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迷い込んだ裏世界で高身長の旅人に出会う
  • ファンタジー
  • ホラー
公開日2022年10月08日 00:21 更新日2022年10月08日 00:21
文字数
3250文字(約 10分50秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
裏世界の住人、現実世界を目指す旅人
視聴者役柄
裏世界に迷い込んだお客様
場所
果てしなく続く百貨店の裏世界
あらすじ
デパート、百貨店、あるいは大型ショッピングモールで買い物をしていたあなたは
不意に眠気を感じ、目覚めると広大な百貨店の世界に迷い込んでいました。
そこは、現実の裏側の世界。
どこまで行っても果てのない『店内の世界』であなたは長身痩躯の旅人に出会いました。
本編
おい、そこのお前! そこで何してる!

待て、止まれ!

(銃を構え)

止まらんと撃つぞ!

……お前、どこの売り場から来た

タグはどうした?

(間)

お前、外からの『お客様』か?

(銃を下ろして)

一人か?

ここに来るまでに、誰かに出会ったか?

(間)

そうか……大変だったな

驚かせて悪かった

私はー

──!

おい、こっちに来るんだ!

はやくしろ!

走れ!

こっちだ!

はやく! 私の後ろに隠れるんだ!

息を殺して!

(抱きしめられる)

(耳元で囁いて)

落ち着いて……

大丈夫……深呼吸して

奴らは目が悪い

こうして動かなければ

……じきに、見失う

(間)

(呼吸、少し緊張した息遣い)

……どうやら見失ったらしい

離れているな……

慌てるな……

……もう少し、待て

ふう……、もう、大丈夫だな

急に抱きしめたりして、驚かせたな

悪かった

今のか?

ああ、見て分かる通り、人間じゃない

今のは、『歩き回る客』『ウォーカー』と呼ばれている存在だな

『モール』にはびこる危険存在

奴らから武装や知識なしに生き残るのは難しい

(間)

クモとかカニみたいな足に、ヒトに似た身体

ヒトに似た部分には擬態のつもりなのか犠牲者の衣服を身に着ける

そして人を見かけると、一直線に襲い掛かってくる

あれは、そういう生き物だ

出会う機会は多く、襲われればひとたまりもないが

今みたいに対処を知っていればやり過ごすことは可能だ

すまない

自己紹介が遅れた

私は……いや、名前はやめよう

私のことは旅人、そうだな……

ディパーチャー、とでも呼んでくれたらいい

君は……

おい、よく見たら怪我をしているじゃないか

(間)

いいや、ダメだ

ここでは少しの怪我が命の取りになる

ほら、そっちの広場のベンチに座って

そこで、手当てをしてやる

ああ、そうだな

手当ての後、ここのことを少し教えてやる

× × ×

よし、どうだ?

軽く動かしてみろ

……よさそうだな

幸い傷は浅い

何日かすれば治るだろうさ

さ、隣に座れ

もう少し休憩したらいい

(間)

……君は、恐らく外からの『お客様』だな

ということは、そうだな

どこかの町の百貨店に来ていて

そこをふらついていたら、ふと眠気がして、

気が付いたら、いつの間にかこの世界に迷い込んでいた

帰ろうとしても帰れなかった

……そんなところか?

ふふ、そう驚くな

この世界に来た者たちはだいたい同じような体験を語るからな

この世界は住人たちからは『モール』って呼ばれている

いわゆる、異空間とか裏世界ってやつだ

見ての通り、ショッピングモールやら百貨店やらの内装とほとんど同じだが

所々、かなり違っているようだ

常にどことなく薄暗くて、閉店時間が近づくにつれて

徐々に暗くなっていくことだとか

そもそもこんなに広大じゃない、とかね

エクスプローラーたちの調査じゃ

最低でもアラスカ州とやらと同じか、それ以上の面積があるんだとか

そんなわけで、ここは、奇妙なモンスターが跋扈する

一度入ったら出られない

百貨店の内部、って訳だ

……ああ、そんな顔をするな

そんなに悪いことばかりじゃない

目当てのものを見つけるのは大変だが

ここには表世界の店で買えるものならなんだってある

ああ、あと住人の物々交換の補助に、通貨って概念も一応あるにはあるが

この『モール』は世界全体が店で、店主もレジもないんだ

陳列棚のものを持っていくのは、自然の木になる果物を取るのと似たようなものらしい

基本的にはなんでも自由に持って言って良い

何日かすれば自然と補給されるしな

ま、説明はだいたいこんなとこかな?

ここはそんな場所だよ

ほら、頭をかせ

撫でてやろう

(頭を撫でながら)

よし、よし……

本当に、大変だったな

そう嫌がるな

お前は私よりも小さいんだし

ここでの生き方だっては私の方が先輩だ

こういう時は、大きい人に甘えるもんだよ

(頭を撫でて)

よしよし

当座のところは、守ってやる

……当たり前だろう?

ここで君を見捨てていくほど外道ではないさ

ところで、君はどこから来たんだ?

(間)

ふんふん

……ハンバーガー屋さんやらドーナツ屋さんやらが積み重なって

両側に崖のようになっている……というと……

南部の……、フードコート渓谷、か

ずいぶん遠くから来たんだな……

大変だったろうに

──!

(囁き声で)

シッ、静かに!

『ウォーカー』だ

……下手に動くと危ない

そのまま、静かに

こわかったら目を瞑って、私の手を握るんだ

大丈夫……大丈夫だ

奴らは静止したものを認識できない

このまま、止まってやり過ごそう

……行ったようだな

どうやらここは通り道らしい

他の個体が来る前に移動しよう

立てるか?

よし、じゃあ出発するぞ

× × ×

ああ、これから向かう先か?

とりあえず、『レストラン街の国』に行くつもりだ

この近辺で安全な町なら、あそこが一番だろうさ

一日ではたどり着けないが

そこに行くまでに少し大きめの『家具売り場の平原』がある

そこで一泊しよう

今日の目的地はそこだ

しかし……君はこの場所で良く一人で生き残ってこれたな……

フードコート渓谷から来たってことは、何日か歩いただろう?

『モール』に入ってから12時間以内に、誰かに出会って町に入らなかった時、

『お客様』の生存率は10%を切るとも言われているのに

君は本当に凄い奴だ

本当に、えらいぞ

よしよし……

ああ、頭を撫でられるのは嫌いか?

そうか、ふふっ

× × ×

ようやく到着だ

暗くなりきる前に着いて良かった

この辺り一帯が『家具売り場の平原』だ

(腰かける)

ああ、やっぱりソファは気持ちが良いな……

ふう……

近くにベッドもあるな

よし、今日はあそこで寝よう

ん?

ああ、一応夜の時間は、なるべく身を寄せ合ったほうがいい

同じベッドで寝よう

『ウォーカー』のことなら大丈夫だ

奴ら、よほど寝相が悪くない限りは、寝ている奴を見つけられないからな

ふふ、さあ、こっちにおいで

(ベッドまで歩き、寝転ぶ)

……よし

……今日はいっぱい歩いて疲れたろう

大丈夫、なにもしないよ

私の腕の中で、ゆっくり、休むと良い

よしよし

よくがんばったな……

(間)

どうして、か……

そうだな、たぶんだが、全てを捨てて飛び出してきても

本当に一人きりというのは、寂しいから、かもしれないな

(寝物語をする調子で)

……なあ

私が、どうして

旅をしているか、分かるか?

ああ、恐らく君が気付いている通り

私は『モール』の生まれだ

そうさ、私は『お客様』の2世でね

故郷は『総合案内の都市の国』から北東にある『紳士服売り場の森の国』って場所だ

あの高い天井まで届くような、大きな木のような支柱に

螺旋状に金属の枝が突き出していて

そこにスーツやらジャケットやらがたくさん吊られていて……

そんな紳士服の木が無数に乱立するところ

私が住んでいた国では、そんな紳士服の木々の間に建材を渡して……

表世界で言う『ツリーハウス』みたいにして

みんな生活していたんだ

『ウォーカー』、『歩き回る客』は、頭上のことには気が付かないから

あの国は『モール』でも有数の安全地帯だった……

ん?

……ああ、そうだな

確かに、そこで一生を終える選択もあったが……

私は『モール』の外……つまり表世界とか現実世界と呼ばれている場所に行ってみたくてね

(くすりと笑って)

両親からあんなにも外の面白い話を聞かされたんだ、目指したくもなるってもんさ

私はね……空っていうのを、見てみたいんだ

だから、私は、故郷を飛び出して、出国者、ディパーチャーになったってわけさ

……『レストラン街の国』より西の方は、西域さいいき未開域みかいいきって言われていてね

探索がほとんど進んでいない地域なんだ

……なんでも、探索者がほとんど帰ってこない

帰ってきた人たちも、あまり深く探索しなかった者たちだけ、らしい

そういうわけでね、私は『レストラン街の国』を経由して、西域に行ってみようと思ってるんだ

……いいえ

危険だから、つまり、全員が化け物に殺されてしまったから誰も帰ってこない

そういう話も、確かにある

けれど、もう一つ、こういう解釈がある……

そこに、出口が、在る。

(間)

…………ついて、来るかい?

……ううん、無理にとは言わないよ

『レストラン街の国』は食料の確保と安全面の両方で安定した場所だ

そこに留まるのも悪くはない

けれど、もしも、表世界に戻るつもりがあるのなら

居続けるべきじゃない

ある程度の安全はあるけれど

そこでいくら待っても戻ることはできないんだ

……まあ、考えておいてくれ

今日のところは、眠ろう

明日もたくさん歩かないといけない

……おやすみ
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
迷い込んだ裏世界で高身長の旅人に出会う
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
剣城・アイスドーラ・凍子
ライター情報
つるぎ あいすどーら とうこ
剣城・アイスドーラ・凍子です。

駆け出しの台本師

Twitter:@Ice_dola

いろんな設定のシチュエーションを書いていきます。
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