聖人の男は亡き姉の形見である十字架を盗賊の少女に奪われてしまう。一旦は少女を追い詰めるものの、人狼であった彼女に反撃を許し、まんまと逃がしてしまう。その後、再び少女と相対した男は、彼女を聖人の力で押さえ込むが、盗まれた十字架はすでに骨董屋に売り払われてしまっていた。急ぎ、例の骨董屋に行くものの、十字架は他の客に買い取られてしまっており、もはや取り戻すことができなくなっていた。それを知った少女は後悔の念に苛まれ、なんとか男に償おうとするが…？

(ため息)


んだよー…こんなとこまで
追ってきやがってさぁ…
お兄さん、何者？


盗んだ物？あぁ、これのこと？


やーだよ。これ、売ったら
結構な金になりそうだし。
誰が返すかってんだ。


てことで、あたい行くから！
もう追ってくんなよ！そんじゃ！


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あだだ！ギブギブ！
参った！参ったからぁ！


返す返す！返すから
手ェ放して！オナシャス！


……なーんてね♪ そりゃっ！


(男をぶっ飛ばす)


あーあー…加減間違えちゃった？大丈夫？


まー、でもお兄さんが悪いよねー。
あたいの邪魔するから…


あたい？あたいは人狼。
一人盗賊やって荒稼ぎしてまーす。
よろしく〜。


てか、直前まで気づかないなんてお兄さん、
鈍いねー。下手に手ェ出したら死ぬよ？


ありゃりゃ…背中強く打った？
痛すぎて立てない？どんま〜い。


えっ？あっ…ちょ、マジ！？
治癒魔法使えんの！？
お兄さん、まさか魔法使い！？


聖人？聖人ってたしか〜…
神の力を限定的に使える人間、だっけ？


てことは、あたいの天敵じゃん！
最悪…！こんなのに目ェつけられるなんて…！


いや、返さねーし。
どうしてもってんなら
力づくで取り返してみれば？


…ま、お兄さんと正面から
やり合う気はないんだけどね！
アディオス！


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さーて、と…
次の金目になるもんはっと…


おっ、アレにするか〜…
サクッと奪ってやりますかぁ。
にしし♪


へっ？……あっ、お前！
たしかこないだの聖人…！
なんであたいの場所が…！


マジかよ…魔力の痕跡辿ってきたとか、
ストーカーの才能あるよ、お兄さん。


あー、こないだのあれ？
もう売って金にしちゃった。
ごっめーん⭐︎


あっ…ヤッベ。ガチギレしちゃった？


じゃ、じゃあ、あたいはこれで！
さいなら〜！


(結界の壁にぶつかる)


あだっ！ちょ、何この壁〜！？
まさか結界！？


くっそ〜…こんなとこで
捕まるなんて〜…


ね、ねぇ？ここから逃がしてくれたら
あたいの身体、お兄さんの好きにしていいよ？


(舌打ち)


んだよ…ちょっとは反応しろよ。


あたい、これでも育つとこは
育ってんだからなー。


いや、だからもう持ってないって！
あれ、換金しちゃったから！


う、売ったとこ？
え、え〜っと…どこだっけ？


ごめんごめん！すぐ思い出すから！
たしか〜、う〜ん…


あっ、思い出した！
北側の1番デカい通りの
路地裏にある骨董屋さん！


そそ！多分それ！
そこで買い取ってもらった！


あれ？え、ちょっと待って！
あたいを騎士団に突き出さなくていいの！？


むっ…なんだよ。そんなに
あの古ぼけた十字架が大事かよー。
あたいを突き出すことよりさー。


あれ、魔族のあたいでも握れたし、
何の力も残ってないじゃん。


あんなののどこに価値があるわけ？
骨董屋でも売れたのが不思議なくらいなんだけど。


あ…そ。お姉さんの形見なんだ…
お姉さん、もしかして聖女？


ふ、ふーん…そりゃ悪いことを
したようなしてないような…


あっ、ちょ！……行っちゃった。
なんだよ、謝罪すら聞かないのかよ…


あーあ！なんかしらけた！かーえろ！


…最初っから、あたいのことなんて
眼中になかったんだ…なんかムカつく。


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あっ…お兄さんじゃん。
やっぱここにいたんだ。


(咳き込む)


あー、キッツ…
教会の空気は魔族の
あたいには堪えるなぁ…


ん？いや、なんとなく…
教会だったらお兄さんに
会えるかなーって思って。


てかさー、お兄さんって
毎日神様にお祈りしてんの？


ふーん…まぁ聖人だし
当たり前か。


つか、そーしないと
神の力なんて扱えないもんね。


は？懺悔？あたいが？


そんなのしねーから。
魔族のあたいがなんで
神に頭垂れなきゃいけないんだっての。


つーかさぁ、こないだの
十字架は結局取り戻せたの？


あ…そう。もうどこかの
誰かの手に渡っちゃったんだ…
ど、どんまい？


…なんで？なんであたいを責めないわけ？


あれ、大切な物だったんじゃないの？
お姉さんの形見…


なんだよ…なんだよそれ！


元はと言えば、盗んだあたいが悪いのに…！


無くなった物は仕方ないとか、なんで
そんな開き直れんだよ！


てか、無くなってないでしょ！
例の骨董屋から買い取った奴のこと
ちゃんと聞けば…！


聞いたけど、分からなかったんだ…そっか…


じゃ、じゃあさ！
あたいの金やるからさ！
いくら欲しい！？


売った分、いや、それ以上の
金額出すからさ！それで…！


う…ぐぅ…なんだよ…！
金の問題じゃないって…！
たしかにそうかもしれないけどさぁ…！


嫌だ…！懺悔なんかしない！


するとしても、あたいは神に頭は下げない！


…帰る。これ以上ここにいると
体調悪くなりそうだし。それじゃ。


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やっほー。お兄さん、こんばんは。


今日めっちゃ満月だね。
月明かりですっごい明るいし。


いや、別にー？
大した用はないっつーかぁ…
まぁちょっとした懺悔的な？


うん…その、あの時はごめん。
お兄さんの大切な物、盗んじゃって…


いや、だから神に懺悔はしねーし。
あたしが懺悔するのは、お兄さん相手にだよ。


てことで、そこ、動かないでね…


(押し倒す)


捕まえちゃった…ふふっ♪


いや、どういうつもりも何も、
こういうつもりだけど？


あたいさぁ、盗み働きまくったけど
今まで罪の意識とか全く感じたこと
なかったんだよねー…


でもさ…お兄さんの姉の形見
売っぱらって、何にもお咎め無しで…


なんかこう、胸のあたりがずっと
ズキズキしてんだ…


だから違うんだって。あたいが
謝らなきゃいけない相手は神様じゃない。
お兄さんだよ。


懺悔するのも盗んだ行為そのものじゃなくて…
お兄さんの大切な物を奪ったことだから。


けどお兄さん、あたいから
お金は受け取らないって言ったじゃん？


だったらもう、こうするしかないよね…
あたい自身を差し出すしか…


嫌、無理。あたい、生まれて初めて
罪悪感で死にそうだから…お兄さんには
ちゃんと償わないと。自己満だとしても、さ…


抵抗しても無駄だって…
あたい、人狼だよ？
満月の夜はフルパワー出せるしね。


いくら聖人でも、人間のお兄さんじゃ
どうしようもねーじゃん？この状況さぁ…


ちゃんと身体で償うからさ…
あたいのこと、許してくれる？


許さないっていうなら
ずっとお兄さんに償い続けるよ？


あたい、頑張ってお兄さんのこと
気持ち良くするし。


だからお兄さん…あたいの懺悔、
しっかり受け入れて…ね？

・台本（ゆるボイ！）
盗賊の人狼少女による月夜での懺悔
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎