彼女との水族館デート。楽しいはずが、この前幼馴染に無理やり付き合わされた「予行練習」と光景が重なり、苦痛すら感じていたあなた。
彼女には気付かれたくないけれど、その嫌な記憶はあなたの頭へと容赦なく流れ込んでくる。
苦しみ続けるあなたの前に、幼馴染が現れて……

彼女：わーっ、すごーい！
綺麗だね！綺麗だね！

ねっ、こっちの水槽見て見て！
ほら、綺麗でしょ！
なんで魚ってこんなにカラフルなんだろうね～！

だってさだってさ、こんな色してたら普通目立っちゃうじゃん？
そしたらおっきい魚とかに食べられたりしないのかなぁ～？　って！

生き物ってほんっと不思議だよね。
すごいや。

ん？　どうかした？
だって、君の表情、なんか楽しくなさそうだよ？

せっかく綺麗な魚がいっぱいいるのに。
なんか嫌なことでもあった？

　（SE:ノイズ）

幼馴染：わ、わーっ、すっごーい！
綺麗だねー、綺麗だねー。

はぁ……言ってて気持ち悪くなるくらい媚び媚びな台詞だけど、ま、あの子なら素でこんなものでしょ。

何って、あの子のマネだけど？
だってさー、来週、君たちデートなんでしょ？
どうせあの子のことだから、ありがちにここの水族館にでも誘うんだろうなーって思って。
ま、予行練習ってこと。
彼氏さんとして、粗相があったら困るでしょ？
幼馴染としての親切心。

えーっと、次の台詞は……

（咳払い）ねっ、こっちの水槽見て見て！
ほら、綺麗でしょ！

なんでお魚さんってこんなにカラフルなんだろうね～！
ねっ！

はぁ……どうせこんな感じの頭の悪い質問でもするんでしょ。
あ、そうそう。
ちなみにカラフルなのは、熱帯だとサンゴや水草、海藻とかの色と近いから、擬態しやすいとか、毒を持っている生き物の目立つ警戒色を模している、みたいな利点があるらしいんだって。
そもそも魚が意図的に色を得たわけじゃないから、理由なんて気にするだけ無駄なのだけど。

よかったね彼氏くん。
これで彼女さんの質問に答えてあげられるよ。

ま、あの子にこんなこと言っても、きょとんだろうけどね。

　（間）
　（戻る）

彼女：ねえ！　ねえ！
やっぱり様子変だよ？　大丈夫？

そ、そう？
君が大丈夫だって言うなら信じるけど……

体調悪いとかだったら、無理しないで言ってね！
デートならまた来ればいいだけだから！

あっ、先行く？
そうしよっか。

えっと、次のとこは、あっ、クラゲ！
かわいいよね。ふわふわしてて。

わぁ～っ！

　（SE:ノイズ）

彼女・幼馴染：すごいよ！　クラゲがいっぱい！
ってか、クラゲもいろんなのがいるんだね！

幼馴染：そりゃあそうでしょ。あほくさ。
クラゲだけでも3000種はいるらしいんだってさ。
しかも、基本は毒持ち。
種類によっては人だって殺せるんだから、ホント、見た目がすべてじゃないよね。

あの子だって、見た目がよくってもダメだよ？
それこそ、結婚とか考えるんだったら、価値観が合うとか、むしろ内実の方が大事になってくるんだし。

ま、今の恋愛はまさに水族館のクラゲを見るように、刺されない場所から綺麗って言ってるようなもの、みたいな。
海水浴のクラゲは嫌われ者だっていうのに、不思議なものだね。

でも、泳ぐ姿を見ている分には癒されるというのもわかるな。
エサとか、飼育方法とかはわかんないけど……

　（戻る）

彼女：一匹ぐらい飼ってみたいなーって思わない！？
クラゲ飼ってるとか、オシャレだよね～！

ってか、クラゲって飼えるのかな！？

多分って、なんか冷たいなぁ。

……ねえ、私といて、楽しくない？

いや、違うよ？　怒ってるわけじゃないんだよ？
でも、さっきから君、ほかのこと考えてるような気がするの。

デートも楽しくないくらい、深刻なの？
私まで心配になっちゃうっていうか……

そ、そう？
そんなことないんなら、いいんだけど。

だったら、もっと一緒に楽しみたいなーって。
ほら、

彼女・幼馴染：こっち、来て？

幼馴染：君が距離取るせいで、なんか周りから変な目で見られてるんだけど？
言っておくけど、これ予行練習なんだからね？
彼女相手にこんなことしたら、嫌われるよ？

……ま、本番は私のことが気になりすぎて、それはそれで嫌われちゃうって予定なんだけど。
手も繋いでおこっか、本番でできなくなるように。

　（戻る）

彼女：先行きたいの？
でも、もうちょっと見てたいな……

あっ、勝手に先行かないで！
もー……。

私はゆっくり見たいんだよ？
だって、せっかくのデートなんだもん。
なんか、急いでるみたい。

……せめて、次の大水槽くらいはさ、ちゃんと見たいな。

そっか、わかってくれたんなら、よろしい！　えへへっ。

って、ごめん。
ちょっと、トイレ行ってきてもいい？

ここで待ってて！

　（間）

幼馴染：おっと、奇遇だね。

あれ、彼女が見当たらないけど、もしかして、もう振られた？

そう。
何にせよ、君が一人でいるなら好都合。
というか君だって、あの子抜きでしたい話、あるんでしょ？

はぁ……やめてくれって言われても、それなら私だって、他の女と付き合って、私のこと傷付け続けるのはやめてほしいんだけど？

心の傷の等価交換。
私が悪いなんて責められる謂れはないでしょ？

あ、そうそう、それで、どう？
デートは楽しい？

私はあくまでも、あの子が言いそうなことを並べてみただけなんだけれど、まあまあ当たってたでしょ？
中身ないからやりやすかったな。

じゃあ、先週と比べて、どっちが楽しい？

ま、認めたくないよね。
彼女のこと散々バカにしてくる幼馴染に嫌々付き合ったデートの方が、彼女との本当のデートよりも楽しいだなんて。

私のせいとか、目を逸らすのやめない？
言ってることが同じってだけで楽しめないんなら、そもそも彼女に向いてないってことなんだよ。
一緒にいるだけで楽しいとか、なるでしょ普通。

本当は、つまらないんでしょ？
かわいいだけで、無知だし、気遣ってばっかりで、なんだか、出来の悪い子供に付き合わされている気分にさせられる女。

なんで好きになったんだろうって思うでしょ？
思ってないんならこれからそうなるよ。

今からさせる。

ねえ、デート中のあの子が言いそうなことがわかるってことが、どういう意味かわかる？

君のことも、見てたんだよ。

君の場合、これまで幼馴染として付き合ってきた年月の分もよくわかってる。
何がしたいかとかだってよくわかるからさ、あの子が全然君のことわかってなくて、見てる私が腹立ってたんだよね。

あんなのが君の彼女だってこと。

私なら、君のための恋人になれるのに。

思うでしょ？
私と一緒にいる方が楽しかったなって。

彼女ができたからって、最近はなかなか会ってもくれなかったけどさ。
何年もの間、何度、君と一緒に出掛けたりしたっけ？

覚えてないとは、言わせないからね。

今から、私が本気で君の彼女やったげる。
本当の私は、先週みたいに意地悪くなんかないよ。

さあ、早く行こうか。
ここにいると、そろそろあの子も戻ってきちゃうだろうし。

（強気で）デートの本番は、ここからだから。

・台本（ゆるボイ！）
〈二役〉幼馴染は君の頭を支配する
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
夜木嵩