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一線を渡る
written by 夜木嵩
  • ヤンデレ
  • 幼なじみ
  • 送別
公開日2026年01月13日 20:05 更新日2026年01月13日 20:05
文字数
2506文字(約 8分22秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
男を見送る幼馴染
視聴者役柄
旅立つ男
場所
長橋・深夜
あらすじ
あなたは夢のため、故郷を出ていくことにした。
出発の際、これまでずっと一緒だった幼馴染は最後に二人きりで過ごしたいと、夜中、町の外へと向かう橋を渡り見送ることに。
この時間が終わってしまえば、もうあなたと会うことはない。
今まではっきりと気持ちを伝えられないままだった彼女は、この最後の時間に……

(SE:適宜、川・風等自然音および足音)
本編
思った通り、誰もいないようだね。
よかった。

こんな夜中にこの橋まで来るのなんて初めてだが、案外眺めはいいものだな。
世界が透き通って見える。

それに、二人きりだと自然の音がよく聞こえてくる。
あぁ、心が洗われるようだ。

わがまま言ってこんな真っ暗な中の出発にしてもらったけど、正解だったよ。
誰にも邪魔されたくなかったから。

惜しいのは、君の顔がよく見えないことくらい。
折角の最後だっていうのに。

流石にどこまでもは送っていけないからね。
渡り切るまで、かな。

でもそうか……

本当に、君はこの町から出て行ってしまうんだな……

まだ時間はある、まだ時間はある、と思っているうちに、こうしてさよならが目の前にまで来てしまったよ。

残酷なものだな。
時の流れというものは。

……なあ。

今からでも、考え直してくれないか……な。

私に君の決意を否定する権利なんてないことくらい、当然わかってるけどさ。

何を言ったって君は旅立つんだ。
君への気持ちを胸中に残したって仕方ないだろう?

君も、何か言いたいことがあるなら、今のうちに全部言ってくれるといい。

まぁ、その、こんな時になって、今更好きとか言われても、こ、困るが。

そう、残念。

でも、君は君で寂しいとか、それくらいは思ってるんだろう?

おいおい、隠すことじゃないさ。

今だけの話だよ。
誰に言うわけでもない。
そもそも、私がここまでついてきてることだって誰にも言えるものじゃないからね。

ああ、それでいいんだ。

蓋はしなくていいよ。

なんか、言わせた感じになってしまったね。
もしかして、気持ちはもう前を向いている、というところかな?

羨ましいよ。
君にはそれだけ心惹かれる何かが待っているということだろう?

もう私は、置き去りなんだな。
……ってのは、考えすぎかもしれないけど。

いつまでも覚えていてくれなんてのは、過ぎた望みかもしれないが、せめて隣にいるうちはこっちを見ていてほしいものだよ。

だって、私と君の仲だから。

二人だけの秘密だって、約束だって、一体いくつあることだろう。

まさか、ずっと一方通行だったなんて言うつもりじゃないよな?

少なくとも今、君が、私よりも夢の方を向いているのは確かだろうけど。

仕方ないよ。

人間、望んだものをすべて手に入れるなんてきっとできない。

二つを天秤にかけないといけないことだって必ずやって来るんだ。

今、ここに広がるものは静かに流れる川のせせらぎと、満天の星。
昼間なら花の色や山の青さだって鮮明に見えるけど、賑やかにもなるし、星も見えなくなってしまう。

私は、ここで太陽の光を浴びると、悲しさも吹き飛ぶ気分になるのだけど、もう夜も更けてしまったからね。

あの満月は、寄り添ってはくれるけど。

……そもそも私は、選べる立場ではなかったね。

そして、選ばれもしなかった。

君にのしかかる言い方をすれば、そういうことにはなるんだよ。

もちろん、選んだ君の幸せを願わないわけではないからね。
同時に、君もひとりでやっていけるのかとか、心配に思うこともある。

もし私が旅立つのならと考えてみると、君が選ばなかったここでの毎日を捨てることって、本当に大きな覚悟が必要になってくるから。
私にとって大事な大事なものがそこにはあるしさ。
君の気持ちがわかるわけではないけど、そこに大きな違いもないんだろうなと思っているよ。

心の穴はね、同じものじゃないと埋まらないこともある。
無理に埋めようとして痛みを覚えるくらいなら、風が抜けてしまうままの方がいいことすらあるんだろう。

……友として、褒められたものじゃないよな。
私はどこかで、君の永遠の心の空洞として居座り続けられたらなんて願ってるらしい。

果たして、私はそう思ってもらえるほど、君に何かを捧げられたのだろうか。

君のことを理解できるくらい長い時間を共にしてきたとは思っていたけれど、君の肝心の部分は不思議なことによく見えなくてね。

もう、答え合わせをすることもないまま、モヤモヤし続けるものだと諦めようとしてたよ。

二人きりの時間だ。
何でも聞ける。

君にとって、私は一体何だったんだろうか?

 (間)

……そう、か。

胸にしまっておくよ。

もう、町がよく見えないところまで来てしまったね。
月がよく映ってる。

そうそう、この橋を満月の夜に二人で渡った男女は結ばれる。
そんな言い伝えがあるんだとか。
生まれてからずっとここにいるのに、知らない話もあるものだね。

デタラメじゃないさ。
うちの書庫にある本にはそんな話が残されていてね。
気になるなら確かめに戻るかい?

流石にその手には乗らないか。
いや、あるのは本当だけど。

それにしても、もう渡り切ってしまうね。

……結ばれてしまうね。

そういうのは渡る前に言え、なんて言われても、私は姑息な女だから。
悪いね。

昔の遊びを思い出すよ。
何度君を出し抜いてきたか。

そもそも、それが絶対に叶う話ならば、これからこの山の向こうへと消えていく君と町に残る私、どう考えても結ばれようのない二人をどう導いてくれるのか、見てみたいものだよ。

……それならば、何も悩まずに済むのだけれど。

あぁ。
話してると、あっという間だ。
ついにここまで来てしまったよ。

ずるずると君との時間を引き延ばしても、もう本当にお別れか。

できないなぁ……

あのさ。

ここってさ。
もう、町の外、なんだよね。

こんな夜中じゃ、誰も、私たちのことなんて見ていない。

誰にも、咎められない。

ここに、罪なんてない。

そ、そうだよね。

……じゃあ、君は私のものだ。

 (女、男を押し倒す)

あはは、笑顔で見送るはずだったのに、どうして今、君のこと押し倒してるんだろうな。

もうね、君に嫌われてもいいや。

私だけを見てくれることも、もうないもんね。

もう最後だし、今からしたいこと、全部する。

気持ちも、全部教えてあげる。

私のこと、ちゃんと覚えててね。

これからのことも、全部だよ。

だから、しっかり焼き付けないとね。

私は片時も、忘れるつもりはないからね。

向こうで、悪い女に騙されないでね。

できることなら、誰のものにもならないでね。

お互い想い合えば、きっと届くって信じてるから。

手紙、時々でいいから送ってね。

必ず、ここに帰ってきてね。

私たちの関係は、特別だよ。

ずっとずっと、そう思ってもらえるように、頑張らないとね。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
一線を渡る
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
夜木嵩
ライター情報
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