彼の浮気で少しばかりヤンデレるけど彼の暴露で正気に戻っていく女の子の話です。
恋は盲目的なお話を少しばかり作ってみたくなった結果です。

　

……もしもし。
あ、そうです。
ハイ。ハイ。

……そうですか。わかりました。

（通話を切ってため息）
……わかりました、だって。
わかってましたって言えよ自分。

（着信音）
……また電話……？　どうせ……
ってっっ！

（ワントーン高く）
もしもしっ。
どうしたの？
電話……嬉しい。待ってたよ？

え？　転職活動？
順調なわけないよ……
ついさっきもね、不採用の電話がきて……
メールじゃないから、一瞬、ほんの一瞬だけね？　期待しちゃった（笑）

……私だったら、大丈夫？　そうかなぁ……

えへへ。ありがと。
こんな自分に、そうやっていつも優しい言葉かけてくれるのって、キミだけだから……だから凄く、嬉しいよ。

あっ、そういえば今日の夜、何か食べたいものとかあるかな？

……え？
急用って……

今日も、会えないの……？
（小声で）
約束してたのに……

うん。うん……
もちろん、忙しいのはわかってるよ。
しょうがないって、わかるけど……わかってても……

（泣きそうな声）
今日は……会いたかった……
せめてキミだけは、私のこと……必要としてほしかった……


……へ？
会ってくれるの！？

9時、かぁ……
ううん！　それでもいい！　全然いいよっ
ありがとう大好きっ！



（鼻歌交じりに彼の家へ向かう）
コンビニが見えてきたということは、もーすぐ到着っ
でも……仕事で疲れてないといいな……
私が、いつか癒してあげられるような存在に……なんて。ふふっ

……って！！
あの後ろ姿はっ！

（足を止める）
（彼の浮気現場目撃）


……え……？

……誰……と……いるの……？





（インターホンの音）
（ドアが開く）

……こんばんはっ。
……遅い時間なのに、お邪魔しちゃって、ごめんね……？

今日はもう、"仕事"で……疲れてるんだよね？

そっか。
それなら……早速だけどさ（笑）

いいよ？

（ドア閉まる）



（ベッドの上で彼を押し倒す）

フフッ……フフフフフッ
はーい。
捕獲完〜了。
どんな気分かなぁ？　こーやって、女性に押し倒されるのって。
ねぇこーゆうの、もしかしてキミみたいなステキなヒトでも、初体験だったりする？
そうだったら、結構嬉しいカモ。フフフッ

あ、暴れないでね？
私、女だからそんなに力はないけどさぁ……

（ナイフを取り出す）
見て？
これ、護身用に持ってた小型ナイフ。
ね、護身用とか、ウケるよね？（笑）
私みたいなつまんない女なんか、誰も襲うわけないじゃんって内心思ってたんだけど（笑）

そっかそっか。コレは襲われた時じゃなくて、誰かを襲うためにあったんだねぇ。

非力で無価値な私でも、キミに、必要として貰うために……
心から……愛して……貰うために……

だから動かないでってば。
それ以上動くなら、ホントに刺しちゃうよ……？

なんでって……

それは、キミが……

私だけのものになってくれないから……

ねぇ、仕事なんて、ウソだったんでしょ？
私、偶然見かけちゃったんだ。
キミがさっき、道端で、知らない女とイチャついてた現場。

ほーら、ねーえ。
今日、電話で、仕事の急用で会えないかもって私に言ってたのはー、

ウソ？
ホント？

どっち……？


……"ウソ"……？

ふぅん……
そんなにあっさり認めちゃうんだ……

"魔が刺した"……ねぇ……

なんか……
そんなあっさり言われると……ふふっ。

……自分が死にたくなってきた……


そうだ。
ねぇ、キミのこと殺さない代わりに、キミは今から私が死ぬところをこのまま見届けてくれないかな……？

大好きな大好きな君が、こうやって見ててくれるんなら……
私、きっと、頑張っていなくなれるから、そのまま、天国まで行けたりしないかなぁ……？
誰も私を傷付けない、優しくて平和な世界がいいなぁ……

ステキなキミと出会ったこと以外、ずっとずっとミジメな人生だし、そのくらいのご褒美……別によくない……？

何言ってるの？
キミはステキなヒトだよ？

私はね……キミのこと……出会った時からずっと、いいなって思ってて……

それに……私とは全く比べ物にならない凄い学歴で、しかも大企業のエリートだってことも知って……
そんな、そんなステキ過ぎる人が、こんな私と付き合ってくれるなんて……ホント、夢みたいだなって思ってた……

夢を見るのは、好きだよ？

でも、夢から醒める瞬間は大嫌い。

期待させる相手も、期待する自分も全部全部死ぬほどキライ。
ねぇ、私はもうそんな世界やだよ？
こりごりなの。

だからさ、最期にもう少しだけ、
私に夢を見させて……？

ウソでもなんでもいいからさ、
私が死ぬまで、ずっとずっと好きだって、愛してるよって、浮気なんてしてないよって、私だけだよって、言っててほしい……

それだけでいい。
そしたら、私はキミのこと殺さない。


そう。
そうやってじっと見つめてて。
そのまま絶対に、目を逸らさないで……？
ほら……言って？
私のこと……スキ……？

フフッ……フフフフフッ……


（ナイフを持つ手を掴まれる）

……ッ……何……？

手、離してよ……
あのさぁ、邪魔するなら、キミのこと、刺すよ……？


え……？

"全部ウソ"……って……

何のこと？


"学歴"？

"職業"も？

ほんとは"ニート"……？


……そんなの……

騙されないって……こんないいマンション住めるわけないし……

は？　金持ちの知り合いが、時々貸してくれてる？？

どんな弱み握ったらそんな…….

でもキミ、私に高いお食事奢ってくれたり、高価なプレゼントだって……

は？　おやのかねと、しゃっきん？？

"好かれたくて、無理してた"って……

ねぇ、さっきから何言ってんの？
大体、そんなことしなくったって、普通にカッコいいくせに……

"学歴とか職業のフィルターでカッコいく見えてただけ"……？

ふっ何それ。
さっきから私のことバカにしてるの！？

いやうるさ！！
やだ……やだやだうるさいっっ
だからそんな大声で"ニート"を主張してくんなしぃっっ！？

証拠ならある……？
いやだから、ニートの証拠とか、何が悲しくてそんなん確認しなきゃいけないわけ……？


……バッカみたい……

そんなの……


（ため息のち無気力に）

……なんか、疲れた……


私、今日はもう帰るね……






○翌日。

（着信音）
あっ……もしもし？
おはよう。
あの、昨日はその……変な風に取り乱したりして、ごめんね？

あー…….ううん。いいよ。
それは、もう気にしてないんだ。

……今さ、自分でもビックリするくらい、
キミのことなんか、気にしてないの。

もしかしたらほんとに"フィルター"がかかってたのかもしんない（笑）
確かに、そんなカッコいくなかったかもって。
あはは、ごめん（笑）

いいことあったのって……？

うん！
聞いて！
実はさっき仕事が決まって！！
しかも、ほぼ諦めてた、第一希望の職種！！

……なんかさ、夢みたいなことって、ごく稀に本当に起こることもあるんだなって……
朝からずっと、フワフワしてた。

……そしたらね、急に、昨日のカオスな出来事が全部、笑えてきて……
私って黒歴史ばっかだな！　って思って、衝動的にスマホの写真フォルダの中一斉削除してた（笑）
もうさ、何年も貯め込んでたムダな思い出がね、ものの数秒で、全部真っ白。

そしたら、なんかいろいろ、吹っ切れたんだ。

だから……


私、もうキミと会うの、やめるね……？

キミだってイヤでしょ？
あんな風に取り乱すような危ない女をこれからも相手すんの（笑）

……へ？

"殺されてもいいって思ってた"……？

……だから、あの時、あんまり抵抗しなかったんだ……？

ふふっ。
ね、私とキミって、案外似たもの同士だったのかな？

もうさ、今は微塵も興味ないんだけど（笑）
それでもね、昨日までの私は確実に……キミだけが、唯一の精神安定剤だった。

だから、今まで心の拠り所になってくれて、本当にありがとう。

キミが浮気するようなクズ男であろうと、ウソ付きニート野郎であろうと、私はね、今までキミを必要としてたことで、愛せたことで、自分自身が救われてたんだと思う。

だから……
まぁ、私があの時死ななかった分、キミも、死ななくていいよ？

ふふっ。
それじゃあ……元気でね？


あっ待って。

私が最初に好きになったのは、キミの、優しいところだよ。
それだけ言っておきたかった。



さようなら。









おわり

・台本（ゆるボイ！）
浮気目撃で病んだ彼女の雨のち晴れ
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
蚊ネコ