- 喫茶店
- 囁き
- 癒し
公開日2026年05月08日 02:58
更新日2026年05月12日 22:23
文字数
7658文字(約 25分32秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
喫茶店の店員
視聴者役柄
常連客
場所
喫茶店
あらすじ
雨の夜、閉店間際のカフェ。
バリスタの彼女があなただけのために丁寧にコーヒーを淹れてくれます
バリスタの彼女があなただけのために丁寧にコーヒーを淹れてくれます
本編
---
(店内の環境音。コーヒーを挽く音、かすかなジャズ、雨の音が窓の外から聞こえる。静かで落ち着いた雰囲気。ドアベルが小さく鳴る音)
---
■ 導入
……いらっしゃいませ。
(ゆったりと、少し眠そうな、でも柔らかい声で)
……あら。
今日も来てくれたんですね。
(小さく、ほっとしたように息を吐く)
……雨の中、ご苦労さまでした。
濡れていませんか。
傘、ちゃんと持っていましたか。
……よかった。
(カウンター越しに、静かに微笑むように)
いつものお席、今夜も空いていますよ。
窓際の、あの席。
雨粒が窓ガラスに当たって、街の灯りがにじんで見えて……少し、幻想的でしょう。
あそこが、わたしは好きなんです。
(小さく息を吐く)
今夜は静かですね。
雨のせいか、お客様もまばらで……。
こういう夜は、わたし、好きなんです。
音が、柔らかくなる気がして。
街全体が、少しだけゆっくりになる感じ。
(少し間)
少しだけ待っていてもらえますか。
コーヒー、すぐにお持ちします。
……お疲れでしょうから。
(足音。カウンターの奥へ移動する気配。コーヒーを準備する音。豆を挽く低い音)
(独り言のように、少し遠くから)
今日も……一日、お疲れさまでした。
(コーヒーを丁寧に準備する音が続く。お湯を注ぐ音、静かに抽出される音)
(独り言のように、ひとりごちる)
……今日は、ブラジルにしようかな。
甘い香りがするから、疲れた体に……合いそう。
(少し間。準備が整う音)
---
■ パート1 ── 珈琲と、最初の時間
(足音。テーブルに近づく気配)
お待たせしました。
(カップをそっとテーブルに置く音)
ブラジルのシングルオリジン、今日入荷したばかりのものです。
少しナッツのような、ほんのり甘い香りがするでしょう。
飲む前に、一度……香りを吸い込んでみてください。
それだけで、少し気持ちが落ち着くはずなので。
……どうぞ。
(椅子を引く音。隣に座る気配)
あの……今夜は、少し隣に座ってもいいですか。
シフトが、あと少しで上がりなので。
店長も、もう厨房の奥に引っ込んでしまいましたし、お客様も今は……あなただけなので。
……ありがとうございます。
(ほっとしたように、ため息をひとつ)
今日は、どんな一日でしたか。
……なんとなく、顔を見ていたら聞きたくなって。
(少し間)
あなたの顔、少し……疲れた色をしています。
目の周りが、少しだけ。
いつもより、目の輝きが落ち着いている感じ。
……わかりますよ。毎日、見ていますから。
(小さく笑う)
おかしいですか。
でも、ほんとうのことです。
あなたがここに来るようになってから……もう、何ヶ月になるでしょう。
(少し指を折って数えるように)
六ヶ月……七ヶ月、かな。
最初は、ただのお客様でした。
仕事帰りに寄って、コーヒーを飲んで、静かに帰っていく。
それだけの関係だったのに。
(少し間。雨音が窓の外から聞こえる)
……いつの間にか、こうして話すようになっていましたね。
あなたが最初に話しかけてくれたのは……そう、コーヒーの豆についてでした。
このお店の豆は、どこから仕入れているんですかって。
珍しいな、と思いました。
たいていのお客様は、そんなことを聞かないから。
わたし、すごく……うれしかったんです。
ちゃんと、コーヒーに向き合ってくれているんだなって。
(静かに、でも確かに)
コーヒーって……淹れる人間の気持ちが出るんですよ。
急いで淹れたコーヒーは、なんとなく落ち着かない味がします。
丁寧に、時間をかけて淹れたものは……やさしい味がする。
単純なことのようで、ちゃんと飲んだ人に伝わるんです。
だから、あなたのために淹れるときは……いつも少しだけ、余分に時間をかけています。
お湯を細く細く注いで、ゆっくり、じっくり。
……知っていましたか。
(くすっと笑う)
知らなかったですよね。
そういうもので、いいと思います。
伝わらなくても、やりたいからやっているだけなので。
(少し間)
でも……今、こうして話して。
知ってもらえたから。
(少し照れたように、視線を落とす)
なんか、少し恥ずかしいですね。
普段、こういうこと、口にしないので。
(コーヒーカップをそっと自分の方に引き寄せる音)
わたしも今日、同じものを淹れました。
休憩のときに、少しだけ。
ほんとうに……いい豆なんですよ、今日のは。
産地の人が丁寧に育てた豆って、ちゃんと味に出るんです。
愛情がこもったもの、って……飲んだらわかります。
(静かに微笑む)
あなた、どうですか。
……おいしいですか。
(相手が飲む気配を感じながら、少し待つ)
……よかった。
その顔が見たくて、淹れているんだと思います。
---
■ パート2 ── 仕事の話、日常の話
(雨音が少し強くなる。窓ガラスに当たる音が大きくなる)
雨、少し強くなってきましたね……。
(窓の外をぼんやりと見ながら)
今日の仕事、何かありましたか。
聞いてもいいですか。
(静かに耳を傾けるように。少し間)
……なるほど。
(相槌を打ちながら)
それは、大変でしたね。
思っていたように進まないこと……多いですよね。
準備していても、当日になると全然違う方向に行ってしまったり。
(少し間)
わたしも、このお店に来たばかりのころ、よく失敗していました。
コーヒーの温度が合わなかったり、抽出の時間を少しだけ間違えたり。
お客様には黙って飲んでいただいていましたが……自分ではわかるんです。
ああ、今日のこれは、うまくなかったって。
口には出さないけれど、ひとりでずっと考えていました。
どこがいけなかったのか、次はどうすればいいか。
(少し遠い目で、静かに)
でも、失敗すると……次はもっと丁寧にしようって思えるから。
悪いことだけでもない、と今は思います。
あの失敗があったから、今のやり方があって。
今の自分がある。
あなたは……今日の失敗、ちゃんと次に活かせると思います。
なんとなく……そういう顔をしているから。
(少し照れたように笑う)
また言いましたね、顔を見ればわかるって。
でも、ほんとうのことなんです。
(少し前のめりになるように)
わたし、人の顔を見るのが好きで。
表情って、言葉よりも正直ですから。
どんなに平気なふりをしていても、目の端に疲れが出たり……口元が少し固くなったり。
逆に、楽しいことがあったときは……目の端が、ほんの少しだけ上がって。
あなたの顔、今日は……最初にドアを開けて入ってきたとき、少し強張っていました。
でも、コーヒーを飲んだあと……ちょっと緩んで。
目の周りが、やわらかくなった。
(静かに、でも確かに)
その変化を見るのが……好きです。
わたしが淹れたコーヒーで、そうなってくれたのかな、って思えるから。
(少し間)
このお店が、少しでも……休める場所になっているなら、うれしいです。
それだけで、今日ここにいた意味がある気がします。
(コーヒーカップをそっと触る音)
あなた、ブラックで飲みますよね、いつも。
砂糖もミルクも入れない。
最初は少し意外でした。
なんとなく……甘いものが好きそうな雰囲気がして。
(くすっと笑う)
そうですか。苦いのが好きなんですね。
苦みの中に、甘みを感じるって……わかる気がします。
コーヒーって、そういうものだから。
口に含んだ瞬間は苦くて、でも飲み終わったあとに、じわっと甘みが残る。
単純に甘いものより、苦みがあって、その奥に甘みがあるものの方が……深くて、好きです。
(少し間を置いてから、独り言のように)
……人も、そういうところがありますよね。
最初は少し取っつきにくくても、時間をかけて知っていくと……やさしい部分が見えてくる。
(少し視線をあなたに向けて)
あなたも、そういう人でした。
最初の頃は……静かで、何を考えているかわからなくて。
でも、話すようになって。
少しずつ、いろんなことを話してくれるようになって。
今は……こうして、隣に座って話せている。
(小さく、柔らかく)
……不思議ですね。
人との距離って、気づいたら縮まっているものなんですね。
---
■ パート3 ── 少し個人的な話
(雨音が続く。ジャズがかすかに流れている)
ねえ……少し、個人的なことを話してもいいですか。
(少し迷うように、間を置いて)
わたし、このお店で働き始めて二年になります。
コーヒーが好きで、豆の勉強がしたくて、ここに来ました。
学校を出て、すぐここに。
最初は……お客様と話すのが、苦手でした。
何を話せばいいか、わからなくて。
注文を受けて、コーヒーを出して、ありがとうございましたって言う。
それだけで精一杯だった。
でも……コーヒーの話なら、できるんです。
豆のこと、産地のこと、焙煎のこと、抽出の方法のこと。
知っていることだから、自然に言葉が出てくる。
そこから始まって、だんだん……普通の会話もできるようになって。
(少し恥ずかしそうに)
あなたと話すようになったのも、コーヒーの話がきっかけでしたよね。
でも今は……コーヒーと関係ない話もたくさんしている。
あなたの仕事のこと、好きな音楽のこと、子どものころのこと。
(少し間)
わたし、気づいたら……あなたが来る時間が楽しみになっていて。
今日は来るかな、今日は来ないかな、って。
仕事しながら、ちょっとだけ……ドアの方を気にしていたりして。
(少し慌てたように)
おかしなことを言ってごめんなさい。
ただ、正直に言いたくなってしまって。
……わたし、あまり器用じゃないんです。
思ったことを、ためておくのが苦手で。
でも、だからといって全部言えるわけでもなくて……なんか、難しいですね。
(少し苦笑いするように)
コーヒーは丁寧に淹れられるのに、言葉はうまく淹れられない。
自分でも、変だなって思います。
(窓の外を見ながら、少し遠い目で)
雨……まだ降っていますね。
こういう夜、好きだって言いましたけど……少し、さみしくなる夜でもあります。
静かすぎると、いろんなことを考えてしまって。
最近、ひとりで考えることが増えました。
これから先のこと……このままでいいのかとか、もっと勉強しないといけないとか。
目標を持って始めたはずなのに、日常の中で少しずつ、ぼんやりしてくることがあって。
コーヒーの道って……長いんです。
一生かけても、全部はわからない。
産地は何十カ国もあって、豆の種類も数え切れないくらいあって。
焙煎も、抽出も、奥が深くて。
(少し間)
だから好きなんですけど。
でも、たまに……自分がどこに向かっているか、見えなくなることがある。
あなたは……そういうこと、ありますか。
目の前のことに追われていると、自分がどこに向かっているか、わからなくなることって。
(相手の話を聞きながら。静かに耳を傾ける間)
……そうですよね。
みんな、そういうことあるんですね。
(少し、ほっとしたように)
なんか……少し、ほっとしました。
自分だけかな、って思っていたから。
(静かに笑う)
こういう話……あまり誰かにしないんです。
うまく言葉にできないし、聞いてもらっても困らせるだけかな、って思って。
でも……あなたになら、話せる気がしました。
なんでだろう。
……やっぱり、顔のせいかな。
聞いてくれそうな顔してるから。
(くすっと小さく笑う)
また顔の話になってしまった。
---
■ パート4 ── 近づく距離
(コーヒーをおかわりする音。ゆっくりとお湯を注ぐ音)
もう一杯、飲みますか。
今度は少し違う豆にしましょうか。
(立ち上がる気配。カウンターの方へ少し移動する)
エチオピアのイルガチェフェ……フローラルな香りがする豆で、わたしの一番好きなやつです。
全然違う個性で、面白いと思います。
(コーヒーを準備する音。丁寧に淹れる音)
あの……今日ね、店長から言われたんです。
(少し弾んだ声になって)
来月から、豆の仕入れを一部、任せてもらえるって。
(少し興奮を抑えるように、でも声ににじむ)
うれしくて。
ずっと、やりたかったことで。
産地の農家さんと直接やり取りして、どんな豆か自分で確かめて、このお店に合うものを選んでくる。
責任は増えますけど……それよりも、楽しみな気持ちの方がずっと大きくて。
(少し照れて、声が少し小さくなる)
あなたに、一番最初に話したくなって。
変ですか。
……ありがとうございます。
そう言ってもらえると、なんか……ちゃんと頑張れる気がします。
(少し間。コーヒーが完成する音。足音。テーブルに戻ってくる)
(カップをそっと置く音)
どうぞ。
少し、果実のような、花のような香りがするでしょう。
飲む前に、まず……香りを。
(相手が香りを嗅ぐ気配を待って)
……ね。
全然違うでしょう。
さっきのブラジルとは、まるで別の飲み物みたい。
(椅子に座り直す音)
飲んでみてください。
(間。相手が飲む気配)
……どうですか。
(うれしそうに)
そうでしょう。
花みたいな、でも確かにコーヒーって感じ。
わたし、この豆が一番好きなんです。
なんていうか……迷いがない味がして。
(少し考えながら)
豆によって、ほんとうに個性が違うんです。
重くてどっしりしたものも好きだし、明るくて軽やかなものも好き。
でも、このイルガチェフェは……なんか、その日の気分に関係なく、好きって思える豆で。
どんな状態で飲んでも、ちゃんとおいしい。
(少し間。雨音が静かに続く)
……そういう存在って、人にもいますよね。
どんな状態でも、会うとほっとできる人。
何があっても、変わらずそこにいてくれる人。
(静かに、でも真剣に)
あなたが……そういう人です。
わたしにとって。
(少し早口になって)
……言いすぎましたか。
突然、こんなこと言って。
でも……なんか今夜、言わないといけない気がして。
雨の夜って、そういう気持ちにさせますよね。
(間)
迷惑だったら、ごめんなさい。
ただ……ずっと、思っていたことで。
毎日ここに来てくれて、コーヒーを飲んでくれて、話を聞いてくれて。
それが……どれだけ、わたしにとって特別なことか。
あなたが来ない日は……なんか、少し間が抜けた感じがして。
今日はいないんだ、って。
別に、それが当たり前のはずなのに。
(少し声が小さくなる)
自分でも、気づいたら……そういう気持ちになっていました。
いつから、とは言えないけれど。
気づいたときには、もうそうなっていた。
---
■ パート5 ── 素直な気持ち
(雨がやや静かになる。雨音が柔らかくなる)
……少し、雨が弱くなってきましたね。
(ゆっくりと、落ち着いた声で)
さっきは……変なことを言ってしまいました。
でも、後悔はしていないんです。
言えてよかった、と思っていて。
(少し笑いながら)
こういうこと、誰かに言えたことがなかったから。
思っていることを言葉にすると……なんか、少し軽くなった気がして。
ずっと心の中で温めていたものを、やっと外に出せた感じ。
あなたは、どう感じましたか。
……困らせてしまいましたか。
(間。相手の反応を聞くように。静かに待つ)
そうですか……。
(少し、感情が揺れるように。声が少し滲む)
それは……。
ありがとうございます。
(小さく、でもしっかりと)
わたし、こういうとき、どう返せばいいかわからなくなります。
うれしいのに、うれしいってちゃんと言えなくて。
頭では言いたいのに、言葉が出てこなくて。
でも……うれしいです。
ほんとうに、うれしい。
(少し間。静かに息を吸う)
今夜、来てくれてよかった。
雨の中、来てくれて。
こうして話せて。
……来てくれなかったら、どうしようって、少し思っていたんです。
雨の日は来ない人もいるから。
でも来てくれた。
(息をひとつ、柔らかく)
コーヒー……どうですか。
まだあたたかいうちに、飲んでもらえたら。
あなたが飲んでいるところを見るのが、好きなんです。
少し目を細めて、ゆっくり味わって。
……それを見ていると、うまく淹れられたんだなって、わかるから。
(低く、穏やかに)
料理でも、飲み物でも……作ったものをおいしいって言ってもらえるのは、うれしいですよね。
でもそれ以上に、おいしそうに飲んでいる顔を見られる方が、うれしい。
言葉じゃなくて、表情で返ってくるから。
その顔が見たくて、毎日丁寧にやっているのかもしれない。
(少し間。静かに)
……あなたの顔が見たくて、かもしれないですね。
今日、気づきました。
こうして隣に座って、話していて……気づいた。
(照れたように、でも隠さずに)
おかしいですか。
……でも、ほんとうのことだから、いいかな。
(少し間)
来月から仕入れの仕事が増えたら……もっと、いろんな豆が入ってくると思います。
あなたにも、飲んでほしくて。
これは絶対好きだと思う、って選んだ豆を、ここで飲んでほしくて。
それが……楽しみで。
(柔らかく笑う)
あなたのために選ぶ豆を、早くも考えていたりして。
……先走りすぎですか。
(少し視線を手元に落として)
でも、そういうことを考えると……仕事が楽しくなるんです。
誰かのために、って思うと、丁寧にやれる。
あなたのために、って思うと、もっと丁寧にやれる。
(静かに、ゆっくりと)
だから……これからも、来てほしい。
ここに。
このお店に。
わたしのいる、この場所に。
(少し間。指先でカップの縁をそっと撫でる音)
来てくれるたびに、新しい豆を用意して待っていますから。
あなたに合いそうなものを選んで、丁寧に淹れて……待っていますから。
---
■ パート6 ── クロージング・囁き
(BGMがほぼ消え、雨音だけが残る。静かで親密な空間。外の音が遠くなる)
(ゆっくりと、囁くように)
雨……ほとんど止みましたね。
(静かに、窓の外を見て)
さっきまであんなに降っていたのに。
雨って、急に止みますよね。
ずっと続くのかと思っていたら……静かになって。
もうすぐ、閉店の時間になってしまいます。
(少し、惜しむように)
今夜は……長い時間、ここにいてくれましたね。
(小さく笑う)
わたしも、シフトが終わってから、ずっとここにいてしまった。
いつもは後片付けをして、さっさと帰るのに。
今日は……帰りたくなかったんだと思います。
……いてほしかったんだと思います。
今夜は特に、もう少しだけって。
(椅子を少し引く音。少し近くなる気配)
ねえ……今日のこと、覚えていてほしいです。
特別なことは何もなかったけれど……雨の夜に、コーヒーを飲んで、こうして話して。
それだけのことなのに、なんか……ずっと覚えていたいって思う夜があって。
今夜が、そういう夜です。
(囁き。声がさらに柔らかく、ゆっくりと落ちていく)
あなたが来てくれるたびに、わたしは……少しずつ、大切なものが増えていく感じがします。
コーヒーの味が好きで、この仕事が好きで……それだけだったのに。
今は、あなたのためにコーヒーを淹れることが、一番好きなことになっていて。
(少し間。雨上がりの静寂)
不思議ですね……。
人って、出会う前はその人のことを知らないのに。
出会ってから時間が経つと……その人がいない生活が、想像できなくなる。
(さらに静かに。ほとんど息と混ざるように)
あなたのいない夜の、このお店が……今は少し、想像できなくて。
(間)
次に来るとき……また、話しましょう。
今日みたいに、ゆっくり。
できれば……また雨の夜がいいですね。
静かで、ゆっくりできて。
……今夜は、いい夜でした。
(少し間。立ち上がる気配。でも、すぐには離れない)
(ほとんど囁きで、やさしく)
帰り道、気をつけてくださいね。
路面が、まだ濡れているから。
急がなくていいですよ。
焦ると、転ぶから。
(少し笑って)
……傘、持ちましたか。
(間)
……うん。
(やさしく、ほとんど息だけのように)
また来てください。
待っています。
いつでも……待っています。
(ほんの少し間を置いて、ほぼ囁きで。吐息に溶けるように)
……おやすみなさい。
(足音が遠のく。ドアが静かに開く音。かすかに雨上がりの夜の空気が入ってくる気配
(店内の環境音。コーヒーを挽く音、かすかなジャズ、雨の音が窓の外から聞こえる。静かで落ち着いた雰囲気。ドアベルが小さく鳴る音)
---
■ 導入
……いらっしゃいませ。
(ゆったりと、少し眠そうな、でも柔らかい声で)
……あら。
今日も来てくれたんですね。
(小さく、ほっとしたように息を吐く)
……雨の中、ご苦労さまでした。
濡れていませんか。
傘、ちゃんと持っていましたか。
……よかった。
(カウンター越しに、静かに微笑むように)
いつものお席、今夜も空いていますよ。
窓際の、あの席。
雨粒が窓ガラスに当たって、街の灯りがにじんで見えて……少し、幻想的でしょう。
あそこが、わたしは好きなんです。
(小さく息を吐く)
今夜は静かですね。
雨のせいか、お客様もまばらで……。
こういう夜は、わたし、好きなんです。
音が、柔らかくなる気がして。
街全体が、少しだけゆっくりになる感じ。
(少し間)
少しだけ待っていてもらえますか。
コーヒー、すぐにお持ちします。
……お疲れでしょうから。
(足音。カウンターの奥へ移動する気配。コーヒーを準備する音。豆を挽く低い音)
(独り言のように、少し遠くから)
今日も……一日、お疲れさまでした。
(コーヒーを丁寧に準備する音が続く。お湯を注ぐ音、静かに抽出される音)
(独り言のように、ひとりごちる)
……今日は、ブラジルにしようかな。
甘い香りがするから、疲れた体に……合いそう。
(少し間。準備が整う音)
---
■ パート1 ── 珈琲と、最初の時間
(足音。テーブルに近づく気配)
お待たせしました。
(カップをそっとテーブルに置く音)
ブラジルのシングルオリジン、今日入荷したばかりのものです。
少しナッツのような、ほんのり甘い香りがするでしょう。
飲む前に、一度……香りを吸い込んでみてください。
それだけで、少し気持ちが落ち着くはずなので。
……どうぞ。
(椅子を引く音。隣に座る気配)
あの……今夜は、少し隣に座ってもいいですか。
シフトが、あと少しで上がりなので。
店長も、もう厨房の奥に引っ込んでしまいましたし、お客様も今は……あなただけなので。
……ありがとうございます。
(ほっとしたように、ため息をひとつ)
今日は、どんな一日でしたか。
……なんとなく、顔を見ていたら聞きたくなって。
(少し間)
あなたの顔、少し……疲れた色をしています。
目の周りが、少しだけ。
いつもより、目の輝きが落ち着いている感じ。
……わかりますよ。毎日、見ていますから。
(小さく笑う)
おかしいですか。
でも、ほんとうのことです。
あなたがここに来るようになってから……もう、何ヶ月になるでしょう。
(少し指を折って数えるように)
六ヶ月……七ヶ月、かな。
最初は、ただのお客様でした。
仕事帰りに寄って、コーヒーを飲んで、静かに帰っていく。
それだけの関係だったのに。
(少し間。雨音が窓の外から聞こえる)
……いつの間にか、こうして話すようになっていましたね。
あなたが最初に話しかけてくれたのは……そう、コーヒーの豆についてでした。
このお店の豆は、どこから仕入れているんですかって。
珍しいな、と思いました。
たいていのお客様は、そんなことを聞かないから。
わたし、すごく……うれしかったんです。
ちゃんと、コーヒーに向き合ってくれているんだなって。
(静かに、でも確かに)
コーヒーって……淹れる人間の気持ちが出るんですよ。
急いで淹れたコーヒーは、なんとなく落ち着かない味がします。
丁寧に、時間をかけて淹れたものは……やさしい味がする。
単純なことのようで、ちゃんと飲んだ人に伝わるんです。
だから、あなたのために淹れるときは……いつも少しだけ、余分に時間をかけています。
お湯を細く細く注いで、ゆっくり、じっくり。
……知っていましたか。
(くすっと笑う)
知らなかったですよね。
そういうもので、いいと思います。
伝わらなくても、やりたいからやっているだけなので。
(少し間)
でも……今、こうして話して。
知ってもらえたから。
(少し照れたように、視線を落とす)
なんか、少し恥ずかしいですね。
普段、こういうこと、口にしないので。
(コーヒーカップをそっと自分の方に引き寄せる音)
わたしも今日、同じものを淹れました。
休憩のときに、少しだけ。
ほんとうに……いい豆なんですよ、今日のは。
産地の人が丁寧に育てた豆って、ちゃんと味に出るんです。
愛情がこもったもの、って……飲んだらわかります。
(静かに微笑む)
あなた、どうですか。
……おいしいですか。
(相手が飲む気配を感じながら、少し待つ)
……よかった。
その顔が見たくて、淹れているんだと思います。
---
■ パート2 ── 仕事の話、日常の話
(雨音が少し強くなる。窓ガラスに当たる音が大きくなる)
雨、少し強くなってきましたね……。
(窓の外をぼんやりと見ながら)
今日の仕事、何かありましたか。
聞いてもいいですか。
(静かに耳を傾けるように。少し間)
……なるほど。
(相槌を打ちながら)
それは、大変でしたね。
思っていたように進まないこと……多いですよね。
準備していても、当日になると全然違う方向に行ってしまったり。
(少し間)
わたしも、このお店に来たばかりのころ、よく失敗していました。
コーヒーの温度が合わなかったり、抽出の時間を少しだけ間違えたり。
お客様には黙って飲んでいただいていましたが……自分ではわかるんです。
ああ、今日のこれは、うまくなかったって。
口には出さないけれど、ひとりでずっと考えていました。
どこがいけなかったのか、次はどうすればいいか。
(少し遠い目で、静かに)
でも、失敗すると……次はもっと丁寧にしようって思えるから。
悪いことだけでもない、と今は思います。
あの失敗があったから、今のやり方があって。
今の自分がある。
あなたは……今日の失敗、ちゃんと次に活かせると思います。
なんとなく……そういう顔をしているから。
(少し照れたように笑う)
また言いましたね、顔を見ればわかるって。
でも、ほんとうのことなんです。
(少し前のめりになるように)
わたし、人の顔を見るのが好きで。
表情って、言葉よりも正直ですから。
どんなに平気なふりをしていても、目の端に疲れが出たり……口元が少し固くなったり。
逆に、楽しいことがあったときは……目の端が、ほんの少しだけ上がって。
あなたの顔、今日は……最初にドアを開けて入ってきたとき、少し強張っていました。
でも、コーヒーを飲んだあと……ちょっと緩んで。
目の周りが、やわらかくなった。
(静かに、でも確かに)
その変化を見るのが……好きです。
わたしが淹れたコーヒーで、そうなってくれたのかな、って思えるから。
(少し間)
このお店が、少しでも……休める場所になっているなら、うれしいです。
それだけで、今日ここにいた意味がある気がします。
(コーヒーカップをそっと触る音)
あなた、ブラックで飲みますよね、いつも。
砂糖もミルクも入れない。
最初は少し意外でした。
なんとなく……甘いものが好きそうな雰囲気がして。
(くすっと笑う)
そうですか。苦いのが好きなんですね。
苦みの中に、甘みを感じるって……わかる気がします。
コーヒーって、そういうものだから。
口に含んだ瞬間は苦くて、でも飲み終わったあとに、じわっと甘みが残る。
単純に甘いものより、苦みがあって、その奥に甘みがあるものの方が……深くて、好きです。
(少し間を置いてから、独り言のように)
……人も、そういうところがありますよね。
最初は少し取っつきにくくても、時間をかけて知っていくと……やさしい部分が見えてくる。
(少し視線をあなたに向けて)
あなたも、そういう人でした。
最初の頃は……静かで、何を考えているかわからなくて。
でも、話すようになって。
少しずつ、いろんなことを話してくれるようになって。
今は……こうして、隣に座って話せている。
(小さく、柔らかく)
……不思議ですね。
人との距離って、気づいたら縮まっているものなんですね。
---
■ パート3 ── 少し個人的な話
(雨音が続く。ジャズがかすかに流れている)
ねえ……少し、個人的なことを話してもいいですか。
(少し迷うように、間を置いて)
わたし、このお店で働き始めて二年になります。
コーヒーが好きで、豆の勉強がしたくて、ここに来ました。
学校を出て、すぐここに。
最初は……お客様と話すのが、苦手でした。
何を話せばいいか、わからなくて。
注文を受けて、コーヒーを出して、ありがとうございましたって言う。
それだけで精一杯だった。
でも……コーヒーの話なら、できるんです。
豆のこと、産地のこと、焙煎のこと、抽出の方法のこと。
知っていることだから、自然に言葉が出てくる。
そこから始まって、だんだん……普通の会話もできるようになって。
(少し恥ずかしそうに)
あなたと話すようになったのも、コーヒーの話がきっかけでしたよね。
でも今は……コーヒーと関係ない話もたくさんしている。
あなたの仕事のこと、好きな音楽のこと、子どものころのこと。
(少し間)
わたし、気づいたら……あなたが来る時間が楽しみになっていて。
今日は来るかな、今日は来ないかな、って。
仕事しながら、ちょっとだけ……ドアの方を気にしていたりして。
(少し慌てたように)
おかしなことを言ってごめんなさい。
ただ、正直に言いたくなってしまって。
……わたし、あまり器用じゃないんです。
思ったことを、ためておくのが苦手で。
でも、だからといって全部言えるわけでもなくて……なんか、難しいですね。
(少し苦笑いするように)
コーヒーは丁寧に淹れられるのに、言葉はうまく淹れられない。
自分でも、変だなって思います。
(窓の外を見ながら、少し遠い目で)
雨……まだ降っていますね。
こういう夜、好きだって言いましたけど……少し、さみしくなる夜でもあります。
静かすぎると、いろんなことを考えてしまって。
最近、ひとりで考えることが増えました。
これから先のこと……このままでいいのかとか、もっと勉強しないといけないとか。
目標を持って始めたはずなのに、日常の中で少しずつ、ぼんやりしてくることがあって。
コーヒーの道って……長いんです。
一生かけても、全部はわからない。
産地は何十カ国もあって、豆の種類も数え切れないくらいあって。
焙煎も、抽出も、奥が深くて。
(少し間)
だから好きなんですけど。
でも、たまに……自分がどこに向かっているか、見えなくなることがある。
あなたは……そういうこと、ありますか。
目の前のことに追われていると、自分がどこに向かっているか、わからなくなることって。
(相手の話を聞きながら。静かに耳を傾ける間)
……そうですよね。
みんな、そういうことあるんですね。
(少し、ほっとしたように)
なんか……少し、ほっとしました。
自分だけかな、って思っていたから。
(静かに笑う)
こういう話……あまり誰かにしないんです。
うまく言葉にできないし、聞いてもらっても困らせるだけかな、って思って。
でも……あなたになら、話せる気がしました。
なんでだろう。
……やっぱり、顔のせいかな。
聞いてくれそうな顔してるから。
(くすっと小さく笑う)
また顔の話になってしまった。
---
■ パート4 ── 近づく距離
(コーヒーをおかわりする音。ゆっくりとお湯を注ぐ音)
もう一杯、飲みますか。
今度は少し違う豆にしましょうか。
(立ち上がる気配。カウンターの方へ少し移動する)
エチオピアのイルガチェフェ……フローラルな香りがする豆で、わたしの一番好きなやつです。
全然違う個性で、面白いと思います。
(コーヒーを準備する音。丁寧に淹れる音)
あの……今日ね、店長から言われたんです。
(少し弾んだ声になって)
来月から、豆の仕入れを一部、任せてもらえるって。
(少し興奮を抑えるように、でも声ににじむ)
うれしくて。
ずっと、やりたかったことで。
産地の農家さんと直接やり取りして、どんな豆か自分で確かめて、このお店に合うものを選んでくる。
責任は増えますけど……それよりも、楽しみな気持ちの方がずっと大きくて。
(少し照れて、声が少し小さくなる)
あなたに、一番最初に話したくなって。
変ですか。
……ありがとうございます。
そう言ってもらえると、なんか……ちゃんと頑張れる気がします。
(少し間。コーヒーが完成する音。足音。テーブルに戻ってくる)
(カップをそっと置く音)
どうぞ。
少し、果実のような、花のような香りがするでしょう。
飲む前に、まず……香りを。
(相手が香りを嗅ぐ気配を待って)
……ね。
全然違うでしょう。
さっきのブラジルとは、まるで別の飲み物みたい。
(椅子に座り直す音)
飲んでみてください。
(間。相手が飲む気配)
……どうですか。
(うれしそうに)
そうでしょう。
花みたいな、でも確かにコーヒーって感じ。
わたし、この豆が一番好きなんです。
なんていうか……迷いがない味がして。
(少し考えながら)
豆によって、ほんとうに個性が違うんです。
重くてどっしりしたものも好きだし、明るくて軽やかなものも好き。
でも、このイルガチェフェは……なんか、その日の気分に関係なく、好きって思える豆で。
どんな状態で飲んでも、ちゃんとおいしい。
(少し間。雨音が静かに続く)
……そういう存在って、人にもいますよね。
どんな状態でも、会うとほっとできる人。
何があっても、変わらずそこにいてくれる人。
(静かに、でも真剣に)
あなたが……そういう人です。
わたしにとって。
(少し早口になって)
……言いすぎましたか。
突然、こんなこと言って。
でも……なんか今夜、言わないといけない気がして。
雨の夜って、そういう気持ちにさせますよね。
(間)
迷惑だったら、ごめんなさい。
ただ……ずっと、思っていたことで。
毎日ここに来てくれて、コーヒーを飲んでくれて、話を聞いてくれて。
それが……どれだけ、わたしにとって特別なことか。
あなたが来ない日は……なんか、少し間が抜けた感じがして。
今日はいないんだ、って。
別に、それが当たり前のはずなのに。
(少し声が小さくなる)
自分でも、気づいたら……そういう気持ちになっていました。
いつから、とは言えないけれど。
気づいたときには、もうそうなっていた。
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■ パート5 ── 素直な気持ち
(雨がやや静かになる。雨音が柔らかくなる)
……少し、雨が弱くなってきましたね。
(ゆっくりと、落ち着いた声で)
さっきは……変なことを言ってしまいました。
でも、後悔はしていないんです。
言えてよかった、と思っていて。
(少し笑いながら)
こういうこと、誰かに言えたことがなかったから。
思っていることを言葉にすると……なんか、少し軽くなった気がして。
ずっと心の中で温めていたものを、やっと外に出せた感じ。
あなたは、どう感じましたか。
……困らせてしまいましたか。
(間。相手の反応を聞くように。静かに待つ)
そうですか……。
(少し、感情が揺れるように。声が少し滲む)
それは……。
ありがとうございます。
(小さく、でもしっかりと)
わたし、こういうとき、どう返せばいいかわからなくなります。
うれしいのに、うれしいってちゃんと言えなくて。
頭では言いたいのに、言葉が出てこなくて。
でも……うれしいです。
ほんとうに、うれしい。
(少し間。静かに息を吸う)
今夜、来てくれてよかった。
雨の中、来てくれて。
こうして話せて。
……来てくれなかったら、どうしようって、少し思っていたんです。
雨の日は来ない人もいるから。
でも来てくれた。
(息をひとつ、柔らかく)
コーヒー……どうですか。
まだあたたかいうちに、飲んでもらえたら。
あなたが飲んでいるところを見るのが、好きなんです。
少し目を細めて、ゆっくり味わって。
……それを見ていると、うまく淹れられたんだなって、わかるから。
(低く、穏やかに)
料理でも、飲み物でも……作ったものをおいしいって言ってもらえるのは、うれしいですよね。
でもそれ以上に、おいしそうに飲んでいる顔を見られる方が、うれしい。
言葉じゃなくて、表情で返ってくるから。
その顔が見たくて、毎日丁寧にやっているのかもしれない。
(少し間。静かに)
……あなたの顔が見たくて、かもしれないですね。
今日、気づきました。
こうして隣に座って、話していて……気づいた。
(照れたように、でも隠さずに)
おかしいですか。
……でも、ほんとうのことだから、いいかな。
(少し間)
来月から仕入れの仕事が増えたら……もっと、いろんな豆が入ってくると思います。
あなたにも、飲んでほしくて。
これは絶対好きだと思う、って選んだ豆を、ここで飲んでほしくて。
それが……楽しみで。
(柔らかく笑う)
あなたのために選ぶ豆を、早くも考えていたりして。
……先走りすぎですか。
(少し視線を手元に落として)
でも、そういうことを考えると……仕事が楽しくなるんです。
誰かのために、って思うと、丁寧にやれる。
あなたのために、って思うと、もっと丁寧にやれる。
(静かに、ゆっくりと)
だから……これからも、来てほしい。
ここに。
このお店に。
わたしのいる、この場所に。
(少し間。指先でカップの縁をそっと撫でる音)
来てくれるたびに、新しい豆を用意して待っていますから。
あなたに合いそうなものを選んで、丁寧に淹れて……待っていますから。
---
■ パート6 ── クロージング・囁き
(BGMがほぼ消え、雨音だけが残る。静かで親密な空間。外の音が遠くなる)
(ゆっくりと、囁くように)
雨……ほとんど止みましたね。
(静かに、窓の外を見て)
さっきまであんなに降っていたのに。
雨って、急に止みますよね。
ずっと続くのかと思っていたら……静かになって。
もうすぐ、閉店の時間になってしまいます。
(少し、惜しむように)
今夜は……長い時間、ここにいてくれましたね。
(小さく笑う)
わたしも、シフトが終わってから、ずっとここにいてしまった。
いつもは後片付けをして、さっさと帰るのに。
今日は……帰りたくなかったんだと思います。
……いてほしかったんだと思います。
今夜は特に、もう少しだけって。
(椅子を少し引く音。少し近くなる気配)
ねえ……今日のこと、覚えていてほしいです。
特別なことは何もなかったけれど……雨の夜に、コーヒーを飲んで、こうして話して。
それだけのことなのに、なんか……ずっと覚えていたいって思う夜があって。
今夜が、そういう夜です。
(囁き。声がさらに柔らかく、ゆっくりと落ちていく)
あなたが来てくれるたびに、わたしは……少しずつ、大切なものが増えていく感じがします。
コーヒーの味が好きで、この仕事が好きで……それだけだったのに。
今は、あなたのためにコーヒーを淹れることが、一番好きなことになっていて。
(少し間。雨上がりの静寂)
不思議ですね……。
人って、出会う前はその人のことを知らないのに。
出会ってから時間が経つと……その人がいない生活が、想像できなくなる。
(さらに静かに。ほとんど息と混ざるように)
あなたのいない夜の、このお店が……今は少し、想像できなくて。
(間)
次に来るとき……また、話しましょう。
今日みたいに、ゆっくり。
できれば……また雨の夜がいいですね。
静かで、ゆっくりできて。
……今夜は、いい夜でした。
(少し間。立ち上がる気配。でも、すぐには離れない)
(ほとんど囁きで、やさしく)
帰り道、気をつけてくださいね。
路面が、まだ濡れているから。
急がなくていいですよ。
焦ると、転ぶから。
(少し笑って)
……傘、持ちましたか。
(間)
……うん。
(やさしく、ほとんど息だけのように)
また来てください。
待っています。
いつでも……待っています。
(ほんの少し間を置いて、ほぼ囁きで。吐息に溶けるように)
……おやすみなさい。
(足音が遠のく。ドアが静かに開く音。かすかに雨上がりの夜の空気が入ってくる気配
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ライター情報
はじめまして
趣味でただ私が聞きたいフリー台本を書き投稿しているオタクです。
「こういう台本が欲しかった」
「よかった」
と思ってもらえる作品を書けるように頑張っています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
◇フリー台本に関して
詳細な言葉遣いや言い回し、台本内のセリフの順番など、読みやすいように改変していただいて構いません。
性別変更及び、大元の流れが変わらない範囲でのアドリブ等も可能です。
ご使用の際の許可は必要ありませんが、【台本:ねむりはり】の記載があれば嬉しいです。
ご不明な点がありましたら、お気軽にご連絡、ご相談ください。
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