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プリンセス
written by 夜木嵩
  • お姫様
  • 処刑
  • 演説
公開日2022年10月10日 18:42 更新日2022年10月10日 18:42
文字数
3729文字(約 12分26秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
処刑される姫
視聴者役柄
民衆
場所
王城前の断頭台
あらすじ
街の娘殺しの罪で、処刑されることになった王家の一人の姫。
その時を前にして集う民衆へ、最後に語るのは、その人生を取り巻き溢れる感情。
本編
お集りの民衆よ、お前たちは今、私のことをどんな目で見ているのだろうか。

血も涙もない魔女なのか?
はたまた闇に取り憑かれた哀れな姫なのか?

まあ、罪人に向ける目だ。
どう責めようと構わない。
私は今日、お前たちの望む運命を受け入れることにした。
そのことに変わりはないのだから。

その代わりというのは正しくないかもしれないが、民衆に言葉を話すのはこれが最後になる。
だから、身勝手ながら私の思いをこの世に置いていかさせてくれ。
お前たちはとっとと私の首が見たいのかもしれないが、逃げるつもりはなければ、この話が終わればすぐにそうなるさ。

今日私は、まもなくお前たちの意思に殺される。
罪状は、街の娘殺し、だっけな。
もはや何人の命を奪ってきたか、覚えるのも無意味で、そんなものは数えてすらいない。
だが、それは紛れもなく、私のしたことだ。

巷では、この私を魔女と呼ぶ傍ら、どこかでは闇に取り憑かれた姫という名も聞いた。
それも、あながち間違いではないのかもしれないな。
私は、生まれながらの魔女では決してない。
むしろ、生まれの血筋さえ違えば、お前たちと変わらぬただの人だったはずだろう。

……そう、血筋さえ違えば、だがな。

お前たちも知るように、私は他国の王女。
王子との結婚でこの国に来たというのも、お前たちには聞き慣れた話だろう?

その祖国の話から始めようか。
その国は、ここと比べたら取るに足らないような小さな国。
生まれた頃は父も母もいて、穏やかに暮らしていた。
家族も、使いの者も、その笑っていた顔を今でも思い出す。

それが音を立てて崩れたのが、両親の処刑だった。

怪しい動きを父は既に耳にしていた様子だったが、私にとって、報せは突然だった。
何気ない日のこと、父の使いが、敵がすぐに近くまで迫っていると飛び込んできた。

それから、気の動転もあっただろうけど、間を空けることなく叔父の率いる軍は王城を攻め、両親を捕らえた。
私もその娘ゆえ、兄弟と共に捕らえられたわ。

そして、その日のうちの事だった。
まさしく、今日のように観衆の集まる前で、「新たな時代が始まる」と騒ぎながら両親は首を斬られた。
私たち兄弟は城の部屋に幽閉されて、その瞬間を見ることも、両親の遺体も見てはいないけれど、その話は漏れるように人々から語られたわ。

その時から、今日の断頭台に至るまで、私に愛というものは存在しなくなった。
この政変で両親だけではなく、私も死んだのだと、今となっては思うわ。

それから、子供のいなかった叔父に私たち兄弟は血筋上関係があるからと利用され、乱暴な扱いではあったものの、殺されることもなく狭い部屋に閉ざされ続けた。

けれども幸い、そんな日々から解放されるのは早かった。
というのも、この国との関係を取り持つ目的で、王子との結婚が決まったからだった。
その話を聞いて、この国へと向かう時は、やっと私は解放されるのかと静かに喜んでいたのを覚えている。

だが、これは舞台を移しただけの煉獄でしかなかった。

民衆よ、お前たちの目に映る王子というものは、どんな男だ?

国民に権利を、なんて王に訴えたのは確かに王子だし、私から見ても、彼が王位を継げば、確実にお前たちのための国へ変わっていくように見える。
そのおかげか、世では今の王をも凌ぐ人気なのだとな。

はぁぁ……私のあの夫が、そんな清らかな人間であるまい。
中身は権力への欲求と性欲、ひとえに己が一番であることのみに関心を持つだけの軽薄な男だよ。
果たして、一度でも私の心を案じたことがあろうか。
果たして、一度でも己の過ちを認めたことがあろうか。

私は嫁いで以来、彼を飾り満たす道具として生きてきた認識しかない。
ここでも生きることは許されなかったのだよ。

記憶にあるのは、罵倒と身勝手な夜と、黒い笑み。
己の幸せしか見えない、哀れな生き物だった。

何より不幸だったのが、あれだけ乱暴に肌を重ねておきながら、私には子が宿ることはなかったこと。
子供に関しては女の責任になるのが、城の世界の常なのは知っていたこと。
けれども、そんな常識があったとしても露骨なほど、彼はゴミを見るような目で見るようになった。
子も産めぬ女に食わせるものがあるかなどという言葉も耳にした。

義弟のもとには子が生まれ、その姫とともに誇り、見下すような態度を何度取られたことか。
その苛立ちを彼は、決まって私にぶつけてきた。
暴力も暴言も、慣れるくらい浴びてきた。

どうやら、この世界での私自身の価値はなく、私の子に価値があるのだと、最初から気付けていたらよかった。
もはや子の産めない私は無価値を通り越し、ただ邪魔な女。
毒や刺客や、彼は何度か私を殺そうとすらしたらしい。

その最たることに、私の側近が刃を向けてきたこともあった。
彼女は、孤立していたも同然だった城の中で信用していた……信用してしまっていた人だったというのに。

きっと、今日魔女として殺されずとも、私は近いうちに殺されていたのだろうな。

まあ、それでもいい。
こんな城で天寿を全うしようなど、何かの罪でしかないだろうから。

ただ、私の心の拠り所はそれでも一つ、存在していた。
それが、祖国。

確かに、叔父のことは憎んでいるし、戻る場所も当然ない。
けれども、あの場所が変わらず存在していて、民は日常を営んでいる。
それを思い浮かべることだけでは、心を穏やかにすることが出来た。

だけれど、その安堵すらも私には許されなかった。
数年前、大国の魔の手が襲い掛かった。
それは、ここよりも大きな国で、領土拡大に野心を燃やしていたところ。

私がいるからこそ、この国は味方に回り、王家の存続こそ辛うじて守られたものの、その被害は計り知れず。
今やこの国の援助なしには成り立たない、ボロボロの小国になってしまった。
この目で見たわけではないが、私のいた王城や都は完全に焼け落ちたと聞いているわ。

そして、それから私は毎晩問い続けた。

私には何が残ったの?
殺されるのを待つ姫の立場?
あと……あと……

本当に探しても見つからなかったわ。

愛も、居場所も、過去も未来も持たない私を、私は生きているとは思えなかった。
それでも、愛も、居場所も、未来も、欲する感情は残っていた。
それが叶うはずもなく、魔女へと私を染め上げたのだけれど。

だから、闇に取り憑かれたという言葉が正しいとすれば、叶わなかった愛を求める気持ちこそが、その闇だったのだと。
そのことが、民の誰か一人の心にでも刻まれてくれるなら、私は初めて生きていたのだと思えそうね。

闇は嫉妬へと私を動かした。
それでも、王家の敵たちに刃を向ける気にはなれなかったわ。
何より、彼らもまた、血に縛られた被害者でもあるのだから。
幸せそうな顔なんて、結局優越感でしか見ていないもの。
ただ、そのしわ寄せと不運が重なるようにして全てを奪われたのが、私だけだった。
もしかすると私、前世では大罪人だったのかしら。

その代わり、都の豊かな家の娘のような、希望ある日々を生きる者が妬ましくてたまらなかった。
彼女らに比べ、私にあるものと言えば、崩れかけの姫の位だけ。
私に比べ、彼女らにあるものと言えば、人としてあるべき幸福を生み出す何もかも。

それを奪えば、気持ちは満たされるように思えた。
実際、彼女らの恐れ、泣き叫ぶ、間違っても幸福だとは言えない表情を見て、その場では癒された。

けれども、城に帰れば言うまでもない日々。
私の満たされた感情は、一日どころか、日の出までも残りはしなかった。
だから、夜のたび、夜のたび、満たすしかなくなって、いつしか魔女とは名付けられたものの、実際は怪物に等しい恐怖へと私は変貌を遂げた。

凄惨なことで、許されないことだと、確かに私は理解している。
朝になれば、その罪が脳裏に焼き付いたままで、思い出しては吐き気すらするものだった。

しかし、その彼女らの死こそ、私の愛が死んで以来、唯一生きていると思える瞬間だった。
だから、朝がどれほど苦痛になったとしても、夜には忘れたように衝動が湧き上がっていて、それを抑えることは出来なかった。
相対的な生だが、価値のない日常ではこれほど眩いものはなかったさ。

かといって、それで私の愛が取り戻されるはずもなく。
思えば、私は制御不能だったんだろう。

もはや、この終止符以外に私を止めるものはない。
そういう意味では、ここに立って安堵すらしている。

そして、ついに私はこの愛のない世界と別れを告げることが出来るのだな。
今となっては、待ち遠しいばかり。

けれども、この人生がやはり無意味だったことが苦しくて仕方ない。
死んだ人生を生き続けることは、これほどにも苦しいものなのだな。

では、お前たちのお望み通り、私はこの死んだ人生を散らすことにしよう。
残るものといえば、まさに身体だけなのだろうな。
お前たちの明日に何の変わりもなく、王城もただ見栄を張り続ける。
彼もまた、新しい婚約者を見つけ、いずれは王の座に就くことだろう。

次に会えるとすれば、どうか、愛に満ちた幸せな世界であることを願いたい。
愛が、権力なんてものに負けないくらい大切な世界で。

では、さらば。

 (間)

ああ、死ぬのなら、祖国の空をもう一度眺めたかった……

お父様、お母様、……いるのならば、兄弟よ、今から、私もそちらへ向かうわ。

待っててね。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
プリンセス
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
夜木嵩
ライター情報
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