あなたは一人旅へ。それを知った自称彼女は追いかけるようにあなたの後をついて行く。

（ひとりごと）
……見つけた。

大丈夫だよ。私、君がどんなに遠いところまで旅に行っても、一人きりにはしないからね。

でも、今回のは君も不親切だよね。

私には何も告げずに旅行に出掛けちゃうなんて。

私が君の家にいて妙に旅行雑誌が机に広がってることとか、新幹線のチケットがあるのを見付けなかったら気付けなかったんだからね？

どうして君は私に旅行に行くことを教えてくれなかったんだろう？

いつもから家を出る時も、帰る時も『行ってきます』とか『ただいま』とか、一言も言ってくれなかったけど、こればかりは私に冷たいとかじゃなくて、私を置いて行こうっていうことになるじゃない。

……もしかして、君は一人になりたかった？

いやいや、いくら君が私に冷たいとしても本当は寂しがり屋で、私には離れてほしくないって思ってるはずだもん。

いつも嬉しそうに帰って来るのは私に会えるからだもんね？

大丈夫だよ。どんなに君が不器用でも私は君の愛情全部気付いてあげられるから。

でも、本当は隠さないで正直に言ってくれると嬉しいな。

ふふふ、それが出来たら君だって苦労しないか。

それに、言いたくても言えないそんな君が私にはかわいらしいもの。

このままでも君は十分だよ。

でも、こうして一緒に旅行だなんて、初めてだよね。

インドア派の君は、日帰りでお出掛けなんてこともほとんどしなかったから、外で一緒っていうのは不思議だね。

それに、お泊りだなんてなんだか緊張しちゃう。

普段から君の寝顔はいっぱい見てきてるのに、ちょっと特別だって思うだけでこんなにもドキドキするんだね。

あっ、温泉ってことは、今夜は君の浴衣姿が見られるんだ。

一緒に花火大会を見に行こうって言っても、多分君は乗り気じゃないだろうから、これは貴重な浴衣姿になるね。

こんなこともあろうかと、高いカメラ持ってきてよかった。

これでいつでも鮮明な浴衣姿の君が見られるんだ……！

特に、朝の寝ぐせ付きでちょっと浴衣がはだけた君の姿が見られると思うと……

いけないいけない、考え事しててバスに乗り遅れるところだった。

どういうわけか、君は私のことを気に掛けてくれないからね。

もし乗り遅れたらきっとそのまま置いて行かれちゃうだろうし、そもそも気付かないのかも。

……いや、それはないか。話し掛けたり、目を合わせたり出来ないだけで、本当は私のことずっと考えてるような君だもんね？

だから、君に心配させないように離れないようにしないと。

本当は、君の隣に座ってたいんだけど、君は嫌がるもんね。

……あ、制服の女の子が君の隣に座った。

うう、この混雑で君の隣が埋まるのは仕方ないけど、よりにもよってあんなにも若い女の子だなんて。

しかも、初めて会ったはずなのに打ち解けてるように見える。

それどころか、君は笑ってる……

いくら君がカッコよくてモテるからって、浮気は絶対ダメなんだよ？

これは、部屋に着いたらお仕置きしないとね？

あ、もうホテル前のバス停まで来てた。

何よ、あの女の子、君に手振っちゃって。

私の彼に馴れ馴れしくするなんて……

でも、これ以上気にしてる暇はないみたい。

運がよかったわね。私は彼へのお仕置きで頭がいっぱいだから、あなたへの制裁にはたまたま興味がないの。

まあ、二度と会うこともないだろうから気にすることはないか。

あ、気付いたら君は勝手に歩いて行っちゃうんだから！　待ってー！

はぁ、はぁ、着いた……

私たちの泊まるホテル……

どうせなら部屋に入ってすぐベッドに押し倒して、ビックリさせちゃおっかな。

君は、一体どんな顔を見せてくれるんだろう……

（ひとりごと終了）

……わっ！

（押し倒す）

ねえ、私から聞きたいことがいくつかあるんだけど、いいかな？

いや、私がここにいることなんて変に思うことないでしょ？

それよりも、どうして旅行のこと言ってくれなかったの？

私、置いて行かれるところだったんだよ？

……っ！　ど、どうして私に言わなきゃいけないのって、君、本気で言ってる……？

私にだよ？　彼女にだよ？　普通、同棲してる彼女に黙って旅行なんて行かないでしょ！？

一緒に行こうって言わないとダメだよ！

それに、私、バスの中で見ちゃったんだよ？

地元の女子高生と仲良く話してたでしょ！

あれって、浮気になるんじゃないかな？

いくら私が冷たくされても許してるからといって、浮気するのは別問題だよ？

……え？　さっきから何言ってるのか？

私は何にもおかしいこと言ってないはずだよ？　悪いのは全部君なんだからね？

……え？　私は彼女じゃない？

意味が分からない。私は間違いなく君の彼女だよ？

だって、今までずっと一緒に暮らしてきたでしょ？

私たちは同棲カップルだよ？

いや、同棲してないって、私はずっと君の家にいたんだよ？

毎日君のことを見送って、君の寝顔を見ながら寝てる私が同棲してないはずがないよ。

大丈夫？　急に顔が青ざめてきたけど。

……ストーカー？

君、誰かに付きまとわれてるの？　誰？　男？　女？

……私？　私は恋人だよ？　ストーカーなんかと一緒にしないでよやだなー。

そっか、だから君は旅行のこと教えてくれなくて、浮気までしちゃってたんだ。

だったら、このまま私が彼女だってこと教えてあげればいいんだね？

君にそんな誤解されてたのはショックだけど、早いうちに気付けたことをラッキーだって思わないとね。

こーら、暴れないの。

彼女のことをこんなにも本気で拒絶するなんてありえないんだからね？

だーめ、逃がさない。

これは黙って旅行に行こうとしたことと、浮気したことと、私をストーカーだと誤解してたことの罰でもあるけど、この旅の大事な大事な思い出作りなんだから、黙って受け止めてくれればいいの。

これから思い出いっぱい作れば、間違っても君に彼女じゃないって言われないでしょ？

私がストーカーだなんて思い込み、今から取っ払ってあげる。

・台本（ゆるボイ！）
ヤンデレストーカーの思い込み二人旅
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
夜木嵩