あなた

ほんの少しだけ裕福な暮らしをしている一般人。
家事をしてもらうためヒューマノイドを買おうとしたところ、今回の型落ちちゃんを発見。
見た目に惹かれ即購入したはいいものの、最新型とはまた別にプレミアがついたものだったため、めちゃくちゃ出費がかさんでしまった。

型落ちちゃん

ずっと前から店頭に並んでいた数世代前のヒューマノイド。
プレミア価格のため買い手がなかなかつかず、ついたとしてもすぐに返品されるということを繰り返していたので、整備不良を起こしかけていた。
外見は若く小ぶりだが、なぜか年寄りのような話し方をする。
本人曰く、『自分の年相応の話し方』だそう。

ピッ、ピッ、ピロンッ・・・

う、うぅ〜ん・・・ここはどこじゃ・・・？
はっ、遂に私もスクラップにされるのかっ！？

・・・
いや、見たところ普通の家だし、そんな感じではないのう・・・

う〜ん、ということは・・・
おいそこの。
まさかとは思うがお主、私を買い取った訳じゃなかろう？

流石にそんな馬鹿げた事はせんよな。
はっはっはっ・・・

・・・って、なんでじゃっ！
寄りにもよって私を中古で買うなどと・・・

知らんのか？
私の型は何世代も前な上、欠陥ばかりでほとんどが廃棄された不良品・・・

そのクセ残った殆どはプレミアになって、新型の2、3倍は高くつくというのに・・・
はぁ、その顔だと何も知らんかったのじゃな。

仕方ない・・・
気は進まんが、今からでも販売先に問い合わせてみるといい。
なぁに、心配はいらんよ。
返品には慣れっこじゃ。

ほれ、早うせんか。
・・・なんじゃ、手が止まっとるぞ。

・・・
まさかお主、このまま私をここに置いておくつもりか？
まったく意味がわからん・・・

正直、このまま返品してもらうのが今後のためだと思うが・・・

はぁ、私はあくまでヒューマノイド。
これ以上主人であるお主に口答えはできん。

仕方ない、ここでお主の世話をするとしよう。
た・だ・し！
私の性能は期待するでないぞ。
途中ですぐに故障しても知らんからなっ。


(１ヶ月後)


これっ、目を覚まさんかっ。
もう朝じゃっ。

むぅ、全然起きん。
また夜更かししおったなこやつめ・・・

こういう時は・・・

コホンッ、『高温モード』。

ピピッ・・・

(あなたのベッドに入り込み)

ふっふっふ・・・暑さで寝苦しくしてやるわ。
これで起きんやつはおらん・・・って、うわぁっ！？

すすっ、すでに起きとるなら先に言わんかっ！
『高温モードオフ』っ！

ほれっ、起きたなら下へ来て朝ごはんを食べにっ・・・！？

こっ、今度はなんじゃ・・・
そんなに抱きつかれたら動けんじゃろうがっ。

はぁ・・・
こやつ、まだ寝ぼけておる・・・

んん〜・・・！
ぐぅっ・・・仕方のないやつじゃ・・・
少しだけだからのっ。

まったく・・・

(しばらくして)

はぁ・・・やってしもうた。
気付けば私もスリープモードに・・・

これだから型落ちはいかん。
燃費が良くないせいで勝手にこうなるのじゃ。

ふぅ、まぁよい。
今から動こうが時間はたっぷりあるからの。
よい、しょ・・・

ギギギッ・・・

う〜む・・・
そろそろ関節のパーツにもガタが来たか・・・
軋む音がうるさくてたまらん。

・・・
む、なんじゃ、心配してくれとるのか。
ふふっ、よいよい。
ヒューマノイドとして生まれた以上、こうなる時はいずれ来るんじゃ。

そりゃ、メンテナンスをして替えのパーツと交換すれば解決はするが・・・

お主が思うほど修理費は馬鹿にならんぞ？
そんなものに金をかけるくらいなら、新しいヒューマノイドを買った方が有意義だと私は思っておる。

所詮、機械は機械じゃからの。
ぞんざいに扱おうが、人間の自由じゃ。

・・・
心か？私達にそんなものはない。
喜びも悲しみも、全部プログラムされたものじゃからな。
お主も馬鹿なことを言うようになったのう。

そんなことより、腹は空いてないかい？
ふふっ、そうだろう。
昼は何が食べたい？
ハンバーグ？ここの所毎日作っておる気がするのう・・・(フェードアウト)


(半年後)


ガチャッ・・・

パタパタパタ

よく帰ってきたなっ。
お主のことをずっと待ちわびておったぞ。
ご飯にするか？お風呂にするか？それとも・・・

って、最後までやらせんかっ。
からかい甲斐がないのう。

・・・
相当疲れておるではないか・・・
また仕事を張り切りすぎたのではなかろうな。

はぁ・・・
お主ももう少し楽になったらどうじゃ。
最近のお主は機械同然、感情がないように見える。

半年前の方がよっぽど良かったぞ・・・

なぁお主、ちょいとこっちを向いとくれ。

(あなたの手を握って)

よく聞け。
お主はお主じゃ。
心のある人間。

なにか理由があるにしても、その体に鞭を打ってまで動く必要は無い。
お主の体は一つだけなんじゃからな。

それと、前から言いたかったんじゃが・・・

私の事は気にかけるな。
どうせ、もうじきこの体ともおさらばせにゃならん。
メンテナンスも検査もせずに売りに出されていたんじゃ。
寿命が早まるのも無理はない。

その証拠にな、ココ最近はよくメモリーが飛ぶんじゃ。
どういうことかわかるか？

お主との大切な思い出が、自分の中から少しずつ消えていく・・・
これほど苦しいことは無い。

時代遅れを自覚するためわざとしていたこの話し方も、すっかり板についてしもうたわ。
はははっ・・・

・・・
なぜそうお主が悲しむ必要がある・・・
私の替えなんていくらでもいるだろう・・・？
世話をしてくれるやつなら、もっと適任が・・・

ぎゅぅっ・・・

っ・・・！
そ、そんな強く抱きしめるなっ・・・
体に響くじゃろうがっ・・・！

はぁっ・・・
本当になんなのじゃ・・・

・・・？
私しかいない？
一体なんの話を・・・

バタンっ・・・

っ！！！
お、お主っ・・・！？
おいっ、おい返事をしろっ！

呼吸が荒いっ・・・
待っておれっ、今すぐ病院に連れて行ってやるからなっ！

ギギギッ・・・

ぐっ・・・もう少しだけもってくれ・・・！


(しばらくして)


・・・
はっ・・・！
起きたかっ・・・！？
おいっ、私が誰か分かるかっ？

っ・・・

このっ・・・馬鹿者っ・・・！
だから言ったんじゃ・・・！
休まないのは体に毒だとっ・・・

お主ら人間は私達とは違うっ！
機械のようにぽんぽんと死んでいいものじゃない・・・！
もう少し自分の価値に気付けっ！

・・・・・・

すまん・・・つい怒ってしまった・・・
だがな、こうなってしまうほどに、私にとってお主はかけがえのない存在なんじゃ。

こんな欠陥だらけの私でも、寂しい思いくらいはするからの・・・ははっ・・・

・・・何？
お主も寂しいと？

・・・

・・・なぁお主。
以前お主が、心について聞いてきた事を覚えておるか？
あの時は『そんなものはない』と言い切っておったが・・・

フルフル・・・

なんで、じゃろうな・・・
故障じゃろうか・・・

目から・・・液が漏れ出すのじゃ・・・
お主の事を考えるだけで・・・お主の無事をこの目で見れたことで・・・
胸の奥が締め付けられて・・・

これでは、人間のようではないか・・・ははっ・・・

(あなたがヒューマノイドを抱きしめる)

っ・・・！
うぅぅっ・・・！ぐっ・・・
うわぁぁぁぁっ・・・！
ぐすっ・・・ひっぐ・・・

おぬっ、お主どっ・・・離れるなんで嫌じゃあ・・・！
まだいぎだぐないぃっ・・・
お主と一緒がいいんじゃあ・・・！

うぇぇぇぇんっ・・・！
ぐずっ・・・ずずっ・・・

心配だったんじゃぞっ・・・
毎日っ・・・毎日っ・・・

私の気も知らずにやつれて帰ってきおってぇ・・・！
馬鹿者ぉっ・・・

うぅぅっ・・・

(ひとしきり泣いたあと)

・・・
え・・・？
ここ半年、人一倍頑張っていた理由・・・？
た、確かに知らないが・・・

うん・・・うん・・・
はっ・・・！？今なんと・・・！？

おっ、お主っ・・・！
まさか、私の体を1から作り直すつもりかっ！？
しかも最新型と同じシステムに切り替えるなんて・・・

っ・・・
せっかくもっと小言を言ってやろうと思ったのに・・・
これでは、お主を責めることができんではないか・・・

・・・ほ、ホントにいいんじゃなっ。
最新型のスペックは、長期使用にも耐えられるレベルなんじゃぞっ？
だから、その・・・下手をすれば、お主の寿命程度は稼働し続けるという事になる・・・

こんなに難儀な性格をした私でも・・・
機械のくせに寂しがりで、お主の事をどうしようもないほど愛している私だとしても・・・
本当の本当に・・・後悔しないな・・・？

ははっ・・・まったく、どこまでもお主は・・・

・・・
ふぅ・・・
仕方ない、もうしばらくはお主の世話をするとしようっ。

た・だ・し！

私の、一番の主人であり続けるんじゃぞ。
後で嫌になっても知らんからなっ。

・・・今までも、この先も・・・
ずっと変わらないお主でいておくれ。

大好きじゃ・・・

えへへっ・・・

・台本（ゆるボイ！）
型落ちのじゃ系ヒューマノイドを買ってみたら・・・
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
USIQUI