部活の顧問に勧められて訪れたアトリエ──そこにあったのは、一つ一つが心の底から魅了されてしまいそうになる素敵な絵。
そしてその奥に居たのは自分に自信がなさそうで寂しそうな……此処にあるどの絵よりも美しい、このアトリエの主だった。

（緊張したような口調、少し早口）
あ、あの……ここで何してるんですか？
ここ、面白いモノなんて何もないと思いますケド……も、もしかして私……何かしちゃいましたか？
「絵を見てた」……そ、そうですか……はい、私が描いた絵です……変な絵ですよね、私の描く絵って。
こ、構図とかもメチャクチャで絵の具の使い方だってイマイチだしそもそも題材だってつまらないモノばっかりで──え？
「そんな事ない」「綺麗な絵」……お、お世辞は止めてくださいよ……私の絵なんて、どうせ誰からも評価されないんです。
あ、貴女だって本当は……皆と同じ事を思ってるんでしょう？
「本当に綺麗だし私は大好き」……ほ、本当に？う、嘘じゃなくて……？
う、嬉しい……私、自分の絵を誰かに褒めてもらった事なんて滅多になくて……ありがとうございます。
そ、そういえば、貴女はどうして此処に？私に用事でもあるんですか？
（少し落ち着いた口調、話すテンポもゆっくりになる）
「部活の顧問に勧められて見学にきた」……なるほど、ひょっとして貴女も絵を描いてるんですか？
それに、私の事を勧められたっていうと──もしかして私の後輩……やっぱり。
顧問の先生は今も元気ですか？そっか、それは良かったです。
私は卒業してから一度も先生のところに顔を出せてませんでしたけど、それなら安心です。
それにしても私のところに見学に来るなんて……私が言うのもあれですけど、貴女は少し変わってますね。
けど……ありがとうございます、久しぶりに自分の絵を褒めてもらえて、とっても嬉しかったです。
お礼になるかは分かりませんけど、時間があるなら一緒に絵を描きませんか？
私に出来る範囲でなら色々と教えてあげますけど……分かりました、それじゃあ此方へどうぞ。
すいません、色々と散らかってて……私、片付けとかするのがどうにも苦手で。
筆はとりあえず、此方からお好きな物を選んでください。
絵具はアクリルでも大丈夫ですか？他の絵具は切らしてしまってて……すいません。
それじゃあ、まずはお互い好きなように描いてみましょうか。

描けましたか？はい、私もちょうど完成したところです。
貴女の付けてる髪飾り……その、すっごく綺麗で、モデルにさせてもらいました。
やっぱり慣れない絵具を使うのは、何と言うか……少し疲れますね。
貴女の方は──えっと、これ……もしかして、その……わ、私ですか⁉
あ、ありがとうございます……私なんかをモデルに選んでくれて……えへへ……うれしい。
私が見た限りじゃ、直すところは何処にもないですね……とっても素敵な絵です。
もし良ければその絵、貰っても良いですか……あ、ありがとうございます！嬉しい……大事にします……
あらら、もうこんな時間ですね……学生さんはそろそろ帰らないと、電車に乗り遅れてしまいますよ。
「また此処に来ても良いか」……？えぇ、勿論……それに、また来てくれれば……私も嬉しいです。

それじゃあまた来てくださいね……可愛い学生さん。


（嬉しそうな口調）
ごめんなさい、買い物に付き合ってもらって……でも、おかげで絵具とか新しい絵筆とか、色々と買えました……ありがとうございます。
それに、貴女とお揃いの髪留めも買えました……はい、とっても嬉しいです！私、ずっと大切にします！
うふふ……なんだか私、貴女と知り合えてから自分でも不思議なくらい毎日が楽しくなった気がします。
絵を描き続ける自信もついて、なんだか自分が明るくなれた気がして……ぜんぶ貴女のおかげです♪
私、もう貴女が居ないと生きていけないかも……なんて、少し重いですね。
でも、私にとって貴女はそれくらい大切な人なんですからね♪
ふぅ……到着しました。荷物運びを手伝ってくれてありがとうございました。
あのね、もしよければこの後……え？予定がある？
（困惑した口調）
そ、そっか……ごめんね、貴女にも予定とか、色々あるもんね……そうだよね……
きょ、今日はありがとう……それじゃあ、また今度ね。


（焦ったような口調）
え、えっと……こんな夜中にどうしたの？
貴女、最近は忙しいんじゃないの……わ、私なんかに時間を使っちゃだ、駄目だよ……
「様子が変だったから心配になった」……様子が変ってわ、私が？
そ、そんな事ないよ、全然大丈夫だから……本当に、本当に大丈夫だから！
ほ、包帯の下……？ちょっと擦り剝いただけだから、貴女が心配する事じゃ──嘘？
嘘なんかじゃないよ、本当、本当になんでもないから……だから、だからそんなに怖い顔でこっちを見ないでよ……はい、嘘です.
自分でスパッと……ごめんなさい……で、でも今までだって何度もしてたから、止血とかしっかり出来てるから！
「そういう事じゃなくて理由を聞きたい」……えっと、その……理由……理由はね……
（今にも泣きだしそうな口調）
貴女に会えなくて、寂しかったから……寂しくて寂しくて、私……だから痛いので寂しいのを掻き消して……ごめんなさい、ごめんなさい……え？
私が会いたくなったら、いつでも呼んで良いの……？私のわがまま……許してくれるの？
（必死な口調）
そ、それなら──私の傍から離れないで！もう何処にも行かないで！
貴女が隣に居てくれないと私、何をしてても不安で……自分は捨てられちゃったんじゃないかって……また独りぼっちになるのが怖くて、怖くて……だから、もうずっと私の傍に居てよ！
貴女だけが私の絵を褒めてくれるの！貴女だけが私の隣に居てくれる人なの……だからお願い、私を独りにしないで……何処にも行かないで。
（安心したような口調）
え……今日は一緒に寝てくれるの？本当に？
ありがとう……嬉しい……やっぱり、こうやって近くに居ると落ち着く……貴女、今日も良い匂いがするね。
なんだか、安心してきたら眠くなってきちゃった……それじゃあ、約束通り今日はこのまま、一緒に寝ても良いよね？
また明日、目が覚めてもずっと一緒に居てね？
明日も明後日も、来月も来年もその先もずっと……ずっと傍に居てね……

おやすみなさい……世界で一番ステキな、私だけの貴女。

・台本（ゆるボイ！）
貴女の事が大好きな画家さんは愛が重い
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
霜月鷹