0
ギムレットは別れの味
written by フブキ
  • 切ない
  • お酒
  • バー
公開日2021年10月27日 04:47 更新日2021年10月27日 04:47
文字数
1815文字(約 6分3秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
指定なし
演者人数
1 人
演者役柄
指定なし
視聴者役柄
指定なし
場所
行きつけのBAR
あらすじ
友達以上恋人未満の関係にあった男性(あるいは女性)とBARで待ち合わせて、再会するというストーリー。

悲恋ものです。さばさばしたタイプの女性をイメージして書きました。

ふたりが会うのは三年ぶり。想いを寄せていた相手は夢を追って、遠くに旅立ってしまっていたという設定です。
本編
(舞台:行きつけのBAR 扉の開く音)

 ……おーい、君。

 こっちだ。こっち。

 おーい。  

(相手が気が付き、テーブルにつく)

 やっと気がついたか。いや、わたしもちょうど来たところだよ。

 君は何を飲む?これか?

 これはアメリカーノ。ほら、誰だったけな。忘れてしまったけど、有名なスパイが愛したカクテルだったはず……。

 そう、ジェームズ・ボンド。007のジェームズ・ボンド。映画で飲んでいたんだ。

 マスター、彼にもわたしと同じものを。

 (少し、間が空いて、グラスがテーブルに置かれる)

 ありがとう。マスター。

 再会に乾杯。

 (グラス同士がぶつかる音)

 すこし痩せたか?

 え、違う?引き締まっただけだって?言われてみれば、筋肉質になったというか。

 ……うん。たくましくなったな。

 ほら、昔の君はもっと身体がふっくらしていたというか。

 頬なんて焼きたてのパンみたいにモチモチしていただろ。

 見違えたよ。

(3年ぶりだからと相手が言う)

 ああ。君の言う通り。なにせ3年ぶりだからな。……時が経つのは本当に早い。

 (君は変わっていないと相手が言う)

 わたしは変わっていない?

 ……ふふ。誉め言葉と受け取っていいのか、遠回しな皮肉ととるべきか。

 誉めたつもりだった?そうか。ありがとう。

 まだ音楽は続けているのかって?

 あぁ。続けているよ。

 休みの日に、駅前や公園で路上ライブをたまに開いたり。

 何もかもが昔のようにとはいかないけど。なかなか悪くはない。

 ファンもいるんだ。少ないけどね。

 ……駅前の立ち食いそば屋、覚えているか?ほら、ねじり鉢巻きの頑固おやじの店。

 ふたりでよく食べにいったろ。あのおやじ、すっかり出世して、今じゃテナントに店を構えているんだ。

 今度、食べに来ないか?味は昔のまま。変わっていないよ。

 おやじが顔を覚えていてくれていて、そこで働いているんだ。

 (相手、申し訳なさそうに断る)

 ……そうか。明朝の便で向こうに戻るのか。

 いや、いいんだ。気にしないでくれ。

 ……君こそどうなんだ。向こうで元気にやっているのか。

 学生時代の先輩だったけ?ついて行って、それっきりで音沙汰がなかったから。

 あぁ、違う。違う。怒っているわけじゃないんだ。

 ただ、心配で。

 ……えっ、レコード会社がついた!?

 これは今のうちにサインをもらっておかないとな。

 え、茶化すなって?いいじゃないか。つれないことを言うなよ。

 (グラスが空になる)

 次はなにを頼む?

 わたしはギムレットにするよ。君は?

 カイピロスカ、か。昔から好きだな。

(少し、間が空いて、グラスがテーブルに置かれる)

 花に花言葉があるように、カクテルにもカクテル言葉があるらしい。

 本当かどうかは知らないけれど。ギムレットはなんて意味だったか。忘れてしまったよ。

 どうした?深刻そうな顔をして?

 わたしに伝えないといけないことがあるって?

 …え!?結婚する!?

 だ、だれと!?

 はぁ。レコード会社の社長の娘さん、か。

 知り合ってからとんとん拍子に話が進んで……。なるほど。

 迷っているって?プロポーズを受けるかどうか。

 ……君のそのやさしさというか、優柔不断なところは相変わらずだな。

  宙ぶらりんが一番つらいだぞ。サーカスの曲芸師がテレビのインタビューで言っていたよ。

 ……その、君は彼女を愛しているのか?

 (相手、うなづく)

 ……なら、なら、迷うことはないじゃないか。はやく答えてあげないと。

 え、わたし?

 わ、わたしは関係ないだろう。君の問題だ。

 最近、夢を見るから?

 ふたりで夜通し、バカ騒ぎをしていたあの頃のこと……?

 (間が空いて)

 ……ときどき、わたしも考えることはあるんだ。

 ギターのチューニングをしている時やバーでひとりお酒を飲んでいる時にね。

 昔のことや、もしもあの時君を引きとめていたら、どうなっていたんだろうかって。

 もしかしたらってね。

 結局のところ、君は向こうに行ったし、わたしは背中を押した。

 それだけだよ。

 ギムレットのカクテル言葉を思い出したよ。たった今ね。どういうわけか。

 君には内緒だ。

 意地悪だって?お互いさまだろ。

 ……あぁ、もうこんな時間か。明日、早いんだろ?

 このあたりでお開きとしよう。

 ……それじゃ。

 さよならは言わない。元気でな。

 (相手、席を立つ。間が空いて)

 ……なぁ、君待って

 (扉が閉まる音)

 ……サーカスの曲芸師、か。

 マスター、ギムレットをもう一杯。ジンとライムジュースは半々で。

 ……さようなら。
クレジット
・台本(ゆるボイ!)
ギムレットは別れの味
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
フブキ
ライター情報
ボイス作品が好きです。ツイッターをやっています。フォローしていただけると嬉しいです。https://twitter.com/hubuki44334180

pixivを始めました。https://www.pixiv.net/users/33119105/novels
有償販売利用の条件
当サイトの利用規約に準ずる
利用実績(最大10件)
フブキ の投稿台本(最大10件)