デートから帰ると、家の前に一人の見知らぬ女性が立っていた。
彼女はあなたのことが好きで、陰であなたに尽くしてきたのだという。
それはあなたにはストーカーのように映り、彼女の愛を拒もうとするのだが……

あ、おかえりなさい。
待ってたんですよ。

え、人違い？
そんなことありませんって。
私が待っていたのは紛れもなくあなたなんですから。

私のことを知らない？
あれ、そうですか？
私たちは会っているはずですから、単に忘れているだけではないでしょうか？

そんなことを話しに待っていたのではありません。
私はあなたに大切なことを伝えるためにここにいるんですから。
あまりお時間は取らせないつもりです。
一言返事がいただければいいので。

私、あなたのことが好きです。
恋人にしていただけないでしょうか？

あれ、聞こえませんでしたか？
もう一度言いますので、よく聞いてください。

私、あなたのことが好きです。
心より愛しています。
恋人にしていただけないでしょうか？

わけがわからないだなんて、私、難しいことは言っていませんよ？
私の気持ちを素直に、簡潔にお伝えしたまでじゃありませんか。
むしろ、そんなことを言われることの方がわけがわからないです。

それとも、あなたは行動で示さないとわからない人なんですか？

嫌って、なんだ、わかってるんじゃないですか。
とぼけられるなんて傷付きますよ？

それで、早く答えてください。
私のこと、恋人にしていただけますよね？

出来ない、ですか。
ちょっと、私には理解しかねます。
何が私との恋人関係を拒む理由になるというんですか？

（嘲笑気味に）はあ、既に彼女がいる、ですか。

そんなことぐらい、私だって知ってます。
彼女がいるからって断る必要はないじゃないですか。

二股だなんてそんな不純な関係を求めているわけではないです。
簡単じゃないですか。
今の彼女と別れてくれって言ってるんです。
それで私を新しく彼女にすればいいじゃないですか。
だから彼女がいることなんて言い訳にはなりませんよ。

裏切りになる……？
何を頭の悪いことを言っているのですか？
今の間違った関係を断ち切ることの何が裏切りになると言うんですか？
そんなことを思ってしまう程彼女に毒されてしまったのですね。

いいですか？
あなたの正しい恋人は私です。
それ以外の女は本来ならば触れることも許されない。
恋人になるなど以ての外……

ですから今の彼女に裏切りになるだとか、優しいことを考える必要は全くないんです。
話し合いもせず、一方的に別れると告げて早く私の元へと戻って来てください。
迷うことなどないでしょう？

まさか、私の虚言だって言いたいんですか？
そんな、だったら私は何でずっとあなたにお付き添いしていたかわからないではないですか！

毎朝あなたより早く起きて、忙しいあなたの代わりにご飯の支度。
あなたは気に入らないのか、いつも食べてくれないので毎度あなたの好みに合うように研究を重ねているんですよ？
って、食べてくれないんじゃ気付きませんよね。

朝食を作った後はあなたを見送って、家のお掃除を至る所までやっているんです。
それでも週に一度くらいはあなたも掃除機をかけたりしていますけどね。

そして、帰る頃を見計らって夕飯とお風呂の準備をしてあげてるんですが、朝と一緒でご飯は食べてくれないし、お風呂はシャワーで済ませてしまっていますよね。

こうして考えると、私の献身がまるで意味を為していないじゃないですか。

けれども、あなたのために自分を犠牲にしてここまで尽くすことの出来る人は私しかいないんです。
彼女なんかにはこんなことできませんよね？
こんなことも出来ない女があなたの人生を支えられるだなんて思いません。
ほら、あの女があなたの彼女だなんて、間違ってると思いませんか？

何もかも、気味が悪い？
そ、そんな……
全部あなたのためを思って毎日こんなに尽くしているのに、それを気味が悪いだなんて。

それに重ねてあなたは私以外の女と恋人関係になってるんです。
いくら何でも私のことをぞんざいに扱いすぎなんですよ。

最初から何もかも知っていて、私は寛大な気持ちでその関係を許してはあげましたが、私との正式な関係にこうやって悪影響が出ているんです。

今日だって、その彼女とのデートの帰りですよね？
こんなあなたに尽くしてくれる私のことを蔑ろにして、散々愛し合って、もう我慢の限界なんです。

これまではただ、あなたが喜んでさえくれればいいと思って、私はお節介のつもりで見返りも求めず、優しいあなたが私のことを見つけてくれてそのまま告白とかプロポーズとか、してくれることを密かに期待していたのですが、あまりにも不器用過ぎました。

私、わかったんです。
気持ちは真っ直ぐなぐらい正直に伝えないと届かないってこと。

だから、初めてあなたに面と向かって気持ちを伝えることにしたんですが、全く駄目ですね。

わけがわからないです。
陰でこんなにもあなたのために奔走しても気持ちを捨てられてしまうなんて、理不尽じゃないですか。

えっ……あなたのために、なってない？
間違っていたのは私の方だったって言うんですか？
じゃあ、あなたの代わりにご飯や掃除やお風呂の準備、家のことをやってあげる以外に何をすればよかったんですか。

あなたに付きまとっても、繰り返し電話を掛けても、直接話し掛けても、全部、全部、無視してきたじゃないですか！
それであなたに尽くそうとしてみれば気味が悪いだなんて、酷すぎませんか？

挙げ句の果てに真っ向からの告白でも意味がないなら、最初から力づくであなたを奪いに行けばよかったですね。

もう返事は聞きません。

嫌でも私の愛情、受け取ってもらうので。

　（スタンガン）

・台本（ゆるボイ！）
ストーカーからの愛情、受け取ってくれますよね？
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
夜木嵩