【【】の中は読みません、注釈などです】

入れ。
ほう、貴様が人間に捕まったことがあるというオスか。どこにでもいる普通のオスに見えるが。
貴様を呼びつけた理由は言うまでもないが……。最近、この海域の同胞(どうほう)たちが人間の脅威に晒されているのは知っているな？　そうだ。我々は貴様の持つ、人間たちの情報を欲している。どうやって捕まったのか、どうやって逃げ延びたのか……。それらをすべて、話してもらおうか。

【脳内】なんだこいつ……。なんというか……なんか……美味そうだなおい……。いやいや、何を考えてるんだ私は。この私が同胞(どうほう)を「美味そうだな」などと……。

ん？　ああ……ちゃんと聞いている。続けろ。
ふむ。そのエビを食べた瞬間、大きな力で引きずられ……。ああ、なるほど。エビに針が……。そういうことか……。

【脳内】私が同胞を守らねば、誰が守るというのだ。……いやでも、魚喰う魚もいるしなぁ。っていうかそんなやつばっかりだしなぁ。自然の掟(おきて)とか言ってスルーしてたけど。

ん？　あ、いや。ちゃんと聞いているよ。
で、えっと。ああ、そうそう。小さな檻(おり)の中でイワシを食わされた……と。なっ……！？　貴様、同胞を喰ったのか！？　あ、ああ。そうだったな。自然の掟(おきて)な。貴様はアレか、イワシ喰ってもオッケーなやつか。
【小声】いやなんでオッケーなんだよ……。
いや、何でもない。で、どこまで話したっけ？

【脳内】あれ……よく考えたら魚喰ってないの私だけじゃ……。それにしても、美味そうだなこいつ……。いやぜったい美味いなこいつ……。

うん？　ああ、それで？
貴様の目の前で、同胞が人間に刃物で……。くっ……！　なんて残酷なことをっ……！　その切り身を！　ひと口サイズの切り身をどうしたというのだ！　わさび醤油(じょうゆ)……？　なんだそれは。それで喰うと美味い……と人間が言っていたのか。ふーん。

【小声】ねぇ、わさび醤油ってある？　え、ない？

うん？　あっ。クソっ！　何が美味いだ！　残酷な人間どもめ！
で？　……なるほど。貴様はどこかへ運ばれている途中、奇跡的に逃げ出せたと。で？
終わり、じゃないだろう！　もっと他にないのか！？　我々の同胞は、他にどんな方法で人間に食べられていたのだ！？

味噌を溶いた汁の中に……！？　……味噌って何？　ほうほう……なんだそれ美味そうだな。あっ、いや。他に材料は？　ネギと……ネギって何？　ほう、地上にはそんな植物が。

【小声】ねぇ、味噌とネギは？　知ってる？　あっ、あるの？　じゃあ、うん。察しが早くて助かるわ。じゃあ、それで。

よし……。ご苦労、貴様には褒美をとらせよう。
ああ、これで同胞たちを守ることができる。だから安心して食べ……あー……うん。安心しろ。
えっ、いや、別にそわそわなどしてないが。
おっ、用意ができたか。うん？　はは、褒美の用意に決まってるだろ。
はいそれじゃあ、あっちの部屋で褒美を渡しますからね。あっ、いや。つい敬語にな？　感謝のアレな？
まさかまさか、そんな。私がお前を、そんな。あはは。あははは。
……逃がすな、追え！　ぜったいに捕らえろ！　ぜったいにだ！

・台本（ゆるボイ！）
人魚姫に食われるシチュエーションボイス
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
さめたろ