…誰？ここ、何もないけど…

…？ちょっと何言ってるか分からない。最高って、何が？

あたし…？そんなわけない。あたしは既に用済みの機械人形。いずれ稼働も停止するし…

(お姫様抱っこされる)

えっ、あっ…ちょ、ちょっと！いきなり何すんの…⁉︎

もったいない…？あたしが…？

ねぇ…あたしたち、初対面だよね？なんでそんなに馴れ馴れしいわけ？

って、ちょっと！人の話聞きなさいよ！もう！




ここ、貴方の家？

そう…雑然としてるけど、ゴミ屋でもやってんの？

時計屋…？そう…その時計屋がなんであたしを…？

いや、違うけど…今出てる最新型の機械人形からしたら、プロトタイプも同然だし。

そ、第一世代の機械人形。それがあたし。

要するに、貴方のお眼鏡に叶う人形じゃないってこと。

残念だったわね。分かったらさっさとその辺に捨てなさい。

なんで怒るのよ…ホントのこと言っただけでしょ？

は、はぁ？あたしの価値なんて、あたし自身が一番よく分かってるわよ。

開発者からは無能の烙印を押され、引き取ったマスターからは捨てられる。そういう星の元に生まれたのよ、あたしは。

うっ、うるさいな…！あたしがいいっつってんだから、いいに決まってんでしょ！文句ある⁉︎

うっ、あっ…ちょ、ちょっと待ってよ！そんな一気に捲し立てられても何言ってるか、全然分かんないわよ！

えっと…つまり、貴方はあたしに存在価値を認めてくれるってこと…？

さ、最高傑作って…何言ってるのよ。あたしはただのプロトタイプで、時代遅れの旧型機種でしかなくて…

改良って…何する気？あたしに拡張性なんてないわよ？

…ふふっ。貴方って変人ね。こんな壊れかけの人形を直すどころか改良するなんて…

ま、やれるもんならやってみなさい。どうせこのままだと稼働停止するだけだし、貴方に任せてみるのもありかもね。

ん、よろしく。せいぜい修理なり改良なり好きにしなさい。




………新型プログラムのアップデート完了。直ちに起動します。

…あれ？ここって…

あっ、えーっと…貴方、誰？

え、あぁ、うん。検索、検索ね…

…ヒットした。もしかして貴方、廃棄寸前のあたしを直そうとした変人？

え、ドクター？そう呼んだ方がいいの？

分かった。ドクター、あたしを直してくれてありがとう。

なんか色々プログラムが組み込まれてるけど…これ、何？

はぁ…なんかよく分かんないけど、とりあえず試してみるわね。

……はっ？何これ⁉︎ ちょっと、腕からなんか凄いもん出てきたんだけど⁉︎

ガトリング砲⁉︎ なんでそんなもん付けるのよ！絶対要らないでしょ！

いや、たしかにそうだけど！どう考えてもオーバーキルでしょ、これ！

はぁ…武装に関するプログラムは後で試すとして…他は何が…

……ちょっと。何この『お着替えセット』ってやつ。嫌な予感しかしないけど…

……何この薄着？項目には『水着』ってあるけど…

いや、海でなんて泳がないけど。何考えてんの、ドクター…

もしかして、あたしで遊んだ？ねぇ、そうでしょ？正直に言って。ドクター。

はぁ…呆れた。貴方の娯楽のために拾われたのね、あたしって…

…人間として？何言ってんの、あたしは機械人形よ？そんなふうに扱われても迷惑よ。

人間らしい、か…機械のあたしがね。

まぁそれに関してはあとで考えておくわ。それよりこれからあたしはどうすればいいの？

助手？ドクターの？

ん〜…わかった。どうせ他に行き場もないしね。これからよろしく、ドクター。




ドクター、また時計修理の依頼が来たけど…

人形修理？そんな依頼ないわよ。ドクター、一応時計屋でしょ？

人形技師の資格持ってるなら公にすればいいじゃない。なんで時計屋やってんの？

ふーん…まぁ言いたくないなら、聞かないけど。

とりあえずほら、今は仕事に集中！あたしは、直った時計、依頼主に届けてくるから。

ちゃんと真面目に仕事してよ？この間だって納期ギリギリでヒーコラ言ってたんだから。

あたしもう行くから。それじゃあね。




ただいまー……ドクター？戻ったけど…

ドクター？……いないのかな。外出してるなんて珍しい。

ま、いっか。どーせそのうち帰ってくるでしょ。コーヒーでも淹れて待ってよ。




遅いな…今日、出先で泊まりとか言ってたっけ？

あ、ドクターから通信……もしもし？ドクター？今どこで何してんの？

はっ？誰アンタ…ドクターはどこ⁉︎

ッッッ！上等じゃない…！そこ、そのまま動くんじゃないわよ！




ドクター！助けに来たわよ！どこにいんの⁉︎

あ、ドクター！何だらしない顔して捕まってんの⁉︎ そいつ何⁉︎ 新しい女⁉︎

へ、へぇ〜…あたしのドクター勝手に攫っといていい度胸じゃない…！

許さないわよ、そんなこと…！ドクターの専属人形はこのあたし！アンタみたいなポッと出の人形に譲るわけないでしょ！

…はっ。やれるもんならやってみなさいよ。あたしはもう、壊れかけのプロトタイプじゃない。

決まってるわよ。あたしはドクターが認めてくれた機械人形。

世界でたった一人、ドクターだけがあたしの存在価値を見出してくれた。ドクターのためなら壊れたって構わない。

だから…その汚い手を離しなさい！




ド、ドクター…やったよ。あたし、勝ったよ…

あはは…ごめん。ボロボロになって…また修理の手間かけさせちゃうね…

あの泥棒人形は始末したから…二度と起動できないくらい、徹底的に解体したから…安心して、ね？

うん…なんとなくわかった。機械人形好きなのに、ドクターが人形技師としての仕事をしない理由。

悪用されたんでしょ？自分の技術を…

あの泥棒人形にある保存データから、ドクターの過去について調べた。

大変だったね…自分が良かれと思って作ったプログラムが、人形を暴走させるために使われるなんて…

あとドクターさ、狙われてるんでしょ？いろんな組織の連中に…

そりゃ公然と人形技師としての仕事はできないよね。悪いふうに利用されるかもしれないんだもん。

でも大丈夫…今はあたしがついてる。ドクターはあたしが守る。

さ、帰ろ。こんなとこにいつまでも居たくないし。

謝らないでよ。迷惑なんかじゃないって。むしろドクターの助けになれて嬉しかった。

ドクターがつけてくれたこのガトリング砲もかなり役に立ったしね。

ほら、行くよ。あたしに掴まって。

(お姫様抱っこ)

あの時とは立場逆だね。なんか不思議。

今度はあたしがドクターの助けになるからね…ふふふっ♪




ドクター。仕事終わった？

そっか。お疲れ様。じゃあ一緒に寝よっか。

ん？もちろん付けるよ。手錠。

だって物理的に繋がってないとさ、あの時みたいにまた連れ去られちゃうかもしれないでしょ？

今はあたしの複製体もいるし…いつでもドクターから目を離さずに済む。

ドクターを狙う連中は少しずつ狩っていってるからさ…何も心配しなくていいよ。

それじゃ、今夜はどんなコスにしよっか？

『お着替えセット』のバリエーションもたくさん増やしたしね。ドクターのどんな要望にも応えられるよ？

決められない？じゃああたしが決めてあげる。

昨日はシンプルにパジャマだったから…そうだ、これにしよ。

どう？ドクターが最初にカスタマイズしてくれたビキニタイプの水着。可愛いでしょ？

ふふっ、ありがと。まぁドクターがあたしのために用意してくれたんだから当然なんだけど。

(抱きしめる)

ギュー…もう離さないよ、ドクター。ドクターはあたしのすべてだから…

どんなことがあっても、どんな手を使っても守り抜く。それがあたしの、ドクターへの愛情。

ドクターが言ってくれたでしょ？機械人形も人間と同じかそれ以上に愛情を注ぐって。

あの時はあまりピンとこなかったけど…今ははっきり分かる。

今この胸で感じてるものが、あの時ドクターが考えてたことなんだって。

色々検索かけて調べてみたけど…こういうのを恋って言うらしいよ。

うん。あたしはドクターが好きなんだと思う。

手放したくない、ずっと一緒にいたい…人に恋するってきっとこういうことなんだなって…

本当はドクターとの愛の結晶…子ども？っていうんだっけ？それも欲しいんだけど…あたしじゃ無理だね。機械の身体だし。

だからせめて、ドクターの寿命が尽きるまでか、あたしが完全に稼働を停止するまで一緒にいよ？

うん。どちらかが終わるまで愛し合おうよ。それが今のあたしの望み。

ドクターの気持ちは検索をかけても分からないけど…あたしと同じだったら嬉しいな。

あ、ごめんね？話し過ぎちゃった。もう眠いよね。

おやすみ、ドクター。これからもずっと、ずーっと一緒だよ…？

(キス)

・台本（ゆるボイ！）
壊れかけの美しい機械人形を修理して愛情を注いだら、依存系ヤンデレ人形が完成した
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎