厳かな雰囲気を纏う王女様
そんな王女様には密かな楽しみがあった

(ＳＥ：足音)

(家来などが跪く中、玉座に向かって歩いている)

(ＳＥ：布の擦れる音)
(静かに座る)

皆さん、面を上げて下さい。

本日は快晴。

天候に恵まれた良い１日になるでしょう。

皆さんの働き、期待しておりますよ。

衛兵の皆さんは、それぞれの持ち場に戻って下さい。

ここには、招集した各地方の貴族の方々と、私の側近である、あなたのみ残って下さい。

(間)

では、話を始めましょう。

まず。北を治めているあなたですが、上手く領地経営が出来ているようですね。

作物の収穫量や農民の生活水準も良い傾向です。

ですが、注意も怠らずに。

作物を収穫した後の土地に再び同じ作物を植えてはいけませんよ。

連作になってしまいますからね。

これから、冬が訪れます。

この寒い時期に、土壌の表層表層（ひょうそう）と深層（しんそう）を入れ替える、天地返天地返（てんちがえ）しを行って下さい。

これにより、深層（しんそう）で越冬（えっとう）しようとする害虫や病原菌、雑草の根などを退治出来ます。

あなたの治める土地は田畑が多いですから、農民にそれぞれ、別の作物を育てさせて下さい。

そして、その違う種類の作物を周期的に交替（こうたい）させる、輪作（りんさく）を行って下さい。

例えば、前回、作物Ａを植えた土地には作物Ｂを、作物Ｂを植えた土地には作物Ｃを、作物Ｃを植えた土地には作物Ａというように、栽培する作物を変えます。

先程も申し上げましたが、同じ作物を栽培すると、土壌のバランスが崩れ、連作障害（れんさくしょうがい）が起こってしまいます。

作物によって輪作年限（りんさくねんげん）は決まっているので、年数が短い物で輪作するか、サツマイモやタマネギ、トウモロコシといった、連作障害（れんさくしょうがい）が出にくい連作可能な作物を育てるようにして下さい。

輪作年限（りんさくねんげん）の長い作物は、栽培可能になった際に、こちらから栽培の許可を出します。

ここ５年間で栽培した作物を土壌（どじょう）ごとにまとめて、提出して下さい。

それを見て判断致します。

農作物が収入源の土地で、作物が育たなければ、農民の生活が困窮し、税収が減ってしまいます。

そうなれば、あなたの生活も困窮し、領地経営に割くお金が無くなってしまいますからね。

次に南を治めているあなたですが――

(間)

では、貴族の皆さん、土地と領民を頼みましたよ。

あなたもご苦労様でした。

いつも、見やすく資料にまとめて下さってありがとうございます。

あなたもそろそろ休憩を。

私も自室に戻りますので、何かあれば、いつでも連絡して下さい。

(間)

あﾞ〜、づがれだぁ〜。

もう無理ぃ〜、動けな〜い。

貴族の人達に指示するの面倒だし、作物とか領地の事くらい自分でやってほしいよ。

いちいち、私の意見なんて聞かなくて良いって。

何で、その度に招集かけなきゃいけないのよ。

あっ！！

今日って、超人気役者、ナイト様の演劇が王国劇場で行われる日じゃない！

ぐ〜たらしてる場合じゃねぇ！

この日の為に、徹夜して手に入れたチケット！

よし、国民にバレないように変装してっと。

ナイト様！今、王女が参ります！

(チケットにキス)
んーまっ！まっ！まっ！

(演劇鑑賞中)

(間)

(鑑賞中の為、小声で)

はぁ〜、ナイト様、素敵！

最高に輝いていらっしゃるわ！

ああ〜！ヒロインがナイト様に抱きしめられて！

ちょっ！そこ代わって！

ああ〜、キスしてるぅ〜！

私も！私も！ん〜まっ！まっ！

(演劇終了。声を元の音量に戻して)

はぁ〜、今回のナイト様も素敵だった……。

この後は、ナイト様との握手会！

あのナイト様と握手出来るなんて、私、もう死んでも良いわ！

(間)

(握手会の列に並んでいる)

ああ〜、私の番が迫ってくるぅ。

私の手、汚れてないかしら。

汚い手でナイト様に触るなんて絶対にダメよ！

はっ！

わ、わ、私の番！！

な、ななナイト様！いつも楽しい演劇ありがとうございます！

お、応援してます！これからも頑張ってくだひゃい！

(エコーなどをかける)

(心の声)
か、噛んだあああああ！！

(心の声)
ナイト様の前で醜態を晒してしまったああああ！！

(心の声)
私、一生の不覚！！

(間)

(王城に戻ってきた王女)

はぁ〜……ナイト様の前で噛んでしまった。

恥ずかしくて死にそう……。

ん？

あら、あなた、休憩はもう良いのですか？

十分に休めましたか？

私もそろそろ公務に戻ろうかと思っていたところです。

はい？

この服ですか？

ずっと王族の服では疲れますから、私服で休憩しておりました。

えﾞっ……王国劇場……？

な、なな、何の事でしょうか？

私はお城から出ておりませんよ？

えっ？

……そ、そのセリフ……その声は……まさか……。

な、ナイト様……。

えっ……ずっと前から分かっていたのですか……。

あえて触れずに居たと……。

きゃあああああああ！！

私の威厳が！権力が地に落ちるぅ！

私の趣味がバレたああああ！！

(ＳＥ：壁ドン)

きゃあああああ！！

王族に壁ドンとか絶対ダメだけど、ナイト様なら許しちゃううう！！

ナイト様……抱いとぅえ！！

ん〜まっ！まっ！まっ！

アイタッ！

ちょ！王族の頭を叩くとか極刑ですよ！

えっ、ああ……確かにここは、他の者達も通る場所ですね。

取り乱しました。

ですが、良いですか？

この事は、私とあなただけの秘密ですよ！

絶対に口外してはいけません！

宜しいですね！ナイトさm……じゃなかった。

とにかく、いいですね！

私は公務に戻りますので、側近のあなたも付いてきて下さい。

たっぷりと耳元でセリフを囁いていただきますからね！

・台本（ゆるボイ！）
王女の楽しみ
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
如月英梨