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美しい死神からのあの世への誘い〜戦乙女・ブリュンヒルデ編〜
written by 松平蒼太郎
  • ファンタジー
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  • 癒し
  • 耳かき
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  • 人外 / モンスター
  • 寝かしつけ
  • 耳ふー
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  • シリアス
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  • 戦乙女
公開日2022年02月26日 19:57 更新日2022年02月26日 19:57
文字数
2111文字(約 7分3秒)
推奨音声形式
バイノーラル
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
戦乙女(ヴァルキリー)
視聴者役柄
人間
場所
不明
本編
気がつきましたか?

慌てなくても結構です。

貴方をわたしの膝の上に寝かせたのは、他ならぬわたし自身ですから。

…覚えていませんか?

ご自分がどのようにして亡くなったのか…

えぇ。貴方は既にこの世の者ではありません。

今の貴方は肉体は滅び、魂がかろうじて残っている状態です。

そうです。貴方は死んだのです。

大天使ミカエルと大悪魔サタンとの激突に、割って入ったことによって。

この世の善を統べる天使代表のミカエル…

そしてその反対の、この世の悪を統べる悪魔代表のサタン…

二人の渾身の一撃を同時にくらったのです。

いくら不死の身体といえど、ひとたまりもないでしょう。

そこでわたしが貴方の魂の一欠片を回収して今に至る、というわけです。

あ…申し遅れました。

わたしは戦死者の魂の回収を行なっております、戦乙女(ヴァルキリー)です。

以後、お見知りおきを。

真名(しんめい/まな)は………

いえ、別に貴方に言う必要はありませんね。

さ、それより早く冥界に行きましょう。

ハデス様も待っておいでですから。

え?いえ、それは…

たしかに貴方の言うとおり、本来戦乙女(ヴァルキリー)は戦死者を天界の主神オーディン様の館…つまり、ヴァルハラに連れて行く役割を担っています。

ですが、わたしはその…一身上の都合でヴァルハラには行けないのです。

わたしのことはもういいでしょう。早く冥界に…

え?今から生き返るから無理?

なに馬鹿なこと言ってるんですか、貴方は。

一度死んだ人間が生き返ることはない。

こんな当たり前のことも分からないんですか?

いえ、貴方の事情など知ったことではありません。

たとえどのような事情があろうとも、死んだという事実は覆(くつがえ)せません。

ショックでしょうが、決まったことですので。

(ため息)

仕方ありません…

そしたら貴方を冥界へ誘(いざな)う癒しを提供して差し上げます。

はい。貴方のようにこの世に未練がある魂に施す処置です。

そうです、耳かきです。

貴方の未練、耳垢ごと取りますのでご安心を。

大人しくしていてください。

でないと、槍で体を串刺しにしながらの耳掃除になりますが…

はい、分かればよろしいのです。

それでは、始めていきますね…

(耳かき)

なんですか?藪から棒に…

そんな細かいことは気にしないでください。

魂にも耳垢くらいあります…多分。

…というか、貴方は変わった人間ですね。

はい。まさか「最後の審判」をその身一つで中断させるなど、前代未聞です。

えぇ。大天使ミカエルの善と、大悪魔サタンの悪が激突することで、この世が善か悪どちらかで満たされることになる……これが「最後の審判」です。

なぜあのような無茶を?

割って入れば、自分がタダでは済まないことくらい、分かったはずです。

…どちらが勝っても不幸な結末にしかならないと思ったから…?

おっしゃる意味はよく分かりませんが…

貴方が例を見ないほどの無謀者だということは分かりました。

しかも自分の死を意地でも認めようとしないし…

何なんですか、貴方は…

は?何度も言わせないでください。

貴方が生き返るチャンスなど、万に一つもありませんから。

こうなったら…この世への未練、吹き払ってあげます。

(耳ふー)

流石に今のは堪(こた)えたみたいですね。

さ、反対の耳を…

次で完全に貴方を冥界へお連れしますので…お覚悟を。

(耳かき)

…強情ですね。どれだけ死ぬのが嫌なんですか?

(ため息)

いいですか?

この世に志半ばで亡くなった方はごまんといます。

貴方だけが特別なのではありません。

たとえこの世にやることが残っていたとしても、成し遂げられずに散っていった…

わたしはそういう命を何度もヴァルハラ……いいえ、冥界へ送ってきました。

だからこそわかる。

彼らがその時その時を、必死で生きていたということが。

貴方もそうです。

自分が望んだ結末のために、必死に戦ったんでしょう?

だったらいいじゃないですか。

自分の生き様が誇れるものであるならば、死んだとしても恥じることはないと、わたしは思います。

はい…どうしても、です。

生き返ることはできません。お諦めになってください。

…大丈夫。冥界は怖いところではありませんから。

天のような喜びに満ち溢れた楽園ではありませんが、地獄のような苦しみに満ちた場所でもありません。

慣れてしまえば、きっと住み心地はいいと思います。

だから泣かないで…

そんな顔されると、わたしまで辛くなってしまいます…

そろそろ仕上げにかかりましょう…いきますよ。

(耳ふー)

貴方は昔のわたしの恋人によく似ています。

彼もとても勇敢で、炎の館に封印されたわたしを助けに来てくれました。

顔立ちもどことなく、彼に似ています…

ふふっ、そうです。

先ほどの、わたしの一身上の都合の話です。

わたしは元主人のオーディン様に背き、罰として炎の館に封印されました。

その後、今話した彼に助けられて結婚して…

彼を殺しました。彼が浮気したから。

まぁその浮気もわたしの誤解だったんですけど…ふふっ…

そんなこんなで、行き場のなくなったわたしを、冥界の王ハデス様が拾ってくれて今に至る、というわけです。

つまらない話でしたね。すみません。

最後に…貴方を冥界へ送った戦乙女(ヴァルキリー)の名を覚えておいてください。

ブリュンヒルデ。それがわたしの真名(しんめい/まな)です。

そう、目を閉じて…ゆっくりおやすみください。

貴方の魂に永遠の安らぎがあらんことを…
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
美しい死神からのあの世への誘い〜戦乙女・ブリュンヒルデ編〜
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎
ライター情報
マツダイラソウタロウ
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