ちょっと頼りないご主人に可愛いメイド型アンドロイドがシステムエラーで暴言を吐いてくる、コミカルな感じのお話です。

お帰りなさいませ。
ご主人様。

ジャケット、早速お脱ぎになられますか？
今、私がお手伝いいたします。

（主人のジャケットを脱がし、クンクン匂いをかぎながら）
脂質、アンモニア、常在菌(じょうざいきん)の繁殖した人間特有の汗臭さ……

あ、いえ、すみません。
私は何も言っていませんが。
こちら、ハンガーにかけさせていただきますね。

……人間の汗は本来無臭……
このニオイは、滞在時間の長さが引き起こすもの。どうせまた、意味もないオタク活動のために街を徘徊した男の愚かな末路……

あ、いえ、すみません。
私は何も……

ハイ、スミマセン。
事情を説明します。
この私の生みの親、博士が言うには、本日の定期メンテナンス時に、言葉を発声させるための伝達回路で、1箇所、エラーが見つかった、とのことで。
それからどうも、この調子で、私の「口調」、「言葉遣い」におけるシステムが、時折に「不具合」を起こしてしまうようなのです。

はい。博士はすぐ、修復を施そうと、してくれていたのですが……どうやらそれには、必要不可欠となるパーツが、現時点で不足。パーツ取り寄せまでには、約1週間。つまり、それまではこの、時折口の悪い状態が続く、とのことで。

ご主人様……
このような、出来底ないの、アンドロイドのメイドなど……もう、愛想がつきてしまわれたでしょうか？　
見損ない、ましたでしょうか？

……お優しいお言葉、ありがとうございます。
しかし、

金だけ持ってる底辺の出来底ないに「出来底ないではない」と言われたところで全く心に響かないがなワロタ。

……はい？　私は今、また、何か、悪質な言葉を発してしまっていたのでしょうか。

本心？　……本心、とは？
あいにく現在、私は私が今の私のこの感情を、どのようにして、この唇にまで伝達をしているのか、何をどう、発声しているのかが、時折、不鮮明な状態となってしまうのです。

……博士、ですか？
博士は本日既に、海外のご自宅へ、戻られています。
修復パーツが届く頃に、また、顔を出すとのことです。

ハイ？　ご主人様が……"出来底ない"？
そのようなことはございません。
ご主人様は、完璧な人間であられます。
見るものをたちまちと惹きつける、涼しげな容姿をはじめとし、品性、知性、教養、慈愛(じあい)の全てを兼ね備え、さらには、この私のような欠陥品にさえ、いつでも優しさを分け与えてくださるという、誰よりも尊き、優れた人物。このお屋敷になくてはならない存在、唯一無二、それこそが、ご主人様です。

（ハグする主人）
ハッ……
抱きしめて、くださっているのですか？
こんな、私を……
ありがとうございます……

いえ。私は当然のことを述べたまでです。
……タダの機械であるがゆえ、ご主人様のこの、「温もり」と称される体温を、感じ取れずにいること、少しばかり、残念に思います。

……ただしオノレの汗臭さについては今もそこはかとなく感知しているがな、ｗｗｗ(ダボユーダボユーダボユー)

（ガバッと離れる主人）
……ご主人様？
突然に、そのように遠ざかれて、どうされましたか。
……あぁ、きっと、メンテナンス後の私の身体は、オイルや鉄のニオイが強く、抱きしめるには、適していなかったのかもしれませんね。
大変、失礼いたしました。

……いえ？　博士は、携帯電話を所持していませんが。
それに、ご主人様とは先日、喧嘩を行なったため、口をききたくない、とも言っていました。
やり取り可能な媒体は、おそらく、パソコンのメール上のみです。

（不貞腐れてベッドにダイブする主人）

……ご主人様、何故、ベッドへ？
お眠りになるのですか？
まずは、お着替えを完了させたほうがよろしいのでは。

ハイ、今こそ私が、ご主人様のお召し物を、脱がせて差し上げにまいります。

"優しく"？
私はいつも、ご主人様に対して乱暴なマネなど、決していたしません。
ですので、お任せください。
（カツカツ近付いて）

（何かがプツンと切れる音）

……あ……

い。いえ……すみません……
今、その……この辺りにある、回路が、また、何やらプツプツと、音を立てて……

いえ、大丈夫です。カラダの機能自体には、支障をきたしてはいません。
本当に危険である場合は、大きめの警告音が、この、おヘソから鳴り響くと、以前博士が言っていましたので。

ハイ。おヘソ、だそうです。
それではご主人様、早速、お着替えのお手伝いをいたします。

ご主人様……


（舌打ち）

……ハイ？　舌打ち、デスカ？
何のことデショウ？

……（舌打ち×3）

いーからさっさと脱げよナヨナヨしたクソ野郎が！！
風呂も入ってねー汗くせー身体でベッドにダイブしてんのとかコッチはもう驚愕だよ、こちとら機械のクセに、いっちょまえに虫唾(むしず)走っちゃってんだよあぁ！？

ハンッ、そんなちびりそーな目で何を訴えかけてきてんだよ？　コッチはポンコツ機械なんだよテメェの行間(ぎょうかん)なんかまでいちいち読み取れねーんだよ。

（舌打ち）
モタモタモタモタモタモタしやがって、今こそ最大出力で、テメェのそのセンスのカケラもねぇ服、ビリビリに破いてやろうかあぁ！？

（主人を押し倒す）
ハイ。捕獲した。
ターゲット、ロック、オン。

……フッ……

……ふふっ。
ふふふふふっ。
もうっ♡ご主人様っ♡逃しませんよぉ〜？
ご主人様ってぇ、怯えちゃったお顔も可愛いんですねっ？
ねっ、ちゅーして、いいですかっ？

（言いながらだんだん意識失う感じで）ちゅー…………ぅぅぅぅぅ……

（バタッと主人の横に倒れ込む）

活動限界。
自動修復モード、起動。
これより、約、10時間、スリープ、開始します。

（やがて人間のように寝息を立て始める）
……スゥー……

（以下寝言）
んん……フフッ……良い、匂い、すゆ……
ご主人……大しゅき……
フフッ……おやしゅみなさい……

（寝息）







おわり

・台本（ゆるボイ！）
メイド型アンドロイドのプチ暴走
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
蚊ネコ