「…みいつけた。」
深夜のオフィス。一人残業に勤しむ女性に近づく、警備員のお兄さんとのここだけの話。

【深夜のオフィス、響くキーボードの音。

女は一人で残業している。

そこに巡回の警備員のお兄さんが近づく】


巡回でーす。

（ドアが開く）

あれ？

今日も遅くまで、お疲れ様です。

０時過ぎてますが…大丈夫ですか？

はい、もう他の社員さん達はお帰りになられました。

はぁ、あと少しで終わりそうですか。

…良かったです。

何だかここ最近、一人で残ってるあなたに話しかけるの、

お決まりみたいになって来ましたね。


コホン。

私のような警備員がこんなこと言うのは、差し出がましいですが、

正直心配ですよ。

女性が一人、いつもこんな時間までお仕事をされているのは。

どうか、無理はし過ぎないでくださいね。

それに…デスクのカップ麺とエナジードリンクも気になりますねぇ。

大事な身体を壊したら、元も子もありませんよ。

あ…すみません。

おせっかいですよね、どうか忘れて下さい。

では、私はセキュリティセンターに戻ります。

お帰りの際は一応、声をかけてください。

出入口、施錠しなきゃいけませんので。


【１F、セキュリティセンター】

あ、お帰りですか？

遅くまで、お疲れ様でした。

…どうしました？

そんなに慌てて。

「スマホを失くした」

ああ、もしかしてこれのことですか？

（女のスマホを持っている警備員さん）

さっき巡回してる時、廊下に落ちてたのを拾いました。


（スマホを受け取ろうとする女）

（しかし、警備員はスマホを返そうとしない）


おっと、ちょっと待ってください。

これをお返しすることはできません。

だってこれ、本当にあなたのスマホでしょうか？

とても信じられないのですが。


写真フォルダに、男性とのツーショットがありました。

同期の方ですか？オフィスじゃなかなか見せない、いい笑顔ですね。

楽しかったですか？


着信履歴も、男性と思われる方に頻繁に掛けてる形跡がありました。

この「水道会社」というのも…

本当は男性なんじゃないですか？


カレンダーアプリに、土曜は「お泊り」と予定が入っていました。

ハートのスタンプまで押して…いかがわしい。

泊まりで何をなさる予定なんですか？


答えられないのですね。

ははははははは（渇いたような笑い）

「勝手にスマホを見るなんてひどい」？

いいえ、ひどいのはあなたも同じです。


その顔は、ご自覚が無いないようですね。

良い機会です、少しお話しましょうか。

（出入り口の防災用シャッターが下ろされた音）

はい、そうです。

防災用シャッターを降ろしました。

逃げようとしても無駄ですよ。


（逃げようとシャッターをバンバン叩く女）

無駄だと言いましたよ、私。

裏口のシャッターも閉めておきました。

電話回線もネットワークも、遮断してしまいましょう。

…さあ。

「お話し合い」を始めましょうか。

あなたが本当の愛に気がつくまで、じっくりと向き合ってあげます。


（警備員を突き飛ばし、出口と反対側へ逃げる女）

…逃げるんですか？

まあ、良いでしょう。

「かくれんぼ」は業務範囲外ですが、

相手があなたとあらば、楽しめそうですね。

１０数えるので、どうぞ逃げてください。

一応言っておきますが、

この建物の構造は、私の方が知っていますよ。


【４F、資料室前の廊下】

（口笛を吹きながら、カツカツカツと近づく足音）

…ここか。

もういいかーい？

（ドアを開ける音）

この資料室にいるのは、分かってますよ。

あなた、かくれんぼで最初に見つかってしまうタイプですね？

あのですね…逃げる時にエレベータは使わない方が良いですよ。

何階で降りたのかバレてます。

（部屋の中を歩き回る音）

そもそも…管理室のカメラで追いかければ一発ですから。

勝ち目の無いかくれんぼ、本当にお疲れ様です。


は　い、　見　ぃ　つ　け　た。


大丈夫ですよ、そんなに震えなくても。

動かないで、口を開けてください。

ほんの少しの間だけ眠くなりますが、

私がこれから、あなたを、

「世界一安全で安心な場所」にお連れします。


【警備員さんの自宅】

おはようございます。

よほど疲れていたのでしょう、よく眠れたようで良かったです。


ここですか？私の自宅です。

何も心配することはありませんからね。

ここはあのオフィス以上に、

最新のセキュリティシステムで管理しています。

ほら、例えばこうして部屋を出ようとすると…

（サイレンの音）

こんな風に…ね。

人ひとり、虫一匹入れさせないから、安心でしょう？


…ああ、仕事のことはもう気にしないでください。

さっきあなたのスマホを使って、

関係者全員にメールを出しておきました。

「一身上の都合で退職させていただきます」って。

ひどいですか？

そうでしょうか？よく考えてください。

上司はあなたを馬車馬のように働かせるし、

同期の男はあなたをいやらしい目で見ている。

あんな場所に置いておけない、大切なあなたの心が壊れてしまう。


…どうしてそんなことをするのかって？

守るって決めたんです、あなたのこと。

あのオフィスの中で、たった一人。

ひとりだけ。

あなただけが、私の名前を呼んでくれました。

「名前を呼ばれる」ってどんなに嬉しいか分かりますか？

皆私のことを「警備員さん」とか、「君」とか、

ひどい人だと、「おい！」って呼ぶんですよ？


あなただけです。

私の目をみて、私の名前を呼んでくれたのは。

だから決めた。

（抱きしめる）

あなたを宝物のように大切にすると。

私は、

今日からあなただけの警備員です。

・台本（ゆるボイ！）
ヤンデレ警備員くんと、真夜中のリアルかくれんぼ
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
市 砂鳥