【【】の中は注釈などです、読みません】
【キャラ：少しだけ賢いタコ。良い話風なので、全体的に落ち着いた雰囲気を意識していただければ幸いです】

あはは……釣られちゃいました。
あっ、急に喋ってすみません。タコが喋ったら食べ難(にく)いですよね。
すみません、黙ってます。
……は、はい。タコです。えっと、なんで喋れるのかは自分でも分かってなくて。
た、確かに他のタコより少しだけ賢いかもしれません。って、賢かったら釣られたりしないですよね。
もしかしたら罠かなって思ったんですけど、お腹が空いてて我慢できなくて……。恥ずかしながら、釣られちゃいました。えへへ。
どうしましたか？　黙り込まれて……。あっ、この中に入れば良いんですね。入ります入ります。
抵抗なんてしませんよ、あなたは私に勝ったんですから。
負けた私に出来るせめてものことは、あなたが私を美味しく食べられるように協力することです。それが自然の摂理(せつり)だと、私は思っているので。

わぁ、ここがあなたのお家(うち)ですか。人間のお家は広いですねぇ。
はい、この中に入れば良いんですね。
これは……水槽というモノでしょうか。えへへ、物知りでしょう？
ああ、私のお家(うち)まで。これはこれは丁寧にありがとうございます。
それで……あの。私はどうやって食べられるんでしょうか？
いえもちろん、あなたのお好きなように食べていただければと思うんですが。
私その、食べられるならタコ焼きが良いなぁってちょっと思ってまして。
タコ焼きはとても美味しいと、人間が話しているのを聞いたことがあるんです。だからどうせなら……と。もし差し支えなければ……。
……食べない？
もしかして、私を見世物(みせもの)にするつもりですか？
確かに私は珍しいかもしれませんが、それはその……。私は……嫌です。他のタコは違うかもしれませんが。こうなった私はあなたに食べられることが救いだと、そう信じています。そうあるべきだと、私は思うのです。
……見世物(みせもの)にはしない？　私を……飼(か)うつもりなんですか？　どうして？　そんなことをして、何の意味が？　私には理解できません。
今日は……そうですね。あなたも明日、お腹が空いたら考えが変わるかもしれません。そう期待しています。

……起きてください、起きてください。もう朝ですよ。
ああっ、すみません。驚かせてしまって。昨日のタコです。
タコは擬態が得意ですから。どうです？　かなり人間っぽいでしょう？　得意っていうレベルじゃない……？　それは褒めているということでしょうか。えへへ。
この姿でたまに、陸(りく)に上がって人間の調査をしていたんです。と言っても長時間は動き回れないので、近場(ちかば)を見て回るぐらいでしたが。
ああ、そうです。時間もありませんし、さっさと本題に入りましょう。
私と一緒にタコ焼きの具材を買いに行きませんか？

ネギに天かす、紅(べに)ショウガにタコ焼きの粉……。キャベツとかも入れますか？
タコ焼きについてはかなり調べました。基本的なモノから変わり種(だね)まで。
……タコ焼きの具材を買えば、タコ焼きが食べたくなるかと思いまして。えへへ。
余計に食べる気がなくなった？　この姿のせいなら気にしすぎですよ。
はぁ……。じゃあ聞きますが、あなたはここに並んでいるタコなら食べますか？　食べるでしょう？　なのに私は食べないなんて、おかしな話です。
100歩譲って最初から私を飼うつもりで釣りをしていたのなら……それはそれでどうかと思いますが。私を食べるつもりで釣りをしていたんでしょう？　じゃあ私を食べるべきです、私のためにも。
……喋るからは理由になりません。最初に言った通り、食べ難(にく)くはあるかもしれませんが。
そこに並んでいるタコが、魚が、牛が、喋らなかったと言い切れるんですか？　喋らないことを知った上で、あなたは食べてるですか？
……少し言い過ぎました、タコの分際ですみません。
具材はこれぐらいで良さそうです。それじゃあ帰りましょう。

朝から何も食べてませんし、もう限界ですよね？
鉄板、もう十分に温(あたた)まってますよ。あとは生地を流し込んで……ってもう言わなくても分かりますよね。
私はもう何も喋りませんから。

【間】

どうして、どうして食べてくれないんですか？　お願いですから、食べてくださいよ。
あなたが食べなくてもきっと、私はどこかで食べられます。私を逃がしても同じことです。それが人間か、魚か、同じタコかは分かりません。生きている内か、死んでからかも分かりません。でも、いつか絶対に食べられます。それが自然の摂理(せつり)なんです。あなたが食べなくても誰かが食べる。だったら、私はあなたに食べてほしい。
どうかお願いですから、私を食べてください。

【間、焼ける音(SE)】

ありがとうございます……ありがとうございます……。
……あの、そろそろ私を入れた方が。ちょっと、なんでひっくり返してるんですか……？　ちょっと……。

私にこれを食べろと？
こんなソースもかかってない素の……具も入ってないタコ焼き。美味しいわけないじゃないですか。それにこれ、私が食べても大丈夫なんですか？　……えっ、ええ！　死ぬ覚悟はありますよ！　だからってなんで私が……。あっつ！　分かりました分かりました、食べますから！　押しつけないでください！
……ほら、あんまり美味しくないじゃないですか。なんかべちゃべちゃですし。
素人(しろうと)だから……？
なるほど、今のあなたでは私を美味しく食べることが出来ないと。
だからタコ焼きの練習をしている間は私を食べずに飼うと。
ふざけないでください。確かに今すぐ食べろとは言いませんでしたが、協力するとも言いましたが、そんな子供だましみたいな理由で……。あっつ！　押しつけないでください！　押しつけないでください！　そんな無理やり食べさそうとしなくても、勝手に食べますから！　勝手に……そういうことですか。
確かに、無理やり食べさせられるのは嫌ですよね。あなたが言いたいこと、何となく分かりました。えへへ。だって私、少しだけ賢いタコですから。
……えっ、特に何も考えてなかった？　……今のは聞かなかったことにします。

【微笑】さてと、それじゃあ一緒にタコ焼きの練習をしましょうか。大丈夫です、絶対に上手く焼けるようになりますよ。あなたが私を食べたくなるまで、だいぶ時間がかかりそうですから。

・台本（ゆるボイ！）
釣ったタコがすげぇ食いづらい件について
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
さめたろ