去年の晩夏に見つけた廃神社。
保有する敷地内にあるということもあり、整備をしていたところ声を掛けられる。
そこには狐の神様がいて、整備をしてくれたお礼をしたいとのこと。
それが彼女との最初の出会いだった。

季節は過ぎて、7月上旬。
昨年あげた扇風機がこわれてしまったと泣きついてきた狐神さまはエアコンの存在を知って…。

【聞き手の部屋】
帰ってきたのう。
お邪魔しておるぞ。

なぜワシがお主の部屋にいるのかじゃと？
そうじゃな…。

それは昨日のことじゃ。

お主に嫁いで早数か月。
季の節ももう3つ越えておる。
この姿を得て、初めての夏じゃ。

そこでワシは、去年お主からもらった機械を出すことにしたのじゃ。

"せんぷうき"じゃったかの？

じゃが…何度すいっちを押しても動かない。
ちゃんとお主が言った通りにしても動かないのじゃ。

これでは、ワシも境内に咲いている紫陽花のように干からびてしまう。
もうあの快適さを知ったワシには、風鈴の音など涼しさにならないのじゃ。

気休めどころかうるさいと感じてしまうほどにな。

と、いうわけでお主の部屋にいるというわけじゃ。

ところでお主。
なぜこの部屋は"せんぷうき"もないのに涼しいのじゃ？

"えあこん"…。

ほー！　人の世もすごいのう…。

からくりはわかるかの？
簡易なものであれば、ワシの妖術で再現できると思うのじゃが…。

ふむふむ暖かい風を液体にしてきかねつ(気化熱)で……？

？？？

わ、わからん…。
何を言ってるおるのじゃお主は…何かの呪文か……？

まぁ、ワシの力ではどうにもならんことがわかった。

全盛期ならやれたかもしれんが、いまじゃ信仰してくれるのはお主だけのちっちゃな神様じゃからのう…。


ということは、長らくはあの蒸しっぽさを我慢して過ごさなければいけないわけじゃな…。


もらった"せんぷうき"も、ずいぶん使い古したものじゃった。
…この"えあこん"とやらがあれば、お主も次は買わなかろう。


のう…夏休みとやらはまだなのかえ？
そしたらお主の部屋にずっとおってもよかろ？

//本当にうれしそうに
そうかそうか。
待ち遠しいのう…。

ふぁあ。
涼んでいたら眠くなってきおったわ。

…家人はまだ帰ってきてはおらぬよな？
絶対に絶対にお主の部屋からは出んことを約束する。
出んから、少しごろごろさせてくれ…。

夜も暑くて、ここのところよく眠れてないのじゃ…。
お主の寝床、邪魔するぞ…。

おお、ふかふかじゃあ…。
畳と石の枕とは大違い…。
夏に布団に入りながら眠れるとは、何という贅沢…。

すゃ…zzz。

(間)

おはよう…。
もう夕方じゃな。

お主のおかげで幾分か体を休めることが出来た。
日も出てなければ、多少は大丈夫じゃろう。

本音は1歩たりともここから動きたくないんじゃが…。
しょうがない。

決まり事じゃからの。

そうじゃ。
出来たらワシのお社にも"えあこん"をつけてくれんかの…？

それなら可能であろ？

電気が無理…？
扇風機は"もばいるばってりー"とやらで動いたではないか…！　
それなら"えあこん"も…


そ、そうか…。
お主が言うのなら仕方がない。

な、なら…毎日とは言わん。
たまにでいい。
たまにお主の部屋に通ってもよいか…？

”えあこん"抜きにしても、もうちょっとお主のそばにいたいのじゃ…。

夏休みまで待ちきれん。
ダメ、かの…？


真じゃな…？
取り返しはつかぬからな？

よし。
ちなみにワシのいうたまにとは、2日に1回じゃ。

ふははっ、仔細(しさい)を確認せず神様と約束ごとをしたお主が悪いわ！

約束通り、通うからの。

布団はちゃんとふかふかにしておいてくれ。
もしお主が休みなら、共に寝床につこうではないか。

涼しい部屋ならば、大胆にくっついても暑くなかろ？
ふふ、次の休みが楽しみじゃな♪
のう…お主♪

・台本（ゆるボイ！）
狐神さまはエアコンの効いた部屋を所望する
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
鮎