（夜のベッド）

うーん痛っ

あーまた嚙んだ
痛いよ....

どうしていっつも噛むの？
ほら、あとがついちゃった
この端のとこね、上等のビロードなんだよ　わかってる？

うんそう、ぼくがしゃべったの

（妖精登場）

こんばんは
ぼくは毛布の妖精だよ

うーん　話すと長くなるけど
日本ではツクモ神っていうんじゃないの？
ぼくはね、大切にしてくれた人の前にあらわれるんだよ

そうだ
眠れないなら、ぼくの話をしてあげる

昔々　ぼくは牧場でかわれている羊の毛でした
その羊が生まれたときに....

え？さかのぼりすぎ？
じゃあ時間を飛ばして、もっと先からね

ぼくは　フィンランドの小さな工場でうまれました

まず織機で織られて
毛を立たせてふわふわにしてもらって
カットして縫製されて
その後お店に出荷され　お客様に買われて
そのお客さんがぼくを日本にいる家族に送ったのです

残念ながらその家族はすぐお引越しすることになって
ぼくは使われないまま古道具屋に売られてしまいました

そのまま長い時が立ち
それを君が買ってくれたから、いまここにいるんだよ

運命の出会いだね

でもやっと出番が来たっていうのに
まさか噛まれるとは思わなかったよ
どうしていっつも意地悪するのかな？

ぼくはね、ご主人様が寒くないように
一緒に寝るのが仕事なんだよ
噛まれるようにできてないのに

それにね
問題はそれだけじゃないんだよ

とぼけたってだめだよ
知ってるんだから

ぼく以外の毛布のにおいがするんだよなあ

昨日から部屋の隅に置いてあるあの紙袋
あれの中身　電気毛布でしょ

開けてなくてもわかるんだよ
だってぼく毛布だから

ぼくというものがありながら
電気毛布なんか買ってきちゃって

ねえ、あしたからはあいつと一緒に寝るつもり？

そりゃ電気毛布はあったかいよ
ぼく電気通ってないし

でもね、ぼくだって上手に使えば十分あったかいんだよ
ぼくたち毛布はね、電気なんかない時代からずっと人間たちと暮らしてきたんだよ
古い歴史があるんだよ
このふわふわの繊維が一本一本
見えない空気をためて保温するでしょ
このふわふわだっていい機械と一流の職人さんがつくるんだよ

電気毛布なんてさ、邪道なんだよ
ずるいよ

ずっと仲良くやってきたと思ったのに　
あんなやつのためにぼくを捨てるの？

ぼくもう新しい主人のところになんか行けないんだよ
こんなに噛まれちゃったんだから
それなのに新しい毛布なんか買ってきちゃって
あーあ

え？　あの電気毛布、腰痛のおじいちゃんのプレゼントなの？

なあんだ　そっかぁ
それを早く言ってよ

よかった
じゃあ、これからも一緒だね

ふわぁ....安心したら眠くなってきたね

じゃあもう寝ようか

幸せはいい眠りが運んでくるんだよ
ほんとだよ

それで　今日は上がいい？　下がいい？

え？　ぼくは下に敷いても気持ちいいんだよ
知らなかった？

ほら、掛布団だったらここにもあるじゃない
ぼくを下にして、こっちを上にかければいいんだよ

それとも、ぼくの長いほうの辺を二つ折りにしてから
くるくるって丸めてみて
こうすれば抱き枕としても使えるよ
ほら抱いてごらんよ　ね？

ええ？　やっぱりきみ下がいいの？
上から包まれたいから？
もう、寒がりさんだね

よしわかった！上からしっかり包んであげるからね

どう？あったかい？

じゃあ眠れる魔法をかけてあげる

うん、魔法使えるよ
だって毛布の妖精だから

....
ほら、ねむくなった

ほら！

ほら！

あれ？
きかないの？
おかしいな

えー？
やっぱり端のとこ噛まないとだめなの？

しょうがないなあ
じゃあきみが眠れるように特別だよ
ちょっとだけ噛んでいいよ
ちょっとだけだよ

うふふ、くすぐったいよ

なんかさっきと違うね
やさしくなったみたい

もしかして遠慮してる？

いいよ　もう一回やってみな
いいから　大丈夫だよ　ほら

うーん

あー、なんか変な気分になってきちゃった

よーし、おかえしだぞ

（適当な音声）

・台本（ゆるボイ！）
【添い寝】ちょっと嫉妬深い毛布の妖精【フリー台本】
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
クリスらびっと