よっ。アンタ、見ない顔だけど、よそ者？

へー。若いのにこんなヤバいとこに来るなんて、度胸あんじゃん。

金が必要だからって……へー、なに？借金？

ふーん…病気の彼女を治すための治療費が必要、ねぇ…

殊勝な心がけだと思うけど、その前に死んじゃうかもよ？

ここ、この界隈でも特にヤバい大会だからさ。

そ、毎回死者が出るくらいのヤバさ。

その代わり、優勝賞金は遊んで暮らせる額が出る。

だからこそ、出場者がいなくならないんだけど。

ま、せいぜい死なない程度に頑張んな。



やるじゃん、アンタ。

大会の常連相手に連勝するなんてさ。

絶対に負けられないからって…

ねー、アンタの彼女ってさ…

もしかしてヤバい病気持ち？

そっか…一刻も早く治療しないと命が…

…この先はさ、もっとヤバい連中が待ち構えてるよ。

そ。命が惜しかったら辞退しな。

はっ…ま、そう言うと思ったけどさ。

とりあえずアンタのこと、くたばらないようには祈っとくよ。



気がついた？

そ、あたし。様子見に来てやったよ。

アンタ、あれ食らってよく生きてたね。

地面に強く叩きつけられて、しばらく動かなかった時は死んだかと思った。

その後、おもむろに起き上がって、とどめ刺しにきた相手をワンパンで沈めたのにはビビったけど。

は？試合前後の記憶がないって…

アンタ大丈夫？それ、流石にヤバない？

てか、身体ん中も、骨やら筋肉やら内臓やらヤバいでしょ？

残念だけど、この辺でリタイアしときな。

もう動ける身体じゃないってのは見てて分かったし。

は？何言って……え、身体の傷、無くなってる…？

いや、いくらなんでもこんな短時間で治るわけ…

あ、マジ？アンタ、特殊能力持ちってやつか…

あー、いるね。この大会にもたまに出てくる。

アンタみたいに回復に特化したのは初めて見たけど。

…アンタさ、自分の彼女がそんなに大事？

仮にこの大会で優勝して莫大な賞金を得られて、治療を受けさせられたとしても、絶対に助けられるとは限らないんだろ？

自分の行いが全部無駄だった時、アンタ、どうするつもり？

あっそ…1%でも可能性があるならそれに賭けるってことね。

そこまで言うんなら、あたしから言うことはないけどさ…

こっから先は優勝候補揃いだけど…やれんの？

はいはい、ちょっとくどすぎたね。悪かったよ。

やれやれ…あたしとしたことが、なんでこんな奴に入れ込んだんだか…

いや、何も。アンタの戦いっぷりは上から見届けとくよ。



優勝おめでと。大健闘だったじゃん。

ん？なんであたしがメインステージにいるかって？

スタジオのアナウンス、聞いてなかった？

これからエキストラマッチ。

「優勝者にはこの大会の元チャンピオンと戦う資格が得られる」ってね。

そ。あたしは前々回と前回のチャンピオン。

今年はまぁ気分が乗らなかったから、参加せずに上から観戦してたんだけど…

アンタ見て気が変わった。

あー、いや。正確にはアンタとアンタを取り巻く環境を知って気が変わったってとこ。

どーいうことだって…

アンタの彼女のこと、調べさせてもらったよ。

難病らしいね。治療の成功率も10%を下回るって。

どんだけ金積んでも成功率がその程度じゃ、もう助からないんじゃない？

そんなことはない？

希望にすがるのは勝手だけどさ、いくらなんでも救いがなさすぎるんじゃない？

ここらでスパッと諦めた方が、楽になれるよ。

アンタも彼女もね。

彼女が助かるなら自分なんてどうなってもいいって…

あーぁ…アンタの方が病気だね、こりゃ。

これが恋の病ってやつか…マジで盲目じゃん。

しゃーない……

(大声で叫ぶように)

おい！ここにいる全員、耳かっぽじってよーく聞け！！！

この試合、あたしが勝ったら、コイツはあたしのモノだ！

あたしはコイツの戦いぶりに惚れた！

病でくたばりかけてる彼女の治療費稼ぐために、命かけてここまで這い上がってきた！

けどなぁ…もうほぼ助からない人間のためにそこまでする必要はねーんだよ！

あたしは！コイツを！恋なんていうおぞましい呪いから解放する！

目ん玉ひん剥いて、あたしの戦い見とけテメーら！

はぁ〜…一気に叫んだらちょい疲れた。

ん？今のは何の真似だって…

アンタを逃さないようにするためだよ。

今ので、この会場にいる全員が証人になったっつーわけ。

もちろん。さっき言ったことは全部本気。

アンタをあたしのモノにして、彼女のとこには帰さないようにする。

応援してくれるんじゃなかったのかって…

あたし、応援するなんて一言も言ってないけど。

アンタのことは気に入ったから、くたばらないように祈る…ってこと言ったくらいでしょ。

分かんないなら何回でも言ってあげる。

アンタはこれから死ぬと分かってる人間のために頑張るべきじゃない。

あたしが彼女だったら、アンタがこんなふうにしてること、絶対良くは思わないね。

アンタには、自分自身のこと大切にしてほしいって思うから。

回復能力があるから問題ないって…

そーいうこと言ってるんじゃないんだよなぁ…

ま、最初から口で説得できるなんて思っちゃいなかったし、いいか。

これ以上観客待たすのもアレだし、そろそろ始めっか。

ふん…そりゃこっちのセリフ。

負けるつもりないのはこっちもだから。

裏武闘会の元チャンピオン、舐めんじゃねえぞ、コラ。



よっ。気ぃついた？

あ？ぐるぐる巻きにされてるのはなんでだって…

そりゃ、さっさと回復されて逃げられちゃ困るからだよ。

まー、けど今回は怪我の治り遅いね。

アンタの回復能力ってさ、アンタ自身の疲労が溜まると遅くなるんじゃない？

いや、なんとなく見ててそう思っただけ。当たり？

ふーん、やっぱり。

あん時、容赦なくボコして正解だったってわけだ。

試合の記憶もあまり無いだろうから、話してやるけど…

アンタ、全身の骨砕かれても速攻回復して、あたしに向かってきたよ。何回も何回も。

流石にヤバかったからさ、本来は衆人の前で晒せないような技まで使っちった。

んー、まぁ地獄絵面だったと思うよ。

血溜まりもステージの何箇所にもできてたし。

流石にあたしも無傷とまではいかなかったな。

アンタの気迫に押されたとこはあるね。

ま、けど結果はご覧の通り。

約束通り、あたしのモノになってもらうよ。

あぁ、それから例の彼女。

もうお亡くなりになったってさ。

嘘じゃないよ。

アンタが何日も眠りこけてる間に、遠くへ逝っちまったんだと。

アンタにとっては残念すぎる結果だろうけど…

ん？俺は何のために戦ってきたんだって…

だから言ったろ？さっさと諦めた方が楽になれるって。

アンタのことはあたしが認めるし、受け入れる。

もうアンタが戦う必要はない。

負った傷はあたしんとこで癒していきな。

ほら…泣きたいなら泣きな？

男だって泣きたい時くらいあるだろ？

こんだけ傷心なら縛る必要もなかったかな…

うん…よしよし。

アンタは何も考えず、あたしに全部委ねてくれりゃいい。

これからはあたしがずっとそばにいてやるから…

・台本（ゆるボイ！）
裏武闘会の女チャンピオンに惚れられて戦う羽目になった
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎