そのメイドはどちらなのか
それは、確認するまで分からない

(ＳＥ：ノック音)

(ドアの向こうで喋っているので、籠もった感じの音声)
ご主人様、朝ですが起きていらっしゃいますか？

(間)

(籠もった感じの音声)
入りますよ。

(ＳＥ：ドアの開閉音)

ご主人様、朝ですよ。

やはり、まだ眠っておられましたか。

お寝坊さんですね。

(ＳＥ：頬にキスする音)
ちゅっ。

可愛い。

おや、お目覚めになりましたか。

朝食が出来ておりますよ。

冷めない内にお召し上がりを。

……ふふ。

それとも、私をお召し上がりになられますか？

(ＳＥ：慌ててドアが閉まる音)

あらあら、初心なんですから。

(間)
(朝食からご主人様が戻ってきた後)

さっ、朝食も終わりましたし、お着替えを致しましょうか。

はい？

何でしょうか？

私が手伝うのは不満ですか？

あ〜、そういう事ですかぁ。

ご主人様、恥ずかしいんですねぇ？

何故、恥ずかしがる必要があるのですか？

ご主人様と私の中ではありませんか。

ふむ……女性に見られるのは恥ずかしいと？

手伝ってもらうのは尚更……なるほど。

そういう事でしたら、ご安心下さい。

私、男ですから。

ですので、安心して任せて下さい。

えっ、何がですか？

知らなかった？

何をですか？

あっ、私が男だという事ですか？

あれ、言っておりませんでしたか？

初めて聞いた、と。

しかし、言わずともとっくに気付いているものだとばかり。

声が女の子みたいだから気付かない……ふむ。

ご主人様。

他人を見た目や声で判断するのは失礼ですよ。

中身で判断しなければ。

えっ、中身でも分からない……？

ご主人様って、意外と……鈍い？

はい？

何故こんな格好をしているのか？

それは簡単な事です。

ご主人様の為であり、私の為です。

私はご主人様を愛しています。

ですが、ご主人様は女性が恋愛対象。

ならば、私がご主人様と結ばれるには、女性の格好をして気を引くのが最適だと判断したのです。

さて、ご主人様、お着替えを致しましょうか。

うーん、確かにそうですね。

では、確かめてみますか？

私の……こ・こ♡

私が口で説明したとしても、確かめるまでは男か女か分からない。

箱の中の猫が死んでいるかどうかは、開けてみないと分からない

確か、シュレディンガーの猫、でしたか？

私には詳しく分かりませんが、箱の中に５０％の確率で猫が死んでしまう状態を作り、しばらく時間をおいた後の猫の状態はどうなっているのか、というものですかね？

５０％の確率なので、猫が死んでいるのか、生きているのかは分からない。

猫が死んでいる状態と死んでいない状態の２つが存在しているから、開けてみないと、死んでいるか、生きているか分からない

こんな感じでしたか？

まあ、それが合っているか、間違っているかはともかく。

今、ご主人様の中には、男である私と、女である私の２人が存在している事になります。

私が男と女のどちらなのかは、私のここを確認するまで分からない。

さあ、ご主人様、確認なさいますか？

それとも、真実には触れず、今まで通りに私と接して下さいますか？

もう１度言いますが、私は男です。

信じるかどうかは、ご主人様次第です。

ご主人様の中での、私の性別が男であれ女であれ、私がご主人様を愛している事に変わりはありません。

私にとって、性別など些細な問題なのです。

ただ、ご主人様が好きになってくれそうな服装を選んでいるだけです。

それが、世間的には女に見える、というだけの話です。

ご主人様さえ良ければ、いつでもご確認下さいね。

私は拒みませんから。

私が男なのか、女なのか。

どう思うかは、ご主人様次第です……。

・台本（ゆるボイ！）
シュレディンガーのメイド
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
如月英梨