ん……あぁ、ようやく来たか。
すまぬな、急に呼び出して──おや、どうかしたのか？
お前は誰だ……？
誰だと言われても……お主、自分を呼び出した者すら覚えられぬのか？
お主に連絡を寄越（よこ）した相手は誰じゃ？ここは誰の家じゃ？
これくらい、少し考えれば分かるであろうに……
そうじゃ、お主を呼び出したのは妾（わらわ）じゃ。
ふふ、驚いたか？
そうじゃろうそうじゃろう、なんせ今の妾は、誰が見ても立派な女狐（めぎつね）じゃからな♪
髪色くらいは面影があると思うのじゃが……
その目、妾の事をまだ疑っておるのじゃな。
親友のお主にこうも冷たくあしらわれると、心にこう……なんと言うべきか、色々と来るものがあるのぉ。
ならばほれ、これを見よ。
ほれ、ちと読みにくいかもしれんが……よし。
どうじゃ、これで信じる気になったであろう？

ここに書いたのは、妾とお主以外には誰も知らぬ事……これで妾の言う事、信じてくれるか？

そうかそうか、それは良かった。
ん、なんじゃ？妾に聞きたい事でもあるのか？
「その喋り方はどうしたのか」……じゃと？
どうしたのかと言われても……それはのぉ、妾にも分からぬのじゃ。
いつものように散歩をしておって、誰かに声をかけられた気がして……気が付いたらこうなっておった。
妾は普段通りに話しておる筈なのじゃが、どうにも勝手にこのような、少しばかり古い言葉遣いになってしまうのじゃ。
姿が変わった理由も、話し方がおかしくなってしもうた理由も、何一つ分からぬ。
本音を言うとな……妾、とても不安なのじゃ。
腸（はらわた）が潰れてしまいそうな、今にもおかしくなってしまいそうな……
なのに……それなのに妾は今、とても不思議な気分なのじゃ。
ちとおかしなことを言うかもしれんが、笑わないでおくれよ？

この世に生を受けた時より、妾は女狐じゃった。
信じられんが、妾は自分の事を本気でそう思っておるのじゃ。

人だった頃の記憶もあるし、自分が男じゃった事もしっかりと覚えておる。
それなのに、自分が人間だった事なぞ微塵（みじん）も信じられんのじゃ。
妾は……妾はいったい、どうしてしまったのじゃろうか？
肉付きの良い柔らかな体、美しい毛並みの尾、いつの間にか着ておった着物……
知らぬモノばかりなのに、この全てが、元より自分の物であった。
妾は、心の底からそう思っておるのじゃ。
なぁお主、助けておくれ……妾、気が狂ってしまいそうじゃ。
自分が別の何かに変わってしまう、元の自分が消えてしまう……そんなのは嫌じゃ！
妾は……違う、俺……は……

（深いため息）

お主……そう暗い顔をするでない。
お主では妾をどうにかする事など出来ぬ、そんな事は分かっておる。
これはあくまで、妾の身に起こった事なのじゃ。
それならば、妾が一人でどうにかするべきなのは当然の事、そう案ずるでない。
「そういう訳にはいかない」……？
身も心も変わり果てた妾をそこまで思ってくれるとは……ふふ♪
全く、我ながら良き友に恵まれたものじゃ。
ならばのぉ、お主に一つ頼みがあるのじゃ。
こうして虚勢（きょせい）を張り続けるのは、妾としてもちと辛い。
じゃからのぉ──

お主も妾と同じように、女狐にはなってくれぬか？

そのように驚いて、妾……それほどおかしなことを言った覚えはないぞ？
妾はただ、同じ境遇（きょうぐう）の者を傍（そば）に置いておきたいのじゃ。
元の姿に戻れずとも、同じ女狐として余生（よせい）を共にしてくれるものがおれば、今はそれで満たされる。
じゃが、そこら辺の有象無象を捕まえた所で味気ない。
伴侶（はんりょ）を貰い受けるのなら、最も親しい人間……そう、お主が良いと決めておったのじゃ！
ふふ……今更逃げようとしたところで、もう遅いぞ♪
ほれほれ、お主……自分の体を見るがよい。

妾と話し込んでいるうちに、お主の体はすっかり変わってしまったぞ？

うむ、体は変わっておるが中身……心の方は変わっておらぬようじゃな。
これは少し手間が掛かりそうじゃが……おやおや？
そんなに呆（ほう）けた顔をして……お主、自分の身に何が起こったのか理解できておらぬのか？
それとも、理解した上でその現実を受け止めきれぬのか……
どちらにせよ、抵抗されないのは好都合じゃ。

さてと、お主の中身はどう弄（いじ）ってやろうか……くくく、今から楽しみじゃのぉ♪

・台本（ゆるボイ！）
狐の怨霊に憑かれて女狐になった友人に強制TSさせられる
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
霜月鷹