（病室のドアの開閉音）

失礼します。

...お身体の具合はどうですか？

...そうですか。

それならよかったです。

他に、なにかご不便なことなどはありませんか？

至らぬことがありましたら、なんでも言ってくださいね？

患者さんに尽くすことが、私たち看護師の義務ですから。

...なにもない、ですか...。

...それは本当なんですか？

起き上がるのが辛いとか、些細なことでも構いませんので...っ。

...そこまで気を遣わなくても大丈夫、って...。

...大丈夫なわけ、ないじゃないですか...っ！

あの時、貴方が私を庇わなければ、大怪我をせずに済んだのに...！

後遺症も残らず、自分の足だけで歩けたはずだったのに...！

なのに...私のせいで...っ。

ぐすっ...うぅ...。

...っ！

な、なんで、ベッドから起き上がろうとしてるんですか！

いけません、今は安静にして...っ！？

（主人公が寝かしつけようとする看護師の肩を掴み、抱き寄せる）

（ここからは耳元のバイノーラルで）

...っ！

起き上がるふりをして、私を抱き締めるなんて、そんな...。

...だ、だめですよ...こんなところを見られたら...っ。

...え？

自分をそんなに責めては、いけない...？

そんな...ただ、私は...。

...そんな顔を見たくて、私を助けたわけじゃない、ですか...？

それに、笑ってる私が好きって...えぇっ！？

な、ななな、なに言ってるんですか！！

（看護師が主人公から慌てて離れる）

わ、私は看護師なんですから、患者さんとそういうことはあってはいけないんですよっ！？

あ、でも、別に貴方が嫌いとかそういうことでもなくて、むしろその...！

...って、え？

ようやく元気になってくれた、って...。

じゃ、じゃあ、今のは...？

...ただの冗談、ですか...。

...はぁ...ビックリさせないでくださいよ、もう...。

というか、患者さんに気遣われるなんて、看護師としては複雑な気分なんですよ...？

...でも、ありがとうございます。

おかげで、肩の力が抜けた気がします。

でも、こんな質の悪い冗談はこれきりにしてくださいね？

（小声で）

じゃないと私、抑えきれなくなってしまいますから...。

...な、なんでもありません。

では、私は他の患者さんを見に行かないといけませんので、これで...。

...あ、それから...。

そういう冗談は、他の看護師の方には言わないでくださいね？

近年はその手の発言に敏感になってますから、下手すると訴えられますよ？

ですから、どうしても我慢できない場合は、“私だけに”言ってください。

...では、失礼します。

（病室のドアの開閉音）



（それから数日後）

（病室のドアの開閉音）

失礼します。

お身体の具合は...って、貴女は新入りの...。

...なんで、貴女が一人でここにいるの？

今の貴女がすべきことではないでしょ？

患者さんのお世話をするには、まだ早いわ。

...貴方が、この娘に頼んだの？

...いけませんよ、そういうことは。

この娘は新人なので、万が一のことがないとは限りませんから。

困った時は、“私を”呼んでください。

いつでも、駆けつけますからね。

...なにを見てるの、貴女？

あとは全部私がやっておくから、早く持ち場に戻りなさい。

（慌てて立ち去る足音と病室のドアの開閉音）

...お見苦しいところを見せてすいません。

あの新人には、あとで言い聞かせておきますので...。

...たまたま近くにいた新人に頼んだだけだから、あまり責めないでほしい...？

...なんで、あの娘の肩を持つんですか？

もしかして、あの娘に一目惚れでもしたんですか？

...だめですよ、そういうのは。

前にも言った通り、患者さんと看護師が恋愛関係になるのは、職業倫理に反しますから。

白衣の天使と呼ばれたあのナイチンゲールも、看護学の発展に生涯を捧げるために、一生独身を貫いたそうですよ。

時には、自らの恋心にフタをしてまでも...。

それに、貴方をケアするのは“私だけ”でいいんです。

貴方の人生を狂わせてしまった私でなければならないんです。

それが、私に与えられた贖罪で、同時に幸福でもあるんですから...。

なので、もっともっと私を頼ってください。

一生かかってでも、貴方を支えてみせますから...。

・台本（ゆるボイ！）
【男性向け】Nightingale Effect【ヤンデレ】
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
平 朝臣