山でキャンプを楽しんでいたあなたは、道に迷って倒れてしまった。
ちょっと天然なスライム状の宇宙人が来て助けてくれたが・・・

気が付いた？
もっとお水、飲んで

大丈夫、不純物をとりのぞいたきれいなお水だよ
それに、ぼくの身体の一部を溶かしてあるから
すぐ元気になれるよ

どうしたの？

ぼく、トゥルプルプロプル

うん、トゥルプルプロプル

そう？じゃあ、いいよ、スライムって呼んでも

この山に住んでるわけじゃないよ
遠い遠い星から来たの

え？地球侵略なんかしてないよ
ぼくたちはマナーを守る文明人だよ

ここへ来たのは課題研究のためだよ
他の星の生き物のことを調べてまとめてるの

どうせならみんなが行かないようなところがいいなって
たくさん調べてここに来たんだ

言葉だってわかるよ
電波を拾ってぜんぶ憶えた

本当は、あまり人に見られちゃいけないんだけどね
研究や調査はしてもいいけど
その星の文明に干渉しちゃいけないんだよ

でもきみはこんなところに倒れててかわいそうだから
友達のかたつむりがね、きみを助けてほしいって言うから
特別だよ

きみがあっちの川でテント張ってたとき
川に落ちたかたつむりを、きみが助けてくれたんだって

よかった
元気になったみたいだね

あー何してるの？
通話できなくなった？

残念だけど、その機械はぼくには直せないよ
宇宙船ならもっと先のダムに隠してあるけど
そこまで一緒に行く？

どうしたの？

足が痛い？

怪我しちゃったんだ？

うーん、
歩けないなら
這っていけばいいんじゃない？
こうやって……

だめ？
じゃあ転がって移動したら？
こんなふうに……

ふふ、冗談だよ

ふーん
がけ崩れで予定してた場所が通れなくなっちゃったんだ？
それで道に迷っちゃったんだね

大丈夫
このへんの地理はだいたい頭に入ってるから
ぼくがきみのこと
好きな場所まで運んであげる

他の人間がいる場所まで行けばいいの？
いいよ、まかせて

じゃあ、まずその着てるやつ全部脱いで
悪いけど荷物はあきらめてね

ぼく一人じゃきみを助けるだけで精いっぱいなの
余計なものは全部ここに置いて行ってね

そう、それも全部脱いでね

これからきみをぼくの身体に吸収するから

うん、運ぶってそういうことだよ
きみをぼくの身体に入れるの

上に乗るだけじゃだめだよ
地面に落とさないようにするの大変だし
日が出てて暑いから
また脱水症状になっちゃうよ

一度ぼくの中に吸収して運ぶのが一番効率がいいんだよ

食べるのとはぜんぜん違うよ
どう説明したらいいのかな

人間や哺乳類の赤ちゃんは、お母さんの中で育つでしょ
お母さんはお腹が空いても赤ちゃんを溶かして養分にしたりしないよね

一定期間生命を維持して保存していて、その時が来たら
赤ちゃんは、ちゃんと生きたまま出てくるでしょ

それと同じことなの

わかってくれた？

それじゃ吸収するから
抵抗しないで力抜いてね

（うーん、よいしょ！みたいな、なんか適当に声を入れる）

痛くないでしょ？

ひんやりしてて気持ちいい？

きみの身体はすごく熱いね

よいしょ、よいしょ

よし、全部入った
全部入ったよ

あはは、あんまり動かないでよ
くすぐったいよ

え？どうしたの？

あ、ごめんごめん
空気が吸えないとだめなんだね

じゃあ頭だけ出して……

この大きい葉っぱをここに挿して、日除けにして…

うん、これでいいんじゃない？
じゃあ、出発するよ


（歩いている）
……
一人でキャンプするのが好きなの？
ぼくと一緒だね

（愚痴聞き中）

ふーん、そんなことがあるの
人間の学校って大変なんだね

え？スライムの学校？

学校はないよ
ぼくたちはもっと大きなスライムの一部なの
いつでもみんなと一つになれるし
知識は一瞬で共有できるよ

地球にある似たものっていったら、インターネットかな
ぼくのページに、ぼくが調べたことを書き込むとするでしょ？
そのページは見たい人が誰でもアクセスできて
情報を共有できるんだよね？

ぼくたちのネットワークもそれと同じ
星に帰ってみんなと繋がれば
ぼくが外の星で学んだことをみんなで共有できるんだよ

（愚痴聞き中）

ふーん
じゃあ、戻るのやめちゃえば？

言葉を学んだとき人類の歴史も勉強したけど
ぼくたちとはぜんぜん違うんだよね

ぼくたちの世界には国境も戦争もないんだよ
男も女もいない　人種も宗教もない
地位も年齢も関係ない

ぼくたちの間には、嘘もない　秘密もない
だって、いつでもみんなと一つになれるんだもの
ここみたいな固形物の世界より、ずっとずっと平和だよ

ねえ、ぼくたち
他の星の政治に干渉しちゃいけないことになってるけど
ぼく、きみ一人くらいなら助けられるよ

だってきみ一人くらいここからいなくなっても、
人類の歴史には何の影響もないでしょ？

そんな不自由で狭い世界なら捨てちゃいなよ

簡単だよ

このまま、ぼくと溶け合ってひとつになっちゃえばいいんだよ
そうすれば、きみはもうぼくたちの一部だよ

人間には友達や家族がいるかもしれないけど
ぼくたちみたいなやり方で一つに融合できない以上
やっぱりみんなひとりぼっちなんじゃないかな

ぼくとひとつになれば、
きみは二度とひとりぼっちになんかならないんだよ

いつでもみんなと溶け合えるんだから

一度味わえばきっと
すごくいいことだってわかってくれるよ

ただ、元には戻れないけどね

これからきみの皮膚を溶かして
きみの組織をゆっくりゆっくりぼくの中に取り込んであげるから

痛くないよ
きみの神経系を制御するくらい簡単だもの

むしろ気持ちよくしてあげる
静かに眠るように溶かしてあげるよ

きみとぼくは一つになるの

それはきみにとって死ぬってことになるの？
ぼくはそうは思わないな

死ぬんじゃなくて、新しく生まれ変わるんだよ
きみはぼくの中で、すべての体験を共有しながら永遠に生きるの

ぼくたちにはそれぞれ役割があるんだよ
ぼくの役目はフィールドワーク
宇宙のあちこちに出かけて、いろんな情報を集めて持ち帰るの

きみもキャンプが好きでしょ
だったらぼくたち気が合うんじゃない？
ぼくは人間よりずっといろんな環境に適応できるんだよ

そんな不便な固形物の身体で地球に縛られるより、
ぼくと一つになれば、もっと自由になれて
もっともっと遠くまで行けるんだよ

一緒に世界を見てみたくない？

……
やっぱり行けない？

きみにもまだ、ここで大切にしたいものがあるの？

そう　それじゃ、ここでさよならだね

ほら、あそこに大きな道路があるし
あっちにお店みたいなのも見えるよ

分離するよ

うーん……

ふう、これでよし



え？裸じゃ困るの？

じゃあこれ着て

それ、ぼくの膜だから
しばらくすると溶けちゃうから
それまでにほんとの服を手に入れてね

じゃあ、お別れの印にぎゅってして

うん、ありがとう

それから
ぼくたちが出会った記念の印にこれをあげる

石みたいだけど石じゃないよ
凝縮されてるけど、それはぼくの一部
たくさんの遺伝情報が詰まってるんだ

もし、きみが本当に困ったことがあったら
それを水と一緒に飲んでね
きっと助けになるから

でも気を付けてね

それを飲んだら、きみは今度こそ本当に人じゃなくなるかもしれない
そのときは、もう二度ともとには戻れないからね

じゃあね、さよなら

・台本（ゆるボイ！）
【フリー台本】スライムに吸収される【性別不問】
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
クリスらびっと