人が幸せに生きる最善の方法とは、どんな方法なのだろうか

お兄様、起床のお時間ですよ。

目覚ましも鳴っておりますわ。

決められた時間に起き、決められた時間に支度をし、決められた時間に食事を摂る。

健康的な生活を送る為の基本ですわ。

さあ、早く朝食を済ませてしまいましょう。

お兄様の今日の予定は、かなり立て込んでおります故、朝食はお早めに済ませて下さいね。

私は別件で、会わなければならない方がいらっしゃるので、そちらに参ります。

お兄様の仕事量であれば……そうですねぇ……。

少々お待ちを。

(間)

こちらですね。

７時間５３分３７秒で完了出来ます。

内、休憩は１時間ですので、約７時間ですね。

こちらはＡＩが、お兄様の作業効率、速度などを加味して算出したものですから、間違いはありません。

もし、不測の事態が発生した場合は、ＡＩによる時間の再計算を行って下さい。

しかし、不測の事態が起こる事など、万に一つも無いとは思いますが。

お兄様はトラブルを起こした事など、ないですよね？

では、私はこれで失礼致しますね。

(間)

(「はい」は２〜３秒の間を空ける)
はい、はい。

心得ております。

(間)

私のお兄様ですか？

仕事も卒なくこなしており、至って健康。

異常は特にありませんが、何か？

(間)

はい、確かにその兆候は見られますが、今はまだ許容範囲かと。

もう少し観察する必要がありそうです。

(間)

はい、畏まりました。

念の為、注意を払っておきます。

それでは、これにて失礼致します。

本日は貴重はお時間をいただき、ありがとうございました。

(間)

ふむ……お兄様に限ってそのような事、あるはずが……。

お兄様から目を離さないようにしなければ。

(間)

(帰宅する妹)

お兄様、ただいま戻りました。

お仕事の進捗はいかがでしょうか？

(間)

えっ、もう終わったのですか！？

まだ、４時間程しか経っておりませんよ！？

ＡＩが算出した所要時間を遥かに上回るなど……。

そんな事……あるはず……が……。

いえ、最近のお兄様には少し異常な行動が見られました。

やはり私がお兄様のお世話をしっかりと……。

(間)

お兄様、１つお聞きします。

何故、ＡＩが算出した所要時間を守らなかったのですか？

仕事を早く終わらせる事で、ミスをしたり、トラブルが発生する確率が高くなります。

ＡＩが算出した時間は、そういったものを回避する為の時間です。

お兄様の勝手な判断でミスが出れば、余計な手間が増えてしまいます。

時間を守れば、ミスをしてもＡＩが修正してくれる。

本来であれば、私達がやるよりもＡＩに任せた方が効率的です。

しかし、それをしないのは、国王様の判断です。

それに異を唱えるなど、あってはなりません。

(間)

はい？

自分の判断で効率の良いと思った行動をしたと？

(間)

お兄様。

全てのＡＩを統括するマスターＡＩは絶対的存在です。

完璧な予定を立ててくれます。

私達はそれを実行するのみ。

それが最善の選択であり、最高の幸せ。

私達は過去、幾度となく間違いを犯してきました。

しかし、マスターＡＩの完成と共に、私達の生活は大きく変貌を遂げ、みなが幸せを享受出来るようになりました。

私達はもう、間違いを犯してはならないのです。

自身で判断するなど、愚の骨頂。

やはり、マスターの仰る事は絶対なのですね……。

お兄様に異常行動が見られると仰られていました。

お兄様は疲れていらっしゃるのです。

私がお兄様の頭に起きている異常を全て消し去りましょう。

私達に意思など必要ないのです。

何も考えず、マスターＡＩの指示に従い、それを実行するのみ

お兄様がされていた仕事も、ＡＩが処理したものに少し手を加えているだけで、あくまで仕事をしているという体で、実際はＡＩにより完了しております。

お兄様が判断をしなくても良いのです。

(間)

はい？

何故、自分で考える必要があるのですか？

私達よりも優秀な存在がいらっしゃるというのに。

(間)

ＡＩの命令ならば、好きでもない相手と結婚するのか、と？

ええ、それがマスターの命令であるなら、それが最善の選択ですから。

喜怒哀楽、友情、愛情、恋愛感情。

感情というものに振り回され、喜び、悲しみ、怒り、楽しむなど、ストレスを溜めてしまうだけです。

そんなものは生きるのに不要です。

好きではないという理由で結婚相手を選定し、好みの異性を探す。

恋愛感情などという無駄なものがあれば、その人が最良の相手だとしても、好きではないという理由で結婚しない人も多くいます。

私は、そのような愚かな人間に成り下がるつもりはありません。

マスターＡＩこそ、私達を導いて下さる最高の存在。

王であり、神なのです。

私達のような下等生物が、意思を持ち、自身で考え行動するなど、許される行為ではありません。

もし、これ以上、お兄様がマスターＡＩの判断に逆らうというのであれば、お兄様は、この世界に発生したガン細胞であり、抹消すべき存在になります。

私は、世界を統べる者の代行者。

お兄様のような存在への対処をマスターより任され、実行する者。

マスターは完璧な存在。

ですが、マスターは世界の中枢に位置しており、動く事は出来ません。

ですので、私達が手足となり、世界の均衡を保つのです。

そこに私達の意思など存在しません。

世界には私のような人間が多数存在し、マスターの命令を聞き、実行しています。

(間)

実の兄を抹消する事に、何も思わないのか、と？

ええ、何も。

先程も申し上げましたが、感情というものは邪魔でしかないのです。

お兄様への家族愛や愛情などを抱いていれば、その感情が邪魔をして、お兄様への対処に支障をきたす恐れがあります。

神に逆らう愚か者など、死して当然。

お兄様が、私に従い、マスターの教えを再び受け入れ、意思を捨てて生きるというのであれば見逃しましょう。

どうなさいますか？

(間)

はぁ……残念です。

私のお兄様が、こんなにも愚かな人間だったとは。

では、お兄様。

何か言い遺す事はありますか？

(間)

この世界は狂っている、ですか。

ふふ……狂っているのは、お兄様ですよ。

そのような考えを抱き、自らの意思がある人間……お兄様こそ、狂っているのです。

お兄様を手にかけるのは、少しだけ悲しいですね。

(間)

まあ、嘘なんですけどね。

お話はここまでにしましょう。

さようなら……お兄様。

(間)
(場面転換。兄の記憶を抹消した後)

お兄様、朝ですよ。

起きて下さい。

(間)

どうされましたか？

(間)

変な夢を見た、と？

どのような夢を？

(間)

お兄様がマスターに逆らい、私と喧嘩する夢ですか……。

ふふ……おかしな夢ですね。

(間)

どうやら、マスターへの反抗心は消え去ったみたいですね。

私が抹消したので当然ですが……ふふ。

ああ、いえ、こちらの話です。

お兄様は何も考えず、マスターの命令に従って、最良の日々を送って下さいね。

(間)

それが……私達、人間の幸せですから……。

・台本（ゆるボイ！）
幸せに生きる最善の方法
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
如月英梨