学校のとある空き教室を貸し切っている後輩の女の子
彼女はそこで、何かを作っているようだ

感情が乏しいので、常に暗く淡々とした話し方(ダウナー系のような)

(ＳＥ：引き戸の開閉)

どうも……先輩。

私の部屋に何が御用でしょうか？

この空き教室は、私が学校から許可を得て使っている貸し切りの教室なのですが……。

(間)

はい……？

私に会いに来た……？

もしや先輩、私の作った薬品の実験台になって下さるのですか？

それなら、有り難い限りです……。

では、さっそくですが、こちらの薬を飲んでいただけますか？

えっ、実験台になって下さるのではないのですか……？

では、私に何の用でしょうか？

会いに来たのであれば、何か用があるんですよね？

(はぁ……は溜め息ではない)
はぁ……世間話ですか……？

何故、私と？

もっと明るくて元気な人と話せば良いと思うのですが……？

わざわざ、私のような感情表現が苦手な暗い人間と話さなくても……。

私が周りから避けられているのはご存知でしょう？

えっ……いや、避けられているのはイジメではありません。

聞いた話によると、恐怖だそうです。

以前、私の作った薬品飲んでみてほしいと、とある男子生徒にお願いして飲んでもらったんです。

その男子生徒は、女たらしで有名だったそうで、私のようなタイプにも興味があったのか、声をかけてきたので、良い実験台だと思って、薬品を飲んでほしいとお願いしたら、女の子から出された飲み物は飲むとか言って飲み干しました。

それから、その男子生徒がどうなったかご存知ですか……？

(間)

好みが逆転しました……。

今は、男たらし？になっているようです。

その原因が私というのが学校中に知れ渡って以来、私はこのように孤立しております……。

元々、ほぼ孤立状態でしたが……。

まあ、そんな事はどうでも良いんです。

先輩も世間話のついでにどうですか……？

えっと……これなんか如何（いかが）でしょう？

惚（ほ）れ薬です。

飲めば一定時間、先輩の体臭が人を惑わせる匂いになります。

相手からは、先輩が凄く魅力的な人に見えるようになるという物です。

欠点があるとすれば、性別を問わないというところですね。

男性も惹きつけます。

つまり、男女両方にモテモテになります。

(間)

ダメですか……。

私を落としたいのなら、覚悟も必要だと思いますが……。

えっ……まさか、気付かれていないとでも？

私に自分から会いに来るような物好きは多くないですし、用件を尋ねれば世間話をしに来た。

私に告白しようにも、勇気が無く、どう切り出せば良いか分からないから、とりあえず世間話を、という事ですよね？

……図星ですね。

話をして分かったと思いますが、私はこういう人間です。

恋愛なんて分かりませんし、興味が湧きません。

恋愛というもの自体に興味はあります。

ただ、興味が湧かないんです。

先程も言いましたが、私は感情表現が苦手です。

仮に先輩と恋仲になったとしても、上手くやれる自信はないです。

はい……？

先輩の事ですか？

好きでも嫌いでもないですね。

特別な感情は全くないです。

感情が乏しいだけかもしれませんが、他人を好きになるという感覚が分かりませんので、何とも言えません。

先程、私が先輩に勧めた惚れ薬なら、私の感情も動くかもしれませんよ？

先輩はモテモテに、私は実験結果を得られる。

双方に利益のあるものだと思いますよ？

どうされますか？

(間)

分かりました……。

では、こちらを飲んで下さい。

(間)

先輩……何か変わったところはありますか？

身体が熱いとか、息苦しいとか。

(間)

何も感じない……ですか。

実験は失敗のようですね。

すみません、付き合っていただいて。

この薬は改良しなければ……ぐっ……。

あっ……いえ……何でもありません。

少し胸が苦しくなっただけです……。

風邪でしょうか？

今日は早めに切り上げて帰ります。

先輩も何か異常があれば連絡を下さい。

私の連絡先はこちらです。

では先輩、お気を付けて。

(翌日)
(間)

(ＳＥ：引き戸の開閉音)

おや先輩、また来られたんですね。

あれからどうですか？

ふむ……男性と女性両方に声をかけられたと。

好意的な目を向けられていましたか？

(間)

では、薬の効果はあったんですね。

しかし、そうなると、私に効果が無かったのが不思議ですね。

薬の効果は私にも予測出来ませんので、どんな事が起こるかは使ってみないと分からないんです。

この薬は惚れ薬ではなく、元々ある感情を増幅させる薬なのでしょうか？

だから、感情の乏しい私には効果が無かった。

はい？

試したい事があると……？

ええ、同じ薬ならストックがありますが、また飲むつもりですか？

私は構いませんが……。

えっと……こちらです。

(間)

先輩、大丈夫ですか？

先輩？

えっ、な、何でしょうか？

私の顔に何か……？

先輩、どうしたんですか？

そんなに私を見つめて……。

告白する勇気がなく、世間話を提案してきた人とは思えない行動ですね……。

はい……？

ドキドキ……ですか？

先輩の唐突な行動に驚いて、心拍数は少し上がっていると思いますが、これがドキドキなのかは分かりません。

(ＳＥ：壁ドン)

先輩、これは一体？

もしかして、壁ドンというものですか？

ふむ……確かに心拍数が上がったように感じます。

先輩を見て、私はドキドキしているんでしょうか？

先輩、試しに私に好きと言って下さいませんか？

(間)

確信しました……。

私は今、先輩に惚れています。

元々の感情を増幅させるものだとすれば、私にも他人を好きになる感情があったのでしょう。

それで、先輩はどうなさるおつもりですか？

(間)

分かりました……。

では、今日から私は先輩の彼女ですね。

そして先輩は、私の便利な実験台。

えっ、この感情は薬によるものだと分かっているので、薬なしで私の感情を動かせたら、彼氏として扱ってあげますよ。

では先輩、これからも宜しくお願いしますね。

・台本（ゆるボイ！）
感情が乏しい後輩
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
如月英梨