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愛が欲しい、約束が欲しい。
written by 夜木嵩
  • 居候
  • 束縛
  • メンヘラ
公開日2023年04月07日 19:31 更新日2023年04月07日 19:31
文字数
2616文字(約 8分44秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
拾われた少女
視聴者役柄
少女を拾った男性
場所
男性宅
あらすじ
街の片隅で座り込んでいた少女を拾ってから数か月、彼女はその夜突然、決断を打ち明ける。
その胸中にある、理由、本心、望む未来。
求められるものは、あなたの決意。
本編
お兄さん。
突然かもしれないんですけど、お話ししなければならないことがあって。
少し、いいですか?

私、決めたんです。
これ以上、お兄さんのお部屋に居座るわけにはいかないし、ここを出ようと。

迷惑じゃないって……
やっぱり、言うと思ってました。
お兄さん、優しいから。
自分が無理してようと、気を使ってしまうんですよね。

でも、それが私にとって、怖くもあるんです。
このまま、お兄さんの優しさに溺れて、ただお兄さんに迷惑をかけるだけの居候になってしまえそうで。

自分もダメになってしまいそうだし、お兄さんのことも、ダメにしてしまいかねない。

だから、お兄さんとの日々に、かけがえのない幸せを感じてしまう前に。
感じてしまっても、拭いきれなくなる前に、ここを出なくちゃいけないって、考えたんです。

私は、私として生きていかなければ。
お兄さんが、お兄さんとして生きていくことの妨げにならないために。

これからのこと……?
ふふっ、お兄さんが、それを気にするんですね。
やっぱり優しい。

そんなの、何にもないですよ。
お金も、居場所も、意味も。

だけど、それをお兄さんがわざわざ気にする必要はないじゃないですか。

お兄さんのこと、私は確かに恩人だと思ってます。
それでも、他人であることに変わりはないんですよ。

私がお兄さんのもとを離れて、幸せになろうとも、ズタボロになろうとも、お兄さんにはお兄さんの変わらない毎日がある。
それだけですよね。

というか、それ以上に他人のことを気にして生きてたら、苦しいに決まってます。

こうしてお兄さんの救いの手にしがみついて、苦しめているのは私なんですけど。

そうです、それも理由、ですね。
お兄さんが私のこと、これからのことを気にしてしまう前に。

なんて考えていたんですけど、それはもう、手遅れって感じですね。
自分のことはおざなりで、他人のことばかり大切にしてしまう、お人好しのお兄さんですもの。
私はお兄さんのこと、少し、甘く見ていたのかもしれません。

安心してください。
これまでのお兄さんの気持ちが、鬱陶しいとか、嫌みたいに思ってたわけじゃないんです。
むしろ、嬉しすぎるくらいで。

だから、私はお兄さんとの日々……短かったですけど、大事にしてもらった貴重なこの時間のこと、一生、忘れないつもりです。
いつか、どこかで恩返し出来たらなって気持ちで、これから、頑張って一人で生きていこうかと思ってます。

でも、お兄さんはダメです。
私のことは、忘れてください。

お兄さん、心配してくれるのはいいんですけど、私から見たら、お兄さんの方こそ心配になりますし。

今まで知らないふりをしてあげてましたけど、お兄さん、私を拾ったことで確実に無理、してるじゃないですか。

私を拾ったその最初の夜から、私が寝てると思って、スマホにパソコンに、忙しそうにして、頭を抱えてましたよね。

私、薄目で見てたんです。
悩んでたのは、家計のことなんだろうなって、すぐにわかりましたよ。

それで、趣味に掛けるお金は削って、自由時間だったところも働いて、なんとか二人暮らしていけるようにって捻出しようとしてたんですよね?

ダメです。
お兄さんがそれを嘘だと言っても、今のお兄さん、疲弊してるって感じで、誤魔化せませんからね?

そうやって振る舞うたびに、私の中のお兄さんは、他人のために自分を犠牲にする人という印象が強くなるだけですから。

ホント、どこまでも放っておけなくなるくらいに。

もし、これでお兄さんが倒れたりしたらどうするんですか?

その方が、私のこと、悲しませることになるんですよ?
生活だって回らなくなるかもしれない。

お兄さんの気持ちは、愛のように見えるだけの、盲目的な独り善がりだって。
私は、思います。

人を大切にするからこそ、他人に心配させないというのも、忘れてはいけない一つの優しさであって、顧みない自己犠牲よりも、そっちの方が大切なこと、だと私は思ってます。
人を大切にするということは、お兄さんが傷付くことで、一緒に傷付く人を作るという意味なんですから。

だから、やっぱり、愛というものが怖い……

……えっ?

そうですか、もしお兄さんが、無理するのをやめたら……ですか。
ふふっ、なんで、そこまで必死に食い下がってくれるんです。

私、他人なんですよ?
それに、こうして余分に増えた一人分の生活費のため、いろいろと削ってきたのは誰ですか?
今まで通りにしたら、それはそれで立ち行かなくなるんじゃないんですか?

なんとかする、ですか。
なんとも信用しづらい曖昧な答えですね。

いいですよ。
お兄さんには、無理なんですよね?
お兄さんのもとを離れた私が、またダメになっていくのを見てしまうのが。

お兄さんが私を拾ったのは、見捨てられないから。他人のくせに。

かくいう私だって、誰でもいいから救いが欲しくて、深夜の街の片隅に座り込んで、たまたま通りかかったお兄さんのことをじっと見ていたんですけど。

私だって、こうして家を出ると切り出しては見ましたが、その時から求めている愛は変わらないんです。

なんというか、利害の一致というか……相思相愛、ですね。私たち。

それで、お兄さん。
そこまで言うのなら、ひとつ、約束……できますか?

私以外、どんな人にも、救いの手は差し出したりしないって。

なんで、お兄さんの良心を締め付けるような約束、しなきゃいけないと思います?

これは、等価交換です。

私は、ここから出て行ったりしない。
お兄さんが無理しないように、私だって頑張ることにしました。

私は、お兄さんに囚われることにしたんです。

言葉が悪いなんて言われても、形が同じなら体よく言い換えてもわかりづらいだけですよね?

私の心は、この決断をもってお兄さんの庇護下から出て行けなくなってしまったんです。

だから、お兄さんが投げ出したら私はおしまい。
生かされるも殺されるもお兄さん次第ってことです。
お兄さんの握っているものの重み、感じられますか?

ええ、だからこそ、お兄さんの視線は、ずっと、いつまでも、私に向いていてくれないといけないんです。

お兄さんの優しさは、振りまくほどに自分自身を壊してしまうこと。
そして、お兄さんが壊れることを望まないパートナーがいること。

このことを、胸の深くまで、意識し続けていてほしいんです。

私は、二人で日々を幸せに紡いでいきたいから。
どんな綻びも、摘み取っておかなければ。

お兄さん。
約束、してくれますよね?

お互いに、必要なものはお互いだけ。
大切な愛を向けて想い合う、ふたりとして。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
愛が欲しい、約束が欲しい。
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
夜木嵩
ライター情報
ヤンデレとか書きます。

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