キャラクター
幽霊車両の主（以下主）
大学の友達（以下ＪＤ）

【主】
あなた、生きてるでしょう
困りましたね
生きてる方が　それも殿方がこの車両に乗るなどもってのほか

この車両はこの世とあの世の境目の場所
女幽霊専用車両なのです

ほら、まわりをよーく見てごらんなさい
ここに乗っているのはすべて
かつて鉄道事故で命を絶たれた女性たちです

じきにみんなあの世へ行くのですが
まだお許しが出ないのです

この世への未練　あるいは罰なのでしょうか
私たちは今日もこうして
ひたすら環状線を巡っております

この車両は通常は人の目には見えません
存在するはずのない車両なのです

でも時々いるんですよ
あなたのように生きたままこの車両に迷い込んでしまう方が

たとえば、電車内でのスリや痴漢の常習犯
そんな男たちはこの幽霊車両に迷い込んだが最後、私たち幽霊女の餌食となり
地下鉄のもっと奥深く　地獄の底へと引きずり込まれてゆくのです

あなた、何か心当たりはございませんか？

ないですって？
電車の中でふしだらなことやいやらしいことを考えたことなど一度もないと
本当に誓えますか？ええ？


【ＪＤ】
すみません、ちょっと
ちょっと通してください
……

あの私、おぼえてる？
去年一緒のゼミだったでしょ
そう、私、踏切事故で死んだ田中美佐子です

あの、あのね
私、地元田舎だし
こんな性格だし
いつも緊張してみんなとうまく話せなくて
それで、あなたに
最後まで告白できなかった

こんなことになるなら

今更だけど、あの
好きだった　好き　好き　好きです


【主】
よかったですねえ、美佐子さん
言えなかった想いを伝えることができましたね
これであなたの心残りは消えました

おめでとう
もうすぐあなたはこの車両を去ることができるでしょう

それともいっそのこと彼の魂をからめとり
一緒に霊界まで連れて行ってしまいましょうか


【ＪＤ】
え？　そんなことできるの？


【主】
ええ、できますとも
私たちが力を合わせればね
あなたはそれを望みますか？

【ＪＤ】
え…あの…うう

【主】
ああ、いけないとわかっていても
望まないとも言い切れないのですね
わかりますよ　その気持ち

美佐子さん、あなたにはどうやら告白以外にも
まだ何か未練が残っているようですね
正直に言ってごらんなさい


【ＪＤ】
あの　実は私、まだ一度も
ええと　あの

私のことどう思いますか？
あの、女として

いやあの
こういう女は嫌いですか？

・・・・
え、ほん、ほんとに？


【主】
ああ、わかりましたよ、美佐子さん
あなたの最後の望みが
大丈夫、ここはわたくしたち幽霊女の車両です

わたくしたちの満たされない想いによって作られたこの空間は
常にひとつの力を生み出している
ですからこの車両の中でなら
私たちも生きた人間である彼に触れることができるのです

ほら、彼もまんざらでもないようじゃありませんか


【ＪＤ】
あ……あっ、ほんとだ……ほんとに
あ、触っちゃった

あの、私でよければ、あの……


【主】
さあみなさん、美佐子さんが想いを遂げられるように力をあわせて
私たちも手伝ってさしあげましょう

・台本（ゆるボイ！）
【声劇】女霊専用車両【一人２役または２人用】
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
クリスらびっと