- 嫉妬
- ファンタジー
- 妹
- ヤンデレ
公開日2021年11月28日 11:39
更新日2021年11月28日 11:40
文字数
6826文字(約 22分46秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
妹
視聴者役柄
兄
場所
兄の部屋
あらすじ
大学で地元を離れて暮らすあなたもとに、サンタの格好をした妹が訪ねてきた。今日はクリスマスだ。
妹はあなたを起こすと、手料理を食べさせてくれる。料理は不得意ながらも頑張ってくれたようだ。
クリスマスを一緒に過ごしたいと妹は言うが、あなたは友達と遊びに行く予定があった。
そう言うと妹は、絶対に行かせないと、あなたが行くのを止めてきて……。
妹はあなたを起こすと、手料理を食べさせてくれる。料理は不得意ながらも頑張ってくれたようだ。
クリスマスを一緒に過ごしたいと妹は言うが、あなたは友達と遊びに行く予定があった。
そう言うと妹は、絶対に行かせないと、あなたが行くのを止めてきて……。
本編
お兄ちゃん、メリークリスマス!
えへへ、寝起きのところ失礼失礼!
驚かせようと思って、こっそり来ちゃった。
ねえ、びっくりした? びっくりした?
なんで部屋の中にいるのかって、私はお兄ちゃんの妹だよ。
お兄ちゃんが、『なくさないまでも部屋のカギをどこにしまったか分からなくなりがち』ってことは知ってるし、そのせいで、『どうせ泥棒なんでこないだろう』ってカギをかけてないのも知ってるよ。
妹の私は、お兄ちゃんのこと、なーんでも知ってるの。
だから、今日というクリスマスイブの夜でも普通に部屋にいることも知ってるんだよ。
あはっ! ごめんね! 怒った? 怒った?
ふふ、メリークリスマス。
え? この格好? そう、サンタさん。
じゃん! 『毎日がクリスマスの国』から来た妹サンタさんですよ~
プレゼントは、私、妹だよ~
……スルーしないでよ。おにいちゃんのいじわる。
まあ、冗談はさておき、せっかく寝起きドッキリよろしく朝一で来たし、急に来たお詫びとかあったから、朝ごはん、作ってみたんだけど、……食べる?
あ、まずはお顔洗ってきて。その間に準備しとくから。
(ジャーと水を流すSE)
目は覚めた。
じゃあ、はい! 妹サンタの手作り朝ごはん!
……えへへ。
……そうなの。あのね、私って実はロクに料理なんてしたことなくて。
見ての通り、あんまり上手にできなかったの。ごめん。
意外だった? でも、私が台所に立ってるところ、見たことある?
無いでしょ。
だから、ほとんど見よう見まねで作ってみたって感じ。
そうなの。初めて。
ごめんね。
あの、無理して食べなくてもいいんだよ。
別に、私なんかが作った残念な料理なんて、お兄ちゃんの口には合わないだろうから。
食べてくれるの? 本当?
お兄ちゃん、昔から思ってたけど、やっぱり優しいよね……。
じゃあ、お手々を合わせて、メリークリスマス(「いただきます」のイントネーションで)。
……お兄ちゃん、えーっと、……妹の手料理、味は……どうかな? どうかな?
美味しい? 本当に? お世辞なんて言わなくてもいいよ。
だって見た目が……。
ふふ……そうだね。確かに、お兄ちゃんの言う通り。
多少見た目が悪くても、食べちゃえば形なんてわからないもんね!
(もぐもぐと食べる)
確かに、ちょっと焼きすぎたりしたところもあるけど、美味しい。
良かった……。見た目があんまりだから、食べられないほど不味 かったらどうしようかと思った。
……それにしても、すごいねえ。
お兄ちゃん、私とひとつしか違わないのに。
大学にいくために実家を出て、一人暮らしをしてて……。
なんかさ、ひとつしか違わないのに、すっごい大人だよね。
今日はじめて料理作ってみたんだけどさ、けっこう大変だよね。
慣れれば簡単なの? ……そうかなぁ……。
それだけでもお兄ちゃんってすごいんだなぁって。
なんか、改めて尊敬しちゃった。ふふふ。
(間)
というか、今日も寒いねえ。
私がいたところも寒かったけど、こっちの地方はこっちの地方で、また違った寒さがあるね。
うん、寒さの質がちょっと違う感じ。
お兄ちゃんがこっちの大学に行くって聞いた時、温かそうなところでいいなって思ってたんだけど、すごく寒いよ。
実際この辺のほうが気温は高いと思うんだけど、なんか寒さの感じ方が違うって感じ。
上手く表現するのは難しいけど。こっちはこっちで寒いんだねえ。
ふふ、薄着 してこなくてよかった~。
所詮 雪国じゃないだろ~って舐 めて薄着 して来たら凍死するところだった。
窓の外もうっすら銀世界だし。
そうだよ? お兄ちゃん、まだ窓の外見てなかった?
昨日まで積もってなかったの? ……そうなんだ。
見る? ほら。
ね、町中がうっすら白くなって、雪化粧って感じでしょ。
なんか、ホワイトクリスマスのために雪が降ってくれた、みたいな感じでロマンチックだね。
ふふ、いまなら雪だるま作ったり、雪合戦したりできそう。
ねえねえ、お兄ちゃん。
えっとさ、クリスマスだからってわけじゃないんだけど、今日、一緒に街に出て……えっと、恥ずかしいな……。
あの、兄と妹の──兄妹 デートみたいな。
そういうの、したいんだけど……。ダメ……、かな……。
えへへ。
うん。街の方に出て、カップルがするみたいに、ウィンドウショッピングしたり、喫茶店に入ってのんびりしたり……イルミネーションの夜景をみたり。
そういう、普通の人がするようなやつ。
え? いいじゃん別に。誰かに見られても。
妹と一緒にいるくらいで冷やかされるかなあ。
というか、もしそうだったら新しくできた彼女って、そういう方向でごまかせばよくない?
お兄ちゃん、どうせ彼女なんていないんだから、勘違いされたところでそんなに不都合はないと思うんだけど?
むしろ、彼女がいる勝ち組感! みたいなの出ていいじゃん。
私、幸いというかなんていうか、お兄ちゃんに似てなくて美少女って感じだし?
妹ってばれないと思うよ。
うーん、そっか……。
じゃあ、あれかな。
お兄ちゃんがサブスクで登録してるとこで、クリスマスっぽい映画、一緒に見る?
外にでるのが、どーしても嫌だったらそういうのでもいいよ。
……え?
友達と……一緒に遊ぶ約束?
えー、せっかくだから、クリスマスは妹サンタさんと一緒に過ごそうよー……。
前から約束してたの? そう……なんだ。
えー、……えっと、えっと、えっとね。じゃあ私も付いていきたい。
いいじゃん別に! それとも何? 友達と遊ぶのに妹がいたら、なにか不都合なの?
……それ、本当にお友達なの? ねえ、その友達と二人で遊ぶの?
そうなんだ。
ねえ、お兄ちゃん。その友達って、どっち?
男の人? それとも、女の人?
……ふーん、関係ないとか、そういうこと言っちゃうんだ。
ふふっ、ていうかお兄ちゃん。それ、答え言ってるのと一緒じゃない?
へえ~、女の子と二人きりで遊びに行くんだ。
あはっ、下衆 の勘繰 り?
お兄ちゃん、ずいぶん難しい言葉使うんだね。
ただの友達。そういうことでいいの?
ふうん……。せっかくやって来た妹サンタさんよりも、『ただの』友達を優先するんだ。
というか、ただの友達って絶対嘘。
クリスマスに女の子と二人で会うって、絶対そういうことじゃん。
というか、お兄ちゃんが会う人ってあれでしょ。
同じゼミの茶髪の巻き毛でほわーんとした天然っぽい人。
何で知ってるのかって? 言ったじゃん。
妹の私は、お兄ちゃんのこと、何でも知ってるの。
そう。なんでも。
6歳の時に妹がほしいってサンタさんにお願いしてたこととか。
小学校の時に告白してもいない人から突然振られて傷ついたこととか。
高校の時に嘘の告白で騙されて、それからちょっと人間不信になっちゃってたこととか。
そういうこと全部、私はお兄ちゃんの妹だから、なんでもしってる。
まあ、仮にさ、お兄ちゃんが、あの人のこと友達だと思ってたとしてもさ、向こうはそう思ってないよ。
分からない? お兄ちゃんのこと、すっごい色目使って見てるの。
……行かせないから。
行かせるわけないじゃん。
やだ。どかない。
せっかくお兄ちゃんのところに来れたのに、なんでお兄ちゃんが他の女に取られるところをみせられないといけないの?
……ふうん。
……渡さない。
お兄ちゃんのこと何も知らないくせに、お兄ちゃんのことを狙うなんて許せない。
心の拠り所にしたのは私が先なんだから、絶対に渡さない。
お兄ちゃんは私の希望、私の光。
そんな、大学で同じゼミになって……たまたま新歓コンパで好きなバンドが一緒だったとか、ただそれだけのことで、勝手に運命を感じている人なんかに、奪われたくない。
……冷静になって。お兄ちゃん。
そんなの、運命でも何でもないんだよ。お兄ちゃん。
同じ国に住んでいて、同じ世代なら、好きなバンドが一緒ってぐらい、ぜんぜんあり得る話。
運命には、あまりに遠すぎるよ。
ねえ、お兄ちゃん。そんな、運命なんて軽々しく口にする女の人のところになんか、行かないで。
……どうしたの、そんな顔して。
私がそんなにお兄ちゃんのこと詳しいの、そんなに不思議?
……妹の私はなんでも知っているって、言ったでしょ。
妹なんだから、そのくらいわかって当然。そうでしょ?
本当は、お兄ちゃんがあの人に心惹かれていることだって、知ってる。
でもだめ。
お兄ちゃんだって、本当は気付いているはずだよ。
あの女の人が、入学してからずっと、男の人を食い荒らしてる悪女、サークルクラッシャーっていうんだっけ? そんな噂、聴いたことないわけじゃないでしょう?
……噂は信じない。言葉はかっこいいし、そんな優しいお兄ちゃんのこと、妹の私は好ましいと思う。だけれど、
本当のことを知るために行動せずに、ただ信じたいって望みを言うだけなのは、見たくないものを見ないようにしているだけだよ。
そんなことまで? ううん、私はお兄ちゃんとずっと一緒にいるんだから、知っていて当然だよ。
お兄ちゃん、どうしたの? お兄ちゃん。そんな、後ずさりなんかして。
なにか怖いことでもあった?
──何言っているの? お兄ちゃん。
私はクリスマスの日にやってきた妹サンタ。私はお兄ちゃんの妹。
私のこと、忘れたわけじゃないよね。
……。
そっか。そうだよね。
…………あの女の人のところに行かせないようにって思う気持ちが先走って、ミスっちゃったなあ…………。
わかっちゃうよね。
お兄ちゃんのこと、何でも知ってる。
いつだって隣で見てきたみたいに、知っている。
だから、いつだってお兄ちゃんの隣には私が一緒にいたはず。
でも、お兄ちゃんの思い出の中に、私の姿、無いもんね。
私が、本当は妹じゃないことくらい、気付いちゃうよね……。
けっこう重めの暗示かかってたはずだけど……ダメだったか。
……逃げないの? 私、あなたとは一切関係のない、妹を名乗る不審者だよ。
……。
……説明?
そっか、お兄ちゃんはこんな不審者にも、ちゃんと話を聞くんだね。
お兄ちゃん、……本当に、優しいよね。
そのやさしさ……本当に心配。
……。
長くなるから、座っていいよ。
お兄ちゃん、隣、座ってもいい?
ありがとう。
……。
お兄ちゃんを起こしたときに、私がどこから来たって言っていたか、覚えてる?
うん。そう、『毎日がクリスマスの国』
私は、そこから来たの。
どんなところだと思う? 『毎日がクリスマスの国』って。
そう。毎日。
楽しそうに思う? 確かに、初めの1週間くらいはそうかもしれないね。
でもね、おにいちゃん。その国に変化なんてものはないの。
カレンダーの日付は365日全てが12月25日。
楽しげなクリスマスソングで目が覚めたら、
いつも同じように、枕元には「靴下に入ったプレゼント」が置いてあって、
目覚めのあいさつはメリークリスマス……。
いや、そもそもあいさつが、全部メリークリスマスなの。
だから、外で人に出会ってもメリークリスマス。ご飯の前にメリークリスマス。夜寝るときにもメリークリスマスなんだ、あそこは。
食事はクリスマスケーキとジンジャーブレッド、それから七面鳥 と、付け合わせのサラダだけ。
聞いてる分には面白いでしょ? でもね。それがクリスマスっていう特別な日だけじゃないの。
毎日毎日。何年もずうーっと、そうなの。
季節もなければはっきりした昼夜もなくて、ずーっと日が沈んだ直後みたいな薄暗さで、
天気もいつだって静かに雪が降る曇り空。
なんとなくいつも薄暗いから、それをごまかすみたいに辺り一面がイルミネーションに包まれているの。
だから、あの国には昨日と同じ今日しかないの。
……そうだね。お兄ちゃんが言う通り、私が知る限り、この世のどこかにある国、じゃないよ。
異世界……というよりは、現世 と幽世 の狭間 みたいな、……たぶんだけど、あそこはそんな場所。
私は、5歳の時にその国に迷い込んだ。……連れてこられたが正しいかな?
きっと、どこかで見たクリスマスの景色を、あまりにもうらやましいと思ったから。
家族と過ごすのよりもずっと楽しそうだと思ったから。
だから私は、あの国につながってしまったんだと思う。
あの国に来た人はね、初めはその楽しさに目を輝かせて、そのあとに代わり映えのしない日々に嫌になって……そして、順応するの。
……、そう、順応。
嫌になって、こんなところもう嫌だって言い始めてもさ。
ひと月もしたら、ミュージカルアニメ映画の登場人物みたいに、コミカルな歌と踊りでクリスマスを賛美するようになっちゃうんだ。
私は……ね。これを『クリスマセイション』、クリスマス化って呼んで、怖がってた。
クリスマス化しちゃった人はね、『毎日がクリスマス』が当たり前になって、その常識にこれまでの常識が上書きされてしまうの。
そうなったら、もう『毎日がクリスマスの国』の外では生きられない。
それに、あの国にしばらくいた人は、こっちの世界では忘れ去られてしまう。
……? 私? うん。私もそう。この世界では忘れられた誰か。
でも、私は、クリスマス化しなかった。少しあそこの習慣は沁みついるけれど、クリスマスに飲まれず、正気のまま過ごすことができた。
それはね、お兄ちゃんのおかげ。
お兄ちゃんがいたから、私はクリスマス化せずに、あの国から抜け出すことができた。
うん、お兄ちゃんだけが、私の希望だったんだ。
……。
うん、そうだね。お兄ちゃんが言う通り、5歳の子がそんな常に冬の国で生きていけるわけがない。
大人の人と一緒に住んでいたんだ。
私が一緒に住んでいたのはサンタのおじさん。
サンタのおじさんはね、確かに本物だったよ。
どこかの子供が「欲しい」って言ってるものを聴いて、子供にそのプレゼントを届ける。そういう存在って意味ではね。
けれども、あのサンタのおじさんに倫理観 みたいなものは無かった。
子供におもちゃを届けるために、どこかからおもちゃを奪 う。
子供の願いを叶えるために、誰かの願いを潰す。
あの人はね、『サンタ』っていう伝承を纏 った悪霊 とか、妖怪とか、アンシリーコートとか、多分そういう類 の存在だったんだ。
……ふふ。
もしかして、気付いちゃった?
お兄ちゃん、勘がいいからね。
……。
あの……ね。
お兄ちゃん、ショックを受けずに、聴いてね。
お兄ちゃんは、6歳の時に、サンタさんに、こうお願いしたはず。
『クリスマスプレゼントに、妹が欲しい』
当然、その願いがクリスマスの日に叶えられるはずもない。
その時に、『サンタのおじさん』は偶然、あなたの「叶えられることがなかった願い」を聞いてしまった。
あのサンタのおじさんは、子供が欲しがるものをいかなる手段を使ってもどこかから調達する。
そう。
私はあなたの妹として『プレゼント』されるために、攫 われてきた、誰でもない誰か、だよ。
けれど、その年に私は『プレゼント』されなかった。
だって私は、『どこの誰とも知れない女の子』、ではあったけれど、『お兄ちゃんの妹』ではなかったから。
私は、そこから十数年、『お兄ちゃんの妹』になるために育てられた。
それが、私。
どうして、謝るの?
お兄ちゃん、頭を上げて?
……そんな顔、しないでよ。
私、別にお兄ちゃんのこと恨んだりしてない。
むしろ逆。私は、お兄ちゃんに感謝してるの。
あのクリスマスしかない……クリスマス以外の存在が許されないあの国で、私が自分を見失わずに、私としてあり続けられたのは、お兄ちゃんがいたから。
私はね、お兄ちゃんの妹になるために、お兄ちゃんのことをたくさん勉強したんだ。
あの国には、知識すらクリスマスに関係したものしかなかったけれど、お兄ちゃんだけは例外。
私は『お兄ちゃんの妹』になるために育てられたから、お兄ちゃんのことだけは知ることができた。
お兄ちゃんは、頭がよくてたくさんいろんな体験とか勉強をしていたから、私はお兄ちゃんのことだけじゃなくて、お兄ちゃんという存在を通して、外の世界のことをたくさん勉強できた。
それで……ね。
私は、お兄ちゃんのことを知れば知るだけ、好きになっていった。
この人の妹になれたら、どんなに幸せだろうって、毎日そう思って過ごしてきた。
お兄ちゃんは私の希望、私の光。
それでね、今日、漸 く、『どこの誰とも知れない女の子』じゃなくて『お兄ちゃんの妹』だって認められて、
『サンタのおじさん』がプレゼントを届けるときに使う魔法を使って、お兄ちゃんの下にやってきた。そういうこと。
……お兄ちゃん、だまして、ごめんなさい。
私は、あなたの妹ではなくて、本当は赤の他人。
妹を名乗る不審者。本当に、正しい意味で、どこの馬の骨ともわからぬ何者か、なの。
お兄ちゃんの妹、っていうのは嘘、偽 り、まやかし。
でも、でもね。
私が、お兄ちゃんのことをお兄ちゃんだって思っていること、これだけは本当。
私の自慢の、大切な、私のお兄ちゃん。
ねえ、お兄ちゃん。
行かないで。私から離れて、遠くに行かないで。
クリスマスが終わったらどこへでも放逐 して構わないから……。
今日だけでいいから……そばにいて。
クリスマスを妹と一緒に過ごそう?
……無理なお願いだってわかってる。
でも……。
……ライン……するの?
あの人に……? なんて……?
…………。
良かったの? お兄ちゃん……、あの女の人とクリスマスを過ごすの、楽しみに、していたんじゃないの?
ごめんね、お兄ちゃん。無理言って。
……そうなのかな? 本当に友達よりも妹を取る方が普通?
ふふ……。お兄ちゃん……。
あのね、私、お兄ちゃんの妹になれて、……嬉しい。
えへへ、寝起きのところ失礼失礼!
驚かせようと思って、こっそり来ちゃった。
ねえ、びっくりした? びっくりした?
なんで部屋の中にいるのかって、私はお兄ちゃんの妹だよ。
お兄ちゃんが、『なくさないまでも部屋のカギをどこにしまったか分からなくなりがち』ってことは知ってるし、そのせいで、『どうせ泥棒なんでこないだろう』ってカギをかけてないのも知ってるよ。
妹の私は、お兄ちゃんのこと、なーんでも知ってるの。
だから、今日というクリスマスイブの夜でも普通に部屋にいることも知ってるんだよ。
あはっ! ごめんね! 怒った? 怒った?
ふふ、メリークリスマス。
え? この格好? そう、サンタさん。
じゃん! 『毎日がクリスマスの国』から来た妹サンタさんですよ~
プレゼントは、私、妹だよ~
……スルーしないでよ。おにいちゃんのいじわる。
まあ、冗談はさておき、せっかく寝起きドッキリよろしく朝一で来たし、急に来たお詫びとかあったから、朝ごはん、作ってみたんだけど、……食べる?
あ、まずはお顔洗ってきて。その間に準備しとくから。
(ジャーと水を流すSE)
目は覚めた。
じゃあ、はい! 妹サンタの手作り朝ごはん!
……えへへ。
……そうなの。あのね、私って実はロクに料理なんてしたことなくて。
見ての通り、あんまり上手にできなかったの。ごめん。
意外だった? でも、私が台所に立ってるところ、見たことある?
無いでしょ。
だから、ほとんど見よう見まねで作ってみたって感じ。
そうなの。初めて。
ごめんね。
あの、無理して食べなくてもいいんだよ。
別に、私なんかが作った残念な料理なんて、お兄ちゃんの口には合わないだろうから。
食べてくれるの? 本当?
お兄ちゃん、昔から思ってたけど、やっぱり優しいよね……。
じゃあ、お手々を合わせて、メリークリスマス(「いただきます」のイントネーションで)。
……お兄ちゃん、えーっと、……妹の手料理、味は……どうかな? どうかな?
美味しい? 本当に? お世辞なんて言わなくてもいいよ。
だって見た目が……。
ふふ……そうだね。確かに、お兄ちゃんの言う通り。
多少見た目が悪くても、食べちゃえば形なんてわからないもんね!
(もぐもぐと食べる)
確かに、ちょっと焼きすぎたりしたところもあるけど、美味しい。
良かった……。見た目があんまりだから、食べられないほど
……それにしても、すごいねえ。
お兄ちゃん、私とひとつしか違わないのに。
大学にいくために実家を出て、一人暮らしをしてて……。
なんかさ、ひとつしか違わないのに、すっごい大人だよね。
今日はじめて料理作ってみたんだけどさ、けっこう大変だよね。
慣れれば簡単なの? ……そうかなぁ……。
それだけでもお兄ちゃんってすごいんだなぁって。
なんか、改めて尊敬しちゃった。ふふふ。
(間)
というか、今日も寒いねえ。
私がいたところも寒かったけど、こっちの地方はこっちの地方で、また違った寒さがあるね。
うん、寒さの質がちょっと違う感じ。
お兄ちゃんがこっちの大学に行くって聞いた時、温かそうなところでいいなって思ってたんだけど、すごく寒いよ。
実際この辺のほうが気温は高いと思うんだけど、なんか寒さの感じ方が違うって感じ。
上手く表現するのは難しいけど。こっちはこっちで寒いんだねえ。
ふふ、
窓の外もうっすら銀世界だし。
そうだよ? お兄ちゃん、まだ窓の外見てなかった?
昨日まで積もってなかったの? ……そうなんだ。
見る? ほら。
ね、町中がうっすら白くなって、雪化粧って感じでしょ。
なんか、ホワイトクリスマスのために雪が降ってくれた、みたいな感じでロマンチックだね。
ふふ、いまなら雪だるま作ったり、雪合戦したりできそう。
ねえねえ、お兄ちゃん。
えっとさ、クリスマスだからってわけじゃないんだけど、今日、一緒に街に出て……えっと、恥ずかしいな……。
あの、兄と妹の──
そういうの、したいんだけど……。ダメ……、かな……。
えへへ。
うん。街の方に出て、カップルがするみたいに、ウィンドウショッピングしたり、喫茶店に入ってのんびりしたり……イルミネーションの夜景をみたり。
そういう、普通の人がするようなやつ。
え? いいじゃん別に。誰かに見られても。
妹と一緒にいるくらいで冷やかされるかなあ。
というか、もしそうだったら新しくできた彼女って、そういう方向でごまかせばよくない?
お兄ちゃん、どうせ彼女なんていないんだから、勘違いされたところでそんなに不都合はないと思うんだけど?
むしろ、彼女がいる勝ち組感! みたいなの出ていいじゃん。
私、幸いというかなんていうか、お兄ちゃんに似てなくて美少女って感じだし?
妹ってばれないと思うよ。
うーん、そっか……。
じゃあ、あれかな。
お兄ちゃんがサブスクで登録してるとこで、クリスマスっぽい映画、一緒に見る?
外にでるのが、どーしても嫌だったらそういうのでもいいよ。
……え?
友達と……一緒に遊ぶ約束?
えー、せっかくだから、クリスマスは妹サンタさんと一緒に過ごそうよー……。
前から約束してたの? そう……なんだ。
えー、……えっと、えっと、えっとね。じゃあ私も付いていきたい。
いいじゃん別に! それとも何? 友達と遊ぶのに妹がいたら、なにか不都合なの?
……それ、本当にお友達なの? ねえ、その友達と二人で遊ぶの?
そうなんだ。
ねえ、お兄ちゃん。その友達って、どっち?
男の人? それとも、女の人?
……ふーん、関係ないとか、そういうこと言っちゃうんだ。
ふふっ、ていうかお兄ちゃん。それ、答え言ってるのと一緒じゃない?
へえ~、女の子と二人きりで遊びに行くんだ。
あはっ、
お兄ちゃん、ずいぶん難しい言葉使うんだね。
ただの友達。そういうことでいいの?
ふうん……。せっかくやって来た妹サンタさんよりも、『ただの』友達を優先するんだ。
というか、ただの友達って絶対嘘。
クリスマスに女の子と二人で会うって、絶対そういうことじゃん。
というか、お兄ちゃんが会う人ってあれでしょ。
同じゼミの茶髪の巻き毛でほわーんとした天然っぽい人。
何で知ってるのかって? 言ったじゃん。
妹の私は、お兄ちゃんのこと、何でも知ってるの。
そう。なんでも。
6歳の時に妹がほしいってサンタさんにお願いしてたこととか。
小学校の時に告白してもいない人から突然振られて傷ついたこととか。
高校の時に嘘の告白で騙されて、それからちょっと人間不信になっちゃってたこととか。
そういうこと全部、私はお兄ちゃんの妹だから、なんでもしってる。
まあ、仮にさ、お兄ちゃんが、あの人のこと友達だと思ってたとしてもさ、向こうはそう思ってないよ。
分からない? お兄ちゃんのこと、すっごい色目使って見てるの。
……行かせないから。
行かせるわけないじゃん。
やだ。どかない。
せっかくお兄ちゃんのところに来れたのに、なんでお兄ちゃんが他の女に取られるところをみせられないといけないの?
……ふうん。
……渡さない。
お兄ちゃんのこと何も知らないくせに、お兄ちゃんのことを狙うなんて許せない。
心の拠り所にしたのは私が先なんだから、絶対に渡さない。
お兄ちゃんは私の希望、私の光。
そんな、大学で同じゼミになって……たまたま新歓コンパで好きなバンドが一緒だったとか、ただそれだけのことで、勝手に運命を感じている人なんかに、奪われたくない。
……冷静になって。お兄ちゃん。
そんなの、運命でも何でもないんだよ。お兄ちゃん。
同じ国に住んでいて、同じ世代なら、好きなバンドが一緒ってぐらい、ぜんぜんあり得る話。
運命には、あまりに遠すぎるよ。
ねえ、お兄ちゃん。そんな、運命なんて軽々しく口にする女の人のところになんか、行かないで。
……どうしたの、そんな顔して。
私がそんなにお兄ちゃんのこと詳しいの、そんなに不思議?
……妹の私はなんでも知っているって、言ったでしょ。
妹なんだから、そのくらいわかって当然。そうでしょ?
本当は、お兄ちゃんがあの人に心惹かれていることだって、知ってる。
でもだめ。
お兄ちゃんだって、本当は気付いているはずだよ。
あの女の人が、入学してからずっと、男の人を食い荒らしてる悪女、サークルクラッシャーっていうんだっけ? そんな噂、聴いたことないわけじゃないでしょう?
……噂は信じない。言葉はかっこいいし、そんな優しいお兄ちゃんのこと、妹の私は好ましいと思う。だけれど、
本当のことを知るために行動せずに、ただ信じたいって望みを言うだけなのは、見たくないものを見ないようにしているだけだよ。
そんなことまで? ううん、私はお兄ちゃんとずっと一緒にいるんだから、知っていて当然だよ。
お兄ちゃん、どうしたの? お兄ちゃん。そんな、後ずさりなんかして。
なにか怖いことでもあった?
──何言っているの? お兄ちゃん。
私はクリスマスの日にやってきた妹サンタ。私はお兄ちゃんの妹。
私のこと、忘れたわけじゃないよね。
……。
そっか。そうだよね。
…………あの女の人のところに行かせないようにって思う気持ちが先走って、ミスっちゃったなあ…………。
わかっちゃうよね。
お兄ちゃんのこと、何でも知ってる。
いつだって隣で見てきたみたいに、知っている。
だから、いつだってお兄ちゃんの隣には私が一緒にいたはず。
でも、お兄ちゃんの思い出の中に、私の姿、無いもんね。
私が、本当は妹じゃないことくらい、気付いちゃうよね……。
けっこう重めの暗示かかってたはずだけど……ダメだったか。
……逃げないの? 私、あなたとは一切関係のない、妹を名乗る不審者だよ。
……。
……説明?
そっか、お兄ちゃんはこんな不審者にも、ちゃんと話を聞くんだね。
お兄ちゃん、……本当に、優しいよね。
そのやさしさ……本当に心配。
……。
長くなるから、座っていいよ。
お兄ちゃん、隣、座ってもいい?
ありがとう。
……。
お兄ちゃんを起こしたときに、私がどこから来たって言っていたか、覚えてる?
うん。そう、『毎日がクリスマスの国』
私は、そこから来たの。
どんなところだと思う? 『毎日がクリスマスの国』って。
そう。毎日。
楽しそうに思う? 確かに、初めの1週間くらいはそうかもしれないね。
でもね、おにいちゃん。その国に変化なんてものはないの。
カレンダーの日付は365日全てが12月25日。
楽しげなクリスマスソングで目が覚めたら、
いつも同じように、枕元には「靴下に入ったプレゼント」が置いてあって、
目覚めのあいさつはメリークリスマス……。
いや、そもそもあいさつが、全部メリークリスマスなの。
だから、外で人に出会ってもメリークリスマス。ご飯の前にメリークリスマス。夜寝るときにもメリークリスマスなんだ、あそこは。
食事はクリスマスケーキとジンジャーブレッド、それから
聞いてる分には面白いでしょ? でもね。それがクリスマスっていう特別な日だけじゃないの。
毎日毎日。何年もずうーっと、そうなの。
季節もなければはっきりした昼夜もなくて、ずーっと日が沈んだ直後みたいな薄暗さで、
天気もいつだって静かに雪が降る曇り空。
なんとなくいつも薄暗いから、それをごまかすみたいに辺り一面がイルミネーションに包まれているの。
だから、あの国には昨日と同じ今日しかないの。
……そうだね。お兄ちゃんが言う通り、私が知る限り、この世のどこかにある国、じゃないよ。
異世界……というよりは、
私は、5歳の時にその国に迷い込んだ。……連れてこられたが正しいかな?
きっと、どこかで見たクリスマスの景色を、あまりにもうらやましいと思ったから。
家族と過ごすのよりもずっと楽しそうだと思ったから。
だから私は、あの国につながってしまったんだと思う。
あの国に来た人はね、初めはその楽しさに目を輝かせて、そのあとに代わり映えのしない日々に嫌になって……そして、順応するの。
……、そう、順応。
嫌になって、こんなところもう嫌だって言い始めてもさ。
ひと月もしたら、ミュージカルアニメ映画の登場人物みたいに、コミカルな歌と踊りでクリスマスを賛美するようになっちゃうんだ。
私は……ね。これを『クリスマセイション』、クリスマス化って呼んで、怖がってた。
クリスマス化しちゃった人はね、『毎日がクリスマス』が当たり前になって、その常識にこれまでの常識が上書きされてしまうの。
そうなったら、もう『毎日がクリスマスの国』の外では生きられない。
それに、あの国にしばらくいた人は、こっちの世界では忘れ去られてしまう。
……? 私? うん。私もそう。この世界では忘れられた誰か。
でも、私は、クリスマス化しなかった。少しあそこの習慣は沁みついるけれど、クリスマスに飲まれず、正気のまま過ごすことができた。
それはね、お兄ちゃんのおかげ。
お兄ちゃんがいたから、私はクリスマス化せずに、あの国から抜け出すことができた。
うん、お兄ちゃんだけが、私の希望だったんだ。
……。
うん、そうだね。お兄ちゃんが言う通り、5歳の子がそんな常に冬の国で生きていけるわけがない。
大人の人と一緒に住んでいたんだ。
私が一緒に住んでいたのはサンタのおじさん。
サンタのおじさんはね、確かに本物だったよ。
どこかの子供が「欲しい」って言ってるものを聴いて、子供にそのプレゼントを届ける。そういう存在って意味ではね。
けれども、あのサンタのおじさんに
子供におもちゃを届けるために、どこかからおもちゃを
子供の願いを叶えるために、誰かの願いを潰す。
あの人はね、『サンタ』っていう伝承を
……ふふ。
もしかして、気付いちゃった?
お兄ちゃん、勘がいいからね。
……。
あの……ね。
お兄ちゃん、ショックを受けずに、聴いてね。
お兄ちゃんは、6歳の時に、サンタさんに、こうお願いしたはず。
『クリスマスプレゼントに、妹が欲しい』
当然、その願いがクリスマスの日に叶えられるはずもない。
その時に、『サンタのおじさん』は偶然、あなたの「叶えられることがなかった願い」を聞いてしまった。
あのサンタのおじさんは、子供が欲しがるものをいかなる手段を使ってもどこかから調達する。
そう。
私はあなたの妹として『プレゼント』されるために、
けれど、その年に私は『プレゼント』されなかった。
だって私は、『どこの誰とも知れない女の子』、ではあったけれど、『お兄ちゃんの妹』ではなかったから。
私は、そこから十数年、『お兄ちゃんの妹』になるために育てられた。
それが、私。
どうして、謝るの?
お兄ちゃん、頭を上げて?
……そんな顔、しないでよ。
私、別にお兄ちゃんのこと恨んだりしてない。
むしろ逆。私は、お兄ちゃんに感謝してるの。
あのクリスマスしかない……クリスマス以外の存在が許されないあの国で、私が自分を見失わずに、私としてあり続けられたのは、お兄ちゃんがいたから。
私はね、お兄ちゃんの妹になるために、お兄ちゃんのことをたくさん勉強したんだ。
あの国には、知識すらクリスマスに関係したものしかなかったけれど、お兄ちゃんだけは例外。
私は『お兄ちゃんの妹』になるために育てられたから、お兄ちゃんのことだけは知ることができた。
お兄ちゃんは、頭がよくてたくさんいろんな体験とか勉強をしていたから、私はお兄ちゃんのことだけじゃなくて、お兄ちゃんという存在を通して、外の世界のことをたくさん勉強できた。
それで……ね。
私は、お兄ちゃんのことを知れば知るだけ、好きになっていった。
この人の妹になれたら、どんなに幸せだろうって、毎日そう思って過ごしてきた。
お兄ちゃんは私の希望、私の光。
それでね、今日、
『サンタのおじさん』がプレゼントを届けるときに使う魔法を使って、お兄ちゃんの下にやってきた。そういうこと。
……お兄ちゃん、だまして、ごめんなさい。
私は、あなたの妹ではなくて、本当は赤の他人。
妹を名乗る不審者。本当に、正しい意味で、どこの馬の骨ともわからぬ何者か、なの。
お兄ちゃんの妹、っていうのは嘘、
でも、でもね。
私が、お兄ちゃんのことをお兄ちゃんだって思っていること、これだけは本当。
私の自慢の、大切な、私のお兄ちゃん。
ねえ、お兄ちゃん。
行かないで。私から離れて、遠くに行かないで。
クリスマスが終わったらどこへでも
今日だけでいいから……そばにいて。
クリスマスを妹と一緒に過ごそう?
……無理なお願いだってわかってる。
でも……。
……ライン……するの?
あの人に……? なんて……?
…………。
良かったの? お兄ちゃん……、あの女の人とクリスマスを過ごすの、楽しみに、していたんじゃないの?
ごめんね、お兄ちゃん。無理言って。
……そうなのかな? 本当に友達よりも妹を取る方が普通?
ふふ……。お兄ちゃん……。
あのね、私、お兄ちゃんの妹になれて、……嬉しい。
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剣城・アイスドーラ・凍子です。
駆け出しの台本師
Twitter:@Ice_dola
いろんな設定のシチュエーションを書いていきます。
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