あら、目が覚めちゃった？
もう少し眠っててくれてよかったのに

あたし？　あたしはエリカ
先月死んだんだけど
なっちゃったのよね、幽霊ってやつに

今あなたの体の中にいるの
悪いけど、ちょっとあなたの体を借してもらうことにしたから

ごめんなさい　でもやり残したことがあるのよ

ああ、ここ？
ここは私の家のお風呂よ　さっき戻ってきたの
安心して　今誰もいないから
お母さんはね、いまお父さんの単身赴任先に行ってるの
私のいないこの家に一人でいるのがいやだったみたい

私ね、事故に遭ったの
年はちょうどあんたと同じくらいだった
学校から帰ってくる途中で、酔っ払い運転の車にはねられちゃった
つまらない事故よ

あ、なによ急に
え？毛が無い？
そうよ、さっきクリームで全部脱毛したから

当然でしょ？　乙女の身だしなみよ

勝手なことするなって……
いいじゃない、毛なんてまた生えてくるでしょ

私だって本当は男の子の身体に憑りつくのはいやだったのよ
でも仕方ないでしょ
他に周波数が合う人いなかったの
波長よ、波長が合わないと入れないのよ

ああ、安心して　永久に居座ったりなんかしないから
目的を果たしたら、この身体は返してあげる
一日、ほんの一日だけでいいの
それにあなたの身体に傷一つつけたりしない
大事に使わせてもらうから

さてと……きれいになったから、これから私の部屋へ行って出かける支度をするわよ

え？ひき逃げの犯人を捜す？
違う違う
事故にはあったけどひき逃げじゃないし
相手はとっくに自首してるよ
すごく反省してるし　もう恨んでなんかいないよ

あんたマンガの読み過ぎじゃないの？
何かおもしろい事件期待しちゃった？

やり残したことっていうのはね、私、最後におねえさまに会いたいの

ううん、ほんとの姉妹じゃないよ

おねえさまは、私が通ってた秘密クラブのね……私が契約を交わした人

何の契約って　
まあ、そうね、あなたは知らなくていいの

とにかくおねえさまはね、私の大切な人なのよ


ここが私の部屋
前と何も変わってない
お母さん、元のままにしておいてくれてるんだ

さて、まず下着……と

え？女の子用？
当たり前でしょ
私のだもの

あら、下着がきつい
この身体がいけないのよね
いやになっちゃう

んー胸もないのね……
このブラで無理やり寄せて……あとはパッドを入れて
よし、少しはましになった

さてお洋服、お洋服っと
あなた背低いのね　助かったわー

ああ、これね、私とおねえさまが初めてデートした時に着てたコート
これは、初めて手をつないだ時に着てたブラウス
こっちは、私がおねえさまと初めてキスしたときに着てたワンピース

ううー…　ねえ
頭の中で騒がないでよ

ええ？女装させる気かって

何言ってるの　女装なんかじゃないわよ
私は生まれた時から女の子よ

俺は違う、って言われても……
今、あなたは私なのよ
わかるでしょ？

だいたいねえ、女の服の何がそんなにいけないの？
男も女も同じ人間でしょ？

ねえ見て、このお洋服、かわいいでしょう
これはね、おねえさまとの思い出が詰まったワンピースなの
あなた、いやだなんて言って私の気持ちを侮辱するの？

そう、わかってくれればいいの
しばらく大人しくしててね

……

髪が短いとすぐ乾いていいわね
うーん、ヘアアイロンで少し動きをつけたらかわいいんじゃない？
よし、できた

あとはメイクね
平気よ、あたしに任せてればいいの


ふうー　やっとかわいくなった
それに、こうして同じ服でメイクも似せたら、前の私に少し似てる
これならおねえさまに会っても大丈夫……

え？この格好で外に出るなって……
仕方ないでしょ
どうしてももう一度、おねえさまと一緒に思い出の場所へ行きたいの

男の格好でなんて行けるわけないでしょ
おねえさまはね、女の子のあたしを愛してくれたのよ

私がおねえさまに会えるのはもうこれで最後なんだから
元通りのかわいい私を見てほしい
何のためにこんなに時間をかけて身支度したと思ってるの？
これなら服さえ脱がなければ問題ないわ

待って
でも……もしおねえさまが受け入れてくれたら

もしおねえさまがこの身体を受け入れてくれたら……

あたし、今までとは違う方法でおねえさまを愛せるんじゃ……

おねえさまと一つに……

だめ、だめよ私
なんてこと考えてるの

あーやだ　なんでこんなこと想像しちゃったのかしら
この身体がいけないのよね

でも待って　たしかおねえさまは
男の人に告白されて付き合ったこともあるって……

すぐ別れちゃったみたいだけど……

ああ、やっぱりだめなのかしら
こんなチャンス二度とないのに……

落ち着いて　落ち着くのよ私
まだ会ってもいないのに悩んでも仕方ないわね

それに、そんなことどうでもいい
大事なのは心よ
真心を込めて今までの感謝と私の想いを伝えるの
他人の身体に乗り移っても
中身があたしだってことをおねえさまならきっとわかってくれる

さ、出かけましょ

うう……あ、足が
身体が動かないわ……

ちょっとあんた
なんで今になって抵抗するの

ええ？外に出たくない？
万が一あんたの知り合いに見られたら……って

うるさいわね
そんなの仮装大会やってたとかなんとか、適当に言っておけばいいでしょ？
ああ、もう
あたしだって好きであんたを選んだわけじゃないのに

ねえ、ちょっと、そこの棚の紙袋、とってくれない

そう、これ　これね
おねえさまへの誕生日プレゼントなの
何日もかかって探し回って、おねえさまのために選んだの
でも私が事故に遭って、渡せなかった
おねえさまの喜ぶ顔、見たかったな……

わかってくれるの？
ありがとう
あんた、けっこうやさしいのね

じゃ、出かけるわよ



（おわり）

・台本（ゆるボイ！）
【女装】幽霊にとりつかれて男の娘になる【百合】
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
クリスらびっと