昼休み。自分のことを慕ってくれている後輩から「放課後に勉強を教えてほしい」と頼まれた。
放課後。その約束をした本人は、なぜか保健室のベッドでぐうすか気持ちよさそうに寝ていた。

【時刻】放課後
【舞台】保健室　→　教室

======

(穏やかな寝息)

……んへへぇ
もう食べられませんよぉ、せんぱぁい……
ふへへぇ……

……ふがっ

//寝ぼけた声
……んっ？
あれ、ここ、保健室……
先輩の家じゃない……？
//

んんー？　

おぉ、我が愛しの先輩
大変です
どうやら私たちはとっても不思議な事件に巻き込まれてしまったようです
ついさっきまで、私は先輩の家で先輩の作ってくれたご飯をお腹いっぱい食べてたはずなのに
気づいたらなぜか保健室のベッドで寝ていました
これは……もしや誘拐？　それともテレポート？　はたまたタイムスリップ？
何やら事件の予感がします！

あいてっ！
ちょっ、いきなり人の頭を叩かないでくださいよ！
これ以上馬鹿になったらどうするんですか！

へっ？　夢？　さっきまでのが全部？
…………そ、そんな
先輩の作ってくれたジューシーなハンバーグに
ふわふわ卵のオムライス、具材たっぷりのナポリタン
デザートのガトーショコラ……
おまけに先輩のエプロン姿まで……
あれが全部夢だったなんて……
うぅ……なんと残酷な……


しかし、先輩
時計を見る限り、もうとっくの前にホームルームは終わって下校時間のはず
なのにどうして保健室なんかに……
おっ？
私が「今日の放課後に勉強を教えてほしい」ってお願いしてきたから……？
あー
なんだかそんな話をお昼休みの間にしたような、していないような……

あいてっ！
先輩また叩いた！　女の子にそう何回も手を出しちゃダメですよ！
ちょっと女の子にからかわれたくらいで、そう感情的になってたら将来ロクな大人になれな……い……

すんませんした
今のショックでハッキリと思い出しました、はい
私の方からお願いしたくせに、当の本人は約束を忘れてさっきまでぐっすり寝てました
お詫びにどんなキツイお仕置きも受けますんで、どうかお許しを
あと、勉強は教えてください
今度の期末テスト真面目にやばいんで

……！
はいっ！　よろしくお願いします！
集合場所は、先輩の教室にしましょうか
それじゃあ、すぐに荷物を持ってきます！

(場面転換　数秒間を置く)

んんー……
んんんんー…………
あぁぁぁ！　もう！

勉強なんて大っ嫌い！
国語も数学も、理科も歴史も英語も全部嫌いだぁ……
難しい問題ばっかりの問題集なんて見たくないですよぉ……
あぁ、私はこのままずっと「勉強ができない人間」のまま一生を終えるんだぁ……
うわぁぁん
せんぱぁい……たすけてぇ……
私がちゃんと学校卒業できるまで勉強教えてくださぁい……
なんならもう一生私のこと面倒見てくださぁい……

…………

あー、先輩また私の告白スルーした
もう10回以上は先輩に告白してる気がするのに
一回もまともに返事をもらったことがない気がするんですが？
女の子から告白されて嬉しくないんですかー？
最初の頃は面白い反応してくれたのになぁ
なんか最近は反応薄くてつまんなーい
…………
またそうやって無視して……
冷たいなぁ先輩ってば……

…………
先輩って、彼女いるんですか？
あぁえっと、深い意味はないです、ただなんとなく、気になったので
「いたらどうする？」……って
卑怯な返しですねぇ、先輩のくせに
どうもしませんよ
で、いるんですか？　いないんですか？　どっち？

んあ？
「この問題解けたら教えてやる」？
えっ、本当ですか！？
嘘ついたら針千本飲ましますからね！

よーし、頑張るぞぉ
……あっ、なんですかその顔
どうせ私に解けるわけないとか思ってるんでしょ
ふふーんだ、私、こう見えて本番に強いタイプの人間なんです
甘く見ないでくださいね

ふーんふふーん

はい、解けました
ほら、ボケッとしてないで早く答え合わせしてください
……どうです？
全問正解だったでしょ

ふふーん
だから言ったじゃないですか
私は本番に強いタイプの人間だって
ほら、約束通り彼女がいるのか教えてくださいよ
ズルなんかしてませんよー
そもそも、先輩ずっと私の手元見てたじゃないですか
ズルしてたらもうとっくにバレますよ

…………はぁ
……あの、ですね
私、本当はちゃんと勉強してるし、テストもちゃんと良い点とれるんです
勉強が嫌いなのは本当ですけど……

だから
今まで先輩が見てきた「勉強が苦手な私」は、全部偽物
私ずっと、先輩の前で演技してたんです
本当は答えがわかってるのに、「わかんない」って嘘をついてみたり
本当は必要ないのに、先輩に「勉強を教えて」って頼んでみたり

「なんで」……って

なんでだと思います？
……にひひ
頭の良い先輩なら、わかってるんじゃないですか？
私が、なんでこんなことをしてたのか

あっ、そうだ
先輩、約束ちゃんと守ってくださいね
「何のことだ」って、またまたそんな、白々しいこと言っちゃって
「私が問題を解けたら、彼女がいるのか教える」って約束ですよ
ほらほら、観念して本当のことを喋ってくださいよー

「彼女なんかいない」

わー、やっぱり思ってた通りだー！
ですよねぇ
学校にいる間はずーっと可愛い後輩ちゃんに付き纏われてる先輩が
彼女なんか作ってる暇あるわけないですもんねぇー
というか、先輩は私と付き合ってるって
周りの女子たちに勘違いされてたりするんじゃないですかー？
まだ付き合ってもないのにそんなふうに思われちゃうなんて
私たちお似合いってことですかねぇ
うふふふふふ

あだっ！
……すんません、またちょっと調子に乗りました
というか、頭ばっかり狙うのやめてくださいよ
背が縮んだらどうするんですか
ただでさえ先輩とは身長差があるのに
これ以上縮んだら大変なことになるじゃないですか

…………ふぅ
さて、そろそろ時間も時間ですし
勉強会はお開きにしましょうかねぇ……
先輩
今日も、とっても楽しい放課後でした
先輩が良ければ、また次も一緒に
こうやって過ごしませんか？
もちろん、ふたりっきりで

…………にへへ
先輩、大好きです
また明日も、先輩の隣にいさせてくださいね

・台本（ゆるボイ！）
勉強ができない後輩と過ごす有意義な放課後の話
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
羽衣ロロモン