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人間よりも長寿のエルフは最愛の人の墓前で命の尊さを知る
written by 二葉ベス
  • シリアス
  • ファンタジー
  • 切ない
  • 未亡人
  • 人妻
  • エルフ
公開日2023年10月19日 15:46 更新日2023年10月19日 15:46
文字数
1162文字(約 3分53秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
エルフ。感情が薄い
視聴者役柄
墓。霊体として聞いてる
場所
聴き手の墓前
あらすじ
私の夫が死んでから40年が経ってしまった。
子供も産んで、平和に余生を過ごして。そうして普通に死んでしまった。
私よりも早く。人間らしく。私は最愛の人の墓前で、ただ命の尊さを知る。
本編
【】:状況
():声色 or SE

【死後、墓参りにやってくる読み手】
(風が吹く音)

……。相変わらず、ここはいい風が吹く。
当然か。海の見える場所に墓を立ててくれ、なんて言ったお前だ。
そんなの、遺言みたいなものだろう。

大体、潮風なんて毎日浴びてたら、髪がキシキシするだろ?
私はそういうのが嫌だから、もっと穏やかで崖の下にある小さな霊園でいいって言ったのに。
なんで、死んじゃうんだよ……。

もうお前が死んでから40年か。
私には、お前と過ごした月日がまだ頭の中にある。
エルフは聡明だから、記憶力もいいんだろうな。
だけどさ、お前がいつの間にか老いていく姿も、確かに記憶にあるんだ。

白くなる髪も、顔のシミも、指のシワさえも。私は覚えている。
愛おしく思っていたさ。こんなにも私を愛して、そばにいてくれるってな。

だが私はどうだ。
エルフは人より何千倍も寿命が長い。
だから今だって若い女性の姿だ。人間は40年も経てばおばさんになるのに。

……はぁ。

どうして、愛してしまったんだろうな。
ここ40年、そればかり考えてしまう。
子供も大人になり、結婚して、更に孫ができて。
それでも私は若いまま。おばあちゃん、なんて呼ばれてるんだぞ私が。

だから、辛いんだ。
子供も、孫も。きっとひ孫も、それより先だって。
きっと私より早く死ぬ。子どもたちはお前に会えるだろうが、私はお前に会えない。
ふっ、酷い話だ。出来すぎた悪夢だと言ってもいいな。

でも、現実なんだ。

……はぁ。
やっぱり、お前の前だけなんだ。
こうやって私の弱音を言えるのは。
お前しかいないんだ、この世で一番好きだったのは。

私さ。本当に好きだったんだよ。
好きだから人間の世界で添い遂げようって決めたし、
好きだから、お前との子供も欲しかった。

ハーフエルフなんてことはなく、私の遺伝子があまり入らず生まれた普通の人間で良かった。
幸せだった。あの時、お前がそばにいてくれて、ただ喋ってるだけで嬉しかった。
今はどうだ。物言わぬ石にただ私の愚痴をぶつけているだけ。

確かに家族との生活は楽しいさ。
だけどな。愛しい人のいない世界が、これほどまでに灰色に見えるのは、何故だろうな。

春はもっと新鮮だった。
夏は色鮮やかに輝いていた。
秋だって、紅葉を楽しむ余裕があった。
冬はお前が居なくなって、もう暖かくない。

それを何度も繰り返して、すでに日常に落ち着いてしまった。
つまらない今が、無気力な今が、日常になってしまったんだ。

でもお前と過ごした年月を、決して間違いだとは思わない。
だってさ、私が自害せずにここにいるのは、ここにいようと思うのは。
他でもない、お前と私の子供が行く先を、見ていたいからなんだ。
母親っぽいだろ?

(砂利を踏む音)

さて。じゃあ、私は行くよ。
また来る。今度は、私にひ孫ができた時かな。
この風が、私の話を天まで届けてくれたら、いいんだけどな。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
人間よりも長寿のエルフは最愛の人の墓前で命の尊さを知る
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
二葉ベス
ライター情報
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