誘ってもらったんでしたっけ。確か人数合わせだったんですが。……んで、そのダンジョン攻略のあと、少しだけ話を聴いてもらいました。前のギルドが人間関係のゴタゴタでなくなったこととか、大手とか有名なところにはだいたい入れなくなっちゃったこととか。
そしたら、マスター、「リリ（任意の名前）さん、じゃあうちに来る？」って。

……本当にあの時、すごく救われました。

マスター、本当に、あの時、ギルド「アイディールスカイ」に入れてくれて、本当にありがとうございました。

マスターには、本当にずっと、直接お礼が言いたかったんです。

ふふ、やっと言えました。
オフ会企画してくれたキエさんにも感謝しないとです。
あと、渋々ながらもオフ会の開催を許可してくれたマスターにも、もう一度感謝を。

ふふ、マスターそろそろ集合時間ですね。遅刻組とかいるかもしれませんが、一度戻りましょうか。

……あの、マスター。

私、マスターのこと…………。

……いえ、なんでもないです。

あらためて、感謝していますよ。マスター。

何でもないですって。私、やっぱり劇薬にはなりたくないですから。

いきましょうか。ディスコみたらヒゲチャさんとゴーライさん来てるみたいです。あ、今フィルさんも来たって。合流しましょう。

・台本（ゆるボイ！）
ネトゲのギルドオフ会でギルメンとお話する。
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
剣城・アイスドーラ・凍子