もう何度目の失恋だろう。
もう何度目の会話だろう。

僕が別れるたびに彼女は飄々と現れる。
まるでそれを知っていたかのように。

【道端・夜】

やぁ、どうも。
また別れちゃった…みたいですね。

だから言ったじゃないですか。
貴方の運命の相手は私であると。

…こんな話はご存じじゃありませんか？
運命の相手とは、生まれたときから赤い糸で結ばれている…そんなお話を。

小指を見てください。
そうです、これが俗に言う運命の赤い糸…。

私の小指にもしっかりと結ばれています。
もちろん、この糸の先は貴方の小指。

こんなくっきり見えているのに往生際が悪いですね。

私の糸で編んだもの…？
確かにそうですが、あくまでこれは私が見える糸を可視化しているにすぎません。

私の…蜘蛛の目は人間と違って特別なんです。これは貴方にもわかりやすいようにしているだけ…。


"そんなに好きならさらうなり拘束してしまえばいい"…？


いえ、手荒な真似はしませんとも。
仮に手荒な真似をした場合、貴方の気持ちは私に向きますか？　

答えはノーです。

貴方が、貴方の意志で私を選ぶことに価値があるのです。
真の愛に気付いたとき、私は貴方の前にいます。

だから貴方には、いろんな恋愛をしてもらいたい。

ぜひしてください。
そして、その恋愛ではできないことを心の中で貯めていただくのです。

私はそのどれもを受け止める用意は出来ています。
必ず、貴方は私を選ぶ、そういう運命なのです。

貴方が暴力で愛したいのなら、望んで嬲られましょう。
貴方が暴力で支配されたいのなら、愛のある暴力で応えましょう。
貴方が純粋な愛を楽しみたいなら、それに応えた愛情を返しましょう。

すべてすべて、貴方の思い通りになるのが私なんです。

…そうですね。
いま貴方に私が出来ることと言えば…慰めでしょうか。
私なら、その痛めた心を糸で縫うように治してあげられます。

もう一度言いますね。
私は、いつか貴方が私を選ぶことを信じています。
それゆえに、私が一番安全な頼り先と言っていいでしょう。

貴方が求めなければ私も求めません。
貴方が求めた分だけ私は返します。
わかりやすい関係だと思いませんか？

…わかっていただけたようでなにより。

ではいつもの場所に行きましょうか。
あそこ、安くて人もあまり来ないのでお話たくさんできるんですよね。
彼女さん…いえ、もう別れてしまった人の愚痴、たくさん聞かせてくださいね。

もちろん、そのことばかりではありません。
どんな人に会いたいのか、どういう生き方をしたいのか。

全般的に聞いてあげます。さながら専属のカウンセラーのようにね。

私にどんどん感情をぶつけちゃっていいですから。
私はそれを肯定も否定もしません。
ただの言葉のサンドバッグになってあげます。

閉店時間まで…一緒にお話ししましょうね。
私の楽しみは…貴方の弱い部分を聞くこと…なんですから。


//数ヶ月後


おや、おやおや？
今日は随分と甘えたじゃないですか。

はは、これはひどくやられたようで。
あとで手当してあげますね。

…？
どうしましたか…？

"好き"…。

それは私のことを好きと…？
そういうことですか？

なるほど…ようやく決心がつきましたか。

…そうですかそうですか。
貴方の隣にいるのが私であると、ようやく…ふふ。
嬉しいです。

…なら…貴方は…私にどうしてほしいですか？
彼女たちと別れるたびに…私と会うたびに…溜まってきたものがあるでしょう？

溜め込んだ欲望をすべて…私にぶつけてくださいね…？
運命の赤い糸はそんなものでは千切れませんから。

選ばれた以上、もう貴方を逃がしません。

尽くして尽くして尽くして…尽くしあげてさしあげます。

自ら、蜘蛛の巣に入ったことを後悔しないように…ね。

・台本（ゆるボイ！）
ヤンデレクモ娘は小指の赤い糸(物理)を主張してくる
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
鮎