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初めて雪を見る姫様
  • ファンタジー
  • 少女
  • お姫様
公開日2022年10月01日 15:25 更新日2022年10月01日 15:25
文字数
2195文字(約 7分19秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
姫様
視聴者役柄
旅商人
場所
馬車の中
あらすじ
外に出たいという姫様の願いを聞き、外の世界をみせてあげようと一計を案じたあなたは、姫様と共に王城の外に出る。
関所を抜けて北の大地を踏み、そこで初めて雪を見る。大地が白いことに驚き、これが雪なのかと驚きに目を見開く姫様。
この辺りで帰らないかと言うあなただったが、姫を連れて国を出たあなたが、戻れるはずもない。
それに、帰れば、姫様は二度と再びあなたの前に現れることはないだろう。今まで以上の警備の元、城から一歩も出ることなく政略結婚の道具になるだけだ。
そんなのは絶対に嫌だという姫様に、あなたは覚悟を決め、二人で旅立つことに決めたのだった。
本編
ねえ、なにか、羽織はおるもの、ありませんか?

うん、ちょっと肌寒くなってきて

ありがとうございます

ええ、前にも話したことあったかもしれないけれど

私(わたくし)、王城おうじょうの外に出たことがほとんどなかったですから

ええ、この北の土地を踏んだのも、今回が初めてです

まだ、馬車から降りていませんから、正式に北の土地を踏むのはもう少し先、ですが

……ねえ、もう外を見ても大丈夫かしら。せきは越えたのでしょう?

やった! 窓のところ開けますね

ひゃ! さ、寒っ!

ふふ、走っている時に馬車のほろから顔を出すのがこんなにも風を受けるだなんて

驚きました

……もう少しすると一度止まるのでしたっけ

ええ、覚えていますよ

北の土地は『雪』というのが降るから、

一度厩舎きゅうしゃに寄って、雪道でも進めるような馬を借りたり、

雪道を進むための車輪に替えたりしなければいけない

ずいぶん前ですが、そんなことをお話していましたね

ふふ、あなたの言うことはどんな些細ささいなことだって全部覚えています

だって、お城では知りえなかったことを、あなたはたくさん教えてくれたのですもの

お城の外のことは、わたくしにとっては、なんだって新鮮なものでしたから

初めてお話したときは、なんて胡散臭うさんくさい商人さんなのだろうと思いましたが、

いつの間にかあなたのお話に夢中になっていました

わたくしはお話を聴くうちに、外の世界とか、あなたがこれまで生きてきた人生とか、

そんな、本来なら関わることのないことに、興味が出てしまった

こんなだいそれたことをしたのは、きっとそのせいだわ

……くす、くすくす

ふふ、はしたなくてごめんなさい

なんだか、面白くて、笑ってしまいました

城の人はみな王族と貴族だけですから

私が汚い荷馬車の雑多な荷物の中に隠れて運び出されている

だなんて、想像もできなかったでしょうね

城の人の常識では、仮に私が連れ去られることがあったとしても、

その身柄みがらは限りなく丁重ていちょうあつかわれるはずですから

ふふ、私がいなくなったと分かった時の、じいやの顔が思い浮かぶようだわ。

……。

引き返す、最後の機会だなんて、どうしてそんなことを言うんですか?

あなたは、また、私にあの籠の中に戻れというんですか?

籠の中の鳥に手をさし伸ばしておいて、世界の広さを教えておいて、

それで今更、籠の中に戻れ、だなんて、そんな残酷なことをおっしゃるのですか?

それに、……分かっているのですか?

私を馬車に載せて王城に戻るというならば、

あなたは姫をかどわかした罪人ざいにんとしてとらえられるでしょう。

優しいあなたは国境の近くでわたくしを放置する、だなんて、できるはずがないでしょう。

あなたは、わたくしを城まで送り届け……、そして必ず捕らえられる。

姫をかどわかすなんて大罪だわ。きっと広場で磔刑たっけいしょされるでしょうね。

それでも、戻るっていうのですか?

……そう、そこまで私のことを思ってくれているのですね。

あなたは優しいですね。

あなたのそういうところは、とても好ましく思っています。

……だけど。

だけど、あなたは、──ひどい人だわ。

私に自由を……、空の青さと、その高さを教えておきながら、

自分の命を捨ててまで、もう一度籠の中に戻そうというんですから。

確かに、かごの中の鳥は飢えて死ぬこともたかに食べられることもないのでしょう。

つがいだって誰かが勝手に見繕みつくろってくれるのですから、孤独にさいなまれることはありません。

けれど、二度と再び、空の青さを見ることはないのです。

そんなのはもう、絶対に嫌。

……あなたは、王城おうじょうよりも良い生活を保障できない、だとか、

幸せになんてしてやれないなんていう──

──くだらない、心底しんそこくだらない心配なんてしないでください。

私は、あなたにかどわかされたわけではないわ。

その逆。

あなたが、私という毒婦どくふそそのかされたの。

……それでも戻るべきだって、そういうんですか?

……そうですか

わかりました

確かに、わたくしを脱出させるときの、

まるで御伽おとぎばなしに出てくる魔法使いのような手管てくだを見るに、

私を送り返した上で衛士えいしたちから逃げおおせることも、不可能ではないのでしょう

あなたの無事を祈りつつ、わたくしは静かに籠の中に戻ることにいたします

……かごの中の鳥は、飛び方を忘れ、

翼を手に入れてなお、自由に飛ぶことは叶わないのでした

これは、そんな、ただそれだけの、お話……なのでしょうね

でも、最後に一つだけ。願いを聴いてはもらえませんか?

……はい

北の土地を、この足で踏みたいのです

はい……、ありがとう、ございます

降りても、大丈夫ですか?

はい

ふふ、大丈夫ですよ。手を取ってもらわなくても

一人で降りられます

はあ……寒い……ですね

うわあ……すごく、きれい

北の土地というのは、真っ白、なんですね

大地だけじゃなくて、木々や家まで真っ白

……え? これが、雪……なんですか?

いえ……知識としては、知っていました

ですが、こんな美しい景色を作るものだなんて……

ねえ、触ってみても大丈夫でしょうか

火傷とか、なにかそういうのになったりは?

大丈夫なのですか?

ひゃ……つめたい。……なんだか、面白い、感触です

……、あの……わたくし……やっぱり、あなたと共に、きたい

王城の外の暮らしを知らない私は、確かに満足に飛ぶことは叶わないかもしれません

けれでも、あなたのそばで、あなたと、共にいろんなことを知っていきたい

他の誰でもない、あなたとなら

あなたとふたりならば、どこへだって……どこまでだってける

……。いいんですか?

……ありがとう、ございます

泣いてなんて、いません

はい、馬車に戻ります

(息をついて)……。

(遠くを見て)

──さようなら。私の城

いままで、ありがとうございました

では、これから、よろしくおねがいします
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
初めて雪を見る姫様
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
剣城・アイスドーラ・凍子
ライター情報
つるぎ あいすどーら とうこ
剣城・アイスドーラ・凍子です。

駆け出しの台本師

Twitter:@Ice_dola

いろんな設定のシチュエーションを書いていきます。
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