あなたは勇者です。
あまりの全滅回数の多さに我慢の限界が来たシスターに色々と詰められますが、そこには想像を絶する(お馬鹿な)理由がありました……。

※女性演者向けとしていますが、改変次第で男性演者でも問題なくいけるかと思います。

……さま……！
ゆう……さま……！
勇者様！
あぁ、お目覚めになりましたか。なによりです。
……で？
これで何回目ですか、全滅するの。
神のご加護にも限界があると思いますよ、さすがに。
いずれ魂が摩耗して、復活させるのも難しくなります。
というか、もはや一人旅ですし、「全滅」という表現も正しくないんでしょうか。
まぁ、なんでもいいんですけど。
それで、今回は何にやられたんですか？
前回は巨人に潰されて？
前々回は火竜に焼かれたんでしたっけ。
良さげなアイテムを取りに毒沼に入ったせい……え？
なんの道具も魔術も使わずに？
え、いつもそんな阿保みたいなストロングスタイルで進んでるんですか？
いや、「アイテムは取れたから」じゃないんですよ。
そんなニッコニコで言うことじゃないです。
……ちなみに、何だったんですか？　アイテムって。
ふむ……これは蛇の加護の指輪ですか。
身に着けた者の毒への抵抗力を高める指輪です。
毒沼に入る前に手に入れば良かったですね。
まったくもって、無駄死にです。
次に毒沼に入る時に役立つ？
それ、毒沼に入ることを可能にするほど強力な効果はないと思いますよ。
というか、マトモな人はそもそも入らないか、完全に防ぐ対策をするんですよ、普通は。

はぁ……そんなことやっていたら、お仲間に見放されるのも当然ですね。
……解毒や補助を使える僧侶がいなくなったから仕方なくやってる？
そんな鶏が先か卵が先かみたいな話はどうでもいいです。
というか、お仲間が離れていった理由、考えたことあります？
どんな対応をしていたのか、良い機会ですから懺悔してください。
私もシスターですからね。聞くだけ聞いてあげます。
どうせ自分ばかり装備を整えて、お仲間にはお古を渡してたりしたんでしょう？
……騎士様に最優先で良い防具を渡していた？
意外ですね。どうしてです？
……盾役にするため。
いわゆる、後衛職の方達は？
……敵の攻撃は全て騎士様が受けるから魔力増幅用の杖だけ。
えーと、その戦術は騎士様が突発されると総崩れになるのでは？
あ、最初の全滅はそれが原因ですか。
ちなみに、勇者様は何を？　攻撃ですか？
……攻撃魔術に巻き込まれたくないから補助だけ。
え？　まさか騎士様ごと魔術で攻撃していたのですか？
……毎回ギリ生き残ってた？　やかましいです。
なんというか、ダメですね。ダメのダメダメ。
むしろ、お仲間の皆様はよくもまぁそんな状態で、しばらくの間でも着いてきてくれていましたね。
まったく、なんでこんな人が勇者なのでしょうか。
いえ、伝説の剣を引き抜いたから任命されたのは知っていますが。
しかも、アレですよね。
禁足地の森に無断で入って勝手に抜いたんですよね。
もうちょっと空気読んで欲しかったですね、伝説の剣。
……なんか、ただの無法者ですね、あなた。

で、まだ続けるのですか？　辛くはないのですか？
……そうですか。
なんというか、こう、何度やられてもこれっぽっちも懲りもへこたれもしないその前のめりな生き方は、一寸の虫にも五分の魂という感じですね。
いえ、褒めてませんが。
妖精の鱗粉の[[rb:一摘 > ひとつま]]みほども褒めてませんが。

そうですね、私があなたの心配をするのは珍しいかもしれません。
……もう諦めませんか、勇者様。
あなたはこれまで、よく頑張ってきました。
いえ、まぁ、ダメはダメなりにそれなりの努力をしてきたことは認めてもいいかなと、お昼を食べた後の薄ら眠たい礼拝の最中に、思考の隅っこでぼんやりと考えるくらいには、頑張ってきたのではないでしょうか。

そして、普通の人間ならばとっくに心折れているであろう苦しい経験を何度もしてきたはずです。
まぁ、二重の意味で普通ならしないし、する必要のない苦労ばかりだったし、何度も経験したのは単に無謀さと学習能力の無さのせいだとは思いますが。

えぇと、とにかくあなたは、うっかりというか概ね過失で伝説の剣を抜いてしまったがゆえに勇者へと祭り上げられただけの、ただの人なはずです。
それはもう、人間は愚かという言葉を体現したかの如く蒙昧で、むしろ人間性をどこに置いてきたのかと疑問に思うくらいの……あれ？　これだと普通以下ですね。まぁいいです。間違ってもいないでしょう。

えー、要するに何が言いたいかというと、あなただけが理不尽な目に遭う必要はないのではないかということだったんですが……。
凄いですね、自分で言ってまるで説得力が感じられません。自業自得な部分が多すぎますし。
とはいえ、前々から思っていたのも本当です。
なにゆえ神はかくも無駄な試練をあなたに与えるのでしょうか。
そもそも勇者とか呼ばれていますけど、別に魔王的な存在がいる訳でもないのに――いや、まぁ、聞いたことないだけでいるのかもしれませんが――漠然と世界に平和をもたらせとか言われているだけじゃないですか。
行くとこ行けば龍だのなんだのといますけど、わざわざ人里を襲いに来る訳でもないので退治する必要まるでありませんし。

そこで提案です、勇者様。
無意味な旅はやめて、ここで私と暮らしませんか？
散々こき下ろしてきましたが、私はあなたのこと、結構好きなんですよ。
人としては色々とダメですけど、一緒にいるだけなら面白くて飽きませんし。
いや、「ダメンズ好き？」じゃないんですよ。
自覚あるなら直してください。
あと世界観崩さないでください。
とにかく、どうですか？
……そうですか。
断られるのは……なんとなく予想していました。
ですので、さっそく切り札を切らせて頂きますね。
実は、今回あなたを復活させる際に、知り合いの呪術師に頼んでちょっとした魔術を仕込ませてもらいました。
いわゆる魅了の一種です。
意のままに操るといった類のモノではないのでご安心を……今の所は、ですけどね。
この術は、あなたが死んで、私に復活させられる度に強まっていきます。
次第に私を好きになっていって、最終的には……どうなるんでしょうね？　聞き忘れてしまいました。
いずれにせよ、私に心を奪われたくなければ、今後は蛮勇を控えた方が良いでしょう。
……もう行かれますか？
それでは、冒険、頑張ってくださいね。
いってらっしゃい、勇者様。

……ふぅ。
人を疑うことを知らないんですかね、あの人。
冒険に参加する僧侶ならともかく、教会に常駐するシスターに呪術師の知り合いなんている訳ないじゃないですか。
気持ち悪がられたでしょうか……まぁ、仕方がありませんね。
二度と私のもとを訪れないくらいの覚悟で旅を続けてくれることを祈りましょう。

〜2日後〜

……お目覚めですか、勇者様。
2日ぶりでしょうか。
今度はどうして死んだんですか。
ショートカットを開通させることを優先して、敵の群れを突っ切ろうとして袋叩きにされた？
えぇと、先日の私の話、聞いてました？
いえ、訊き方を変えます。
あなたの場合、「聞いたけど理解してない」ということがありそうなので。
あなたは私の話を――
――聞いたし、理解したと。
なら、どーしてまたくっだらない理由で死んでるんですかね。
自らの意に反して私のことを好きになっても構わないと？
自分には効かない？　何を根拠にそんな。
元々好きだから？
え？　私のことがですか？
えー……と。
それはまぁ、嬉しいことではあるのですが。
根本的な疑問の答えにはなっていません。
だ・か・ら！
なんでまた死んでるかって話ですよ！
私が好きだとか術が効くかどうかとか関係なくあんなこと言われたら気を付けるものでしょう！
ていうか好きな相手に心配をかけますかね、普通！
……私に会いに戻ってきてるだけ？
えーと、えぇ……？
まさかとは思うんですが、私に会うために死んで、復活させてたんですか？
うーわ、ドン引きです。
そんな転移代わりに軽ーいノリで命を捨ててたんですか？
いや、そんな朗らかに肯定されましても。
え？　今までずっとですか？
あ、そういう訳ではない。
いや、納得する所ではないと思うのですが。
はぁぁぁ……なんというか、ここまで救い難い馬鹿だとは思いませんでした。
神もさぞ頭を抱えていることでしょう。
……次からは、ちゃんと教会の扉を開けて帰ってきてください。
私は待っていてあげますから。
どういう意味か説明しなければならないほど愚かでは……ないようですね。
ではまぁ、そういうことですので。
ちゃっちゃと世界を平和にしてから、私のもとに帰ってきてください。
いってらっしゃい、勇者様。
ご武運を。

・台本（ゆるボイ！）
ゆるいファンタジー世界の恋の話〜ポンコツ勇者と口悪シスター〜
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
住公子