こんばんは、ちょっとお話いいかしら？
あ、待って待って！ 振り向くのはダメ！ あと立ち止まるのもナシ！
そんなことしたら君、私に襲われちゃうよ？
分かったらほら、このまま止まらず振り向かず、歩きながらお話しよ♪
実は私ね、君がいま何を考えてるか分かるんだけど……教えてあげよっか？
「変な奴に絡まれた」とか、そんな感じでしょ？
やった～当たった♪
そうだよねぇ、普通の人間は、初めましての人にこんな事しないもんね。
お、ケータイなんか出してどうするのかな？
やっぱりアレかな、通報とかするのかな。
確かにそうだよね……普通の人間相手なら、それで何とかなるかもだよね。

じゃあもし、私が普通の……というか、そもそも人間じゃなかったらどうする？

ほら、今の状況って、どこかで聞いたことがない？
夜道を歩いてると誰かに話しかけられて、その誰かが後ろにぴったりついて来る。
それで振り返ったら襲われちゃう──えへへ♪
私の事、分かってくれた？
分かってくれたなら、まだ振り向いちゃダメだよ？ 足を止めるのもダメ。
本当は私だって、君の顔を見ながらいっぱいお話したいよ？

でも君が振り返っちゃったら──私、君の事を襲わなきゃいけなくなっちゃうの。
だからもう少しこのまま……このままでお話、しよ？

あ、ちょっと！ 急に走り出したら危ないよ──って、あはは♪
君……止まっちゃったね♪
足元をよく見てないから、段差に躓いて転んじゃった。

送り狼に狙われてる時に転んじゃって、止まって身動きが取れなくなっちゃった♪
あ～あ、可哀想……これから君は、送り狼に襲われちゃうんだぁ♪
私ね！ 私ね！ 初めて君を見た時から君の事を絶対に襲いたいって思ったの！
胸のあたりがキュンキュンして、もう居てもたってもいられなくて……だからね、今すっごく嬉しいの！
一目惚れした人間を襲えるって、好きになっちゃった相手をグチャグチャに出来るって！
ねぇ見て？ この鋭い爪……これでね、今から君の肉を引き裂くの！
ふわふわで柔らかい肌に爪を突き立てて、一気にズバッてやっちゃうの……！
その後は骨ごと肉を噛み砕いて、君を骨の髄まで味わうんだぁ……あぁ、もう無理……体中ゾクゾクしてきちゃう！

こ～ら、暴れちゃダメ！
君は送り狼の前で転んじゃったんだから、あとはもう襲われるしかないんだよ？
このままガブっと喉に噛みつく？ それとも少しずつ丁寧に、ゆっくりバラバラにしていく？
ねぇねぇ、君は私にどうされたい？
私、君の事好きだからさぁ……君のお願い、せっかくだから聞いてあげる♪
「見逃してほしい」……？
それはダメだよ。そのお願いだけは絶対にダメ。
送り狼に襲われた人間はね、無事には帰れないの。
一度捕まえた獲物は何があっても絶対に逃がさない……それが私のやり方なの。
分かった？ 分かったら大人しく、どう食べられたいか選んでね♪
ふふ、君はどんな食べられ方を選ぶのかな──ん、あれれ？

あー……えっと、ごめんね？
私、なんか気が変わっちゃった。
君の事を食べるの、やっぱりやめにする。
あ、でもでも、君を逃がすわけじゃないから。
その辺り、勘違いしないでよね！

さてと……それじゃあちょっとだけ大人しくしててね。
今から君の事、誰にも邪魔されない場所まで運んでくから。
大丈夫、送り狼はとっても力持ちなんだから、私の事は心配しなくても平気だよ♪
さてと、それじゃあしゅっぱーつ！
帰ったらいっぱい楽しませてもらうから……残念だけど、逃げるのは諦めてね♪





ふぅ、ここまで来れば平気かな……大丈夫？ケガはない？
さっき転んだ時、体のどこかを強く打ったとかは……うん、大丈夫そうだね。
ごめんね、さっきは怖い思いをさせちゃって。
私だって、本当は君を怖がらせたり、痛い思いなんてさせたくなかったよ？
でもね、さっきはあれしか方法が無かったの……それだけは、分かってくれると嬉しいな。
ふふ、私の話……今はちゃんと聞いてくれるんだ。
ひょっとして、逃げてる時に君も見ちゃったのかな？
そっか、それじゃあ話も簡単になるね。

さっきね、君は私とは違う、もう一匹の化け物に襲われるところだったの。

私からすればなんて事ない、手で払えば簡単に殺せるような雑魚。
普段だったら適当に殺しておしまいだったんだけどね、今日はそうもいかなかったの。

そう、君。

君を巻き込みたくなかったから、君を安全なところまで連れてくることにしたの。
ほら、周りをよく見て？
ここ……神社の境内なら、アイツは入ってこれない。
ちょっと寒いかもしれないけど、アイツが姿を消す朝までここに居れば、とりあえずは安心だよ。
でもね、次の夜になればアイツはまた君を狙う。
そうなれば、君は今以上に怖い目に遭う事になるの……そんなの、嫌だよね？
だからね、君が私にお願いしてくれるなら──

あの化け物、今から殺しに行ってあげる。
私の宝物を怖がらせる醜い化け物……お馬鹿な害獣を、私が駆除してあげる。

その代わりにね、私……どうしても欲しい物があるの。
君がそれを与えてくれるなら、私はアイツを殺して君の事を守ってあげる。
でもね、もし君がそれをくれないなら、朝まで待ってから私も消える。
君は毎晩のように襲い掛かって来る怪物に怯えながら、眠れない日を過ごす事になるの。
それが嫌なら──ふふ、くれるんだ♪

そんなに必死になるなんて、君って怖いのが苦手なのかな？
まぁいっか、ありがとね。
でも、私が欲しい物が何かとか……そういうの、聞かなくて良かったの？
言っとくけど、後から「やっぱりあげない」って言っても駄目だからね。
もしそんな事したら──

あの化け物が君を殺すよりも早く、お前の全身を嚙み潰す。
お前の血肉をひとかけらも残さず喰い尽くして、お前を私だけのモノにする。

それが嫌なら、ちゃんと対価を支払ってよね。
うん、約束だよ♪
それじゃあ、一度しか言わないからよく聞いてね？
私が欲しい物、君を助ける代わりに求める対価はね──

君からの愛情。

ふふ、でもね……ただの愛情じゃダメ。
私が君を好きになったみたいに、君にも私の事を好きになってほしいの。
私が君のことを滅茶苦茶にしたいって思ってるみたいに、君も私の事を独占して、メチャクチャに犯してほしいの。
私の一番大事なところを君でいっぱいにして、君と一緒に居ないと狂っちゃうようにしてほしいの。
私の全部を君で満たしてほしい、私は君だけの物なんだって印をつけてほしい。
一生一緒に居て、君の全部と私の全部……心も、体も、魂も。
何もかも全部、君と一つになりたい。
それくらい熱くて激しい、ドロドロに煮詰まったキモチ……私が欲しいのはね、そういう愛情なの。

だからね、まずはキス……してほしいな。
これから先、私と生涯を共にすることの証明……そんな甘くて素敵なキスをね、してほしいの。
ほら、さっきから羨ましそうにこっちを見てるあの化け物。
アイツに見せつけるみたいに、二人の初めて……シよ？
お前が入り込む隙間なんて存在してないんだって、い～っぱい見せつけてあげよ？

（沈黙）

そうだよね……自分を襲った奴にいきなりこんな事を言われても、どうすれば良いか分かんないよね。
大丈夫、君が私を怖がってることくらい、ちゃんと分かってるよ。
私だってそこまで鈍感じゃないし、理性が無い訳でもないから。
だからね、今は愛情が無くても……助かる為なら仕方ないって気持ちだけでも大丈夫。
私、ちゃんと我慢するから。
でもね、アイツを殺した後は……どれだけ時間が掛かっても良いから、私の事、ちゃんと好きになってね？
うん、ありがと♪
それじゃあ──ほら、君から……お願い？

んっ……あはは♪
すっごい、君の事……こんなに近くで感じられる！
私、君と繋がってる……！
ねぇ、今度はもっと激しいの、シよ？
大丈夫、今度は私がリードしてあげるから。

んっ……！
はぁ……はぁ……えへへ、ありがとう♪
これで契約完了……とっても気持ち良かったよ♪
それじゃあ約束通り、あの不届き者は私が殺してくるね。
その間、君はしばらく大人しくしててね？
大丈夫だよ、送り狼は一度守るって決めた相手は絶対に守るんだから。
それじゃあ──行ってくるね。



ふふ、おはよう♪
ここ？ここは君の部屋だよ。
君ってば私を待ってるうちに寝ちゃっててさ……仕方ないから、ここまで運んできたの。
うん、アイツは約束どおり、ちゃんと殺してきたよ。

だから君は安心して良いの。
うん、そうだよ……もう大丈夫、これで全部おわったよ。

それじゃあ、次は私の番だね。
約束通り、君にも私の事、ちゃんと好きになってもらわなきゃだから。
だからね、まずはこれ……君の手で、私に着けて欲しいな。
うん、犬用の首輪。
私が君の物だっていう証明……素敵でしょ？
少しくらいキツくしたって平気だから……お願い。
んっ……えへへ、ありがとう♪
これで私は君の物……もう一生、君から離れないから。
だからね、今日から私の事、い～っぱい愛してよね。

私のご主人様♪

・台本（ゆるボイ！）
【ヤンデレ/人外】ヤンデレ送り狼に一目惚れされたアナタは命を救われる代わりに主従契約を結ばされる
https://x.com/yuru_voi

・台本制作者
霜月鷹