(ノック音)

お兄、わたしだけど。入るよ？

(ドアを開ける)

お兄？なんでそんな床で伸びてるの？

あ、そうなんだ…お姉ちゃんが、ね…

ズルい…ずるいずるい！

なんでお姉ちゃんたちばっかり…！

わたしだって、お兄とイチャイチャしたいのに…！

いっつもそう…！

お兄はお姉ちゃんたちには構うけど、わたしには全然構ってくれない…！

分かってるよ…

わたし、インキャだし、お姉ちゃんたちみたいにお兄に積極的に話しかけられない…！

話しかけられなかったら、お兄だって構う理由ないもんね？

生まれたのが一番後ろなら、優先順位も一番後ろなんだ…

…っ、何が⁉︎ 何が違うの⁉︎

生まれてこのかた、お兄に最初に優しくしてもらった覚えないもん！

いっつも後ろで、お兄がお姉ちゃんたちを甘やかすのを見てきた…！

話しかけられるのはいつも最後で…

わたし、この家に居なくてもいいんじゃないかなってずっと思ってきた。

否定しないでよ…

どうせわたしなんて、女の子としての魅力もお姉ちゃんたちに一番劣るんだ…！

だけど、でも…お兄のそういう優しいところが大好きで、自分は要らない子だって分かってても、お兄から離れたくなくて…ここまでズルズルきちゃった…

ねぇ、お兄？

わがままだって分かってるけど…たまにはわたしを一番に優先してよ…！

わたし、弱い子だから…お兄がいないと死んじゃう…

大袈裟じゃないっ！ホントのことだもん！

今回、お兄が彼女つくったって聞いて、目の前が真っ暗になって…

ただでさえ優先順位が低いのに、お兄に彼女なんてできたら、ますます構ってもらえなくなる…

やだ…そんなの嫌だ！

お姉ちゃんたちの誰かならまだ諦めもつくけど、それ以外の女なんて認めない！

お兄の彼女なんて、絶対に認めないんだから…！

ねぇ、お兄…？

お兄はさ、今もその彼女のことが好きなの？わたしたちより？

…嘘。嘘つき…！

その顔…まだ未練が残ってるって顔してる…！

付き合いたてなのに…そんなに忘れられないんだ、その女のこと。

ねぇ…どうしたらその女のこと忘れてくれる？

いくら家に閉じ込めたって、心が外に出たがってるんじゃ、意味ないよね？

ねぇ、どうしたらいいの？お兄…

…わたしか、お姉ちゃんたちの中の誰かが死んだら、お兄の心を閉じ込められるかな…？

ねぇ…この家の誰が死んだら、お兄の心はここに留まってくれる？

わたしたち姉妹で、お兄にとって一番大切なのは誰？

全員、かぁ……やっぱりお兄ならそう答えるよね。

だったら一人ずつ殺して、最後にわたしが死ねば、お兄はもうここから出て行かなくなるかな…？

あはっ♪ それがいいかも…

家族の死っていう鮮烈な記憶で、その女のことを上書きしちゃえばいいんだ♪

お兄…？止めても無駄だよ。

お兄にはずっと、ずーーーっと、わたしのことを覚えててもらわないと。

憎しみでも何でもいい…

お兄に一番に見てもらえるならそれで…

でもお姉ちゃんたちは一筋縄ではいかないから…

帰ってきたところを一人ずつ仕留めるのが定石(じょうせき)かな。

わたし、頑張るよ。

お兄に一番に見てもらうために。

それじゃあお兄、ちょっとだけ待ってて。

すぐ終わらせてくるから。

お兄…わたしたち、ずっと一緒だよ…？

・台本（ゆるボイ！）
上の妹三人にボコボコにされたと話したら、中学生の妹(四女)の愛が溢れ出した
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
松平蒼太郎