同僚の女に気絶させられ、遠い町まで連れていかれた彼女持ちのあなた。
財布など所持品を女に奪われたあなたは帰ることができず、渋々女との旅行をする羽目に。
そして旅館に着くと、女はこの誘拐旅行最大の目的を果たそうとあなたに迫る。

ふーぅ、とうちゃーく！
ねえねえ、やっぱり、良い眺めだと思わない？
部屋入って目の前の窓から見える、人の心を奪う絶景。
これこそ旅ー！　って感じだよね！？

ちぇっ、無反応かぁ。
ずっと君、浮かない顔しててなんかつまんないんだけど。
楽しくないの？　旅行だよ？

当たり前って、いいじゃん別に。
君のこと気絶させて、無理矢理遠い町まで運んできたのは確かだけど。

そうだよ、私たちは今日、ここに泊まるんだよ？
いい部屋でしょー？　えへへー。

私ね、いろんな旅館やホテルを君と泊まるのを想像しながら選んだんだけど、サイトで見たここの景色に惚れちゃったんだよね。

それに、君とふたり、浴衣で一晩っていうのも、旅館か花火ぐらいでしかできない貴重な経験だし。

写真で見るより興奮するのは、やっぱり君と一緒だからなのかな。

むー、つれないなぁ。
君が同じ気持ちになってくれないの、結構堪えてるんだよ？

もうここまで来ちゃったんだから、今は彼女のことなんて気にしない気にしない。
目の前の幸せを幸せと思うのが、幸せになる秘訣、なんだぞ？

私たちが普段暮らしてるビルばかりの街じゃ、こんな綺麗な緑も青も見られない。
私たちの仕事でいっぱいの毎日じゃ、こんな息抜きなんてできない。
君の何にもしてくれない彼女となんかじゃ、こんな素敵で楽しい旅なんてできない。

でしょ？
私は、君の為を思って君をこうして連れ出してるんだよ？
ちょっとは、嬉しそうにしてくれないと、私、悲しいなあ。

ねえ、あんまり暗い顔してるとさ、旅館の人にもカップルなのに空気が悪いって怪しまれるよ？

違うって、そんなことないもん。
私たち、カップルになるもん。

するもん。

そうだ！　彼女にはお土産に私たちのツーショットをプレゼントしちゃおっか。
できれば愛し合ってるのがよくわかる写真がいいね。

ぎゅっとしちゃう？
それともキス？
でも、見せつけるならやっぱり、言い逃れができない瞬間の方がいいかな？

ふーん。
やめろ、か。

いいよー？
私、そういうこと言われると、ますます燃えちゃうタイプだから！

もう、君をものにするまでは、絶対に帰さないから。

ということで今日の君は、彼女以外の女と、強制お泊りけってーい！
やったね。
折角なんだから、これは楽しまなくっちゃだよ！

ん、帰らせろ？

まあ、そっか。
いくらなんでも、一緒にお泊りなんてしちゃったら流石に言い訳もできなくなっちゃうもんね。

だからこそするんじゃん。

君に釈明の隙なんて与えられない、完全アウトなことしないと、君と彼女が別れない可能性が残っちゃうでしょ？
私、本気だから。

それに、無理なんだ。
そう、無理。
君がどんなに言ったって、帰れないよ？

私の気持ちに関係なく、もう君は泊まるしかない状況なの。

調べればわかると思うけど、今から帰ろうとしたって、飛行機でも電車でも君の家までは帰れないんだ。
だから、下手に移動してここにも戻れなくなったら、野宿になっちゃうかもね？

まあそもそも、君には持ち物ひとつ、もちろんお金も1円たりとも持たせてあげてないんだし、乗れる交通機関もここ以外の泊まる場所も、君にはないんだけど。

だから、逃げようだなんて考えるだけ、無駄、なんだよ？
今日とかじゃなく、永遠にね？

無理なことを考えたって疲れるだけなんだから、今は、私に集中しなよ！
彼女のことなんて忘れて、ほら。

君は今日、私っていう彼女と一緒にここに旅行しに来たの。
二人旅の旅館、思い出作りにはぴったりだよね。
まさか、ただ眠るだけなんてこと、ありえないよね。

もちろん、君がそうしたくたって、させてなんかやらないけど。

わかってる？
君一人で帰れる手段はないってことは、私の一存で帰すも帰さないも決める権利があるってことなんだよ？

だから、振る舞いには気を付けた方がいいと思うなー？

別に私は、この旅館で何度だって夜を迎えてもいいんだよ？
その方が、誰にも邪魔されない君との時間が手に入るんだもん。

でも、君は帰りたいんだったら、私とこれからの夜を楽しまなきゃ。

彼女のことを考えて、私のことを拒めば拒むほど、帰れなくなっちゃうんだよ？
そしたら、結局彼女には会えないまま。
もう、何のために私を拒むのかわかんなくなっちゃうね。

君に、私を受け入れない理由なんてないよね。
男として最低とか、関係ないよどうせ君の負けが決まってるんだから。
勝負とか以前に、それがルールなんだもん。

強いて言うなら、私にさらわれちゃったところで君の負けだったってことかな？
もう君が何をしても何を言っても、私には通用しないんだから。

君が男としてとか人としてとか、そんなのを気にしてるんなら、潔さだって大切だぞ？
諦めて、今すぐ私のものになっちゃえば、苦しまずに済むでしょ？

　（SE:着信音）

もー、折角君とお話してる最中なのにー。

って、君のスマホの方か。
しかも彼女からの電話みたい。

どうする？
君がなよなよしてるうちに、決断の瞬間、来ちゃったね。

うん、もちろん彼女さんにはこのこと、言ってないよ？
当たり前じゃん、こんなの反対してくるでしょ。

それに、君の知らないところで動いたって、つまらないもん。

それで、どうする？
電話に出て、今僕は同僚の女と浮気旅行してまーすって報告するの？
それとも、私から言っちゃう？　言ってあげよっか。
このまま別れてくれたら、もう君が浮気とか気にする必要なんてなくなるし。

そしたら旅行、楽しめるね。

ほら、あんまり悩んでると怪しまれちゃうよ？

・台本（ゆるボイ！）
彼女持ちの君をさらって強制旅行♪
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
夜木嵩