（ソファで寝ている主を無言で揺さぶっている）

はぁ……ようやく起きた。
主（あるじ）、こんなところで寝てたら風邪を引くぞ？
そのおかげで今日はベッドを占領できたが……主が隣に居なかったせいで、寒くてゆっくり眠れなかった。
安心しろ、まだ夜中の二時だ。
今日は予定もないみたいだし、今から寝直しても時間に余裕はあるぞ。
ん、どうしたんだ？そんなに私の事を見つめて……いつもみたいに、私の顔を撫でてはくれないのか？
「お前は誰だ」って……もしかして主、私の事が分からないのか？
主ならこの姿でも気付いてくれると思っていたのに、少し……残念だな。
私の首を見てくれ、主が私にくれた首輪だ。
それにほら、この尻尾と耳……流石の主でも、これで分かってくれるだろう？
うふふ、正解だ。
今は人間の姿になっているが、私は紛れもなく主の飼い猫だ……驚いたか？
まぁ普通はそうだろうし、驚かない人間なんてそう多くはないだろうな。
「私が人間になっている理由」……知りたいのか？
主には秘密にしているつもりだったが、私は普通の猫とは違う……そうだな……化け猫と言えば分かりやすいか？
分かってくれたか……相変わらず、主は物分かりが良いんだな。
本当ならこの姿を主に見せるのは控えていたんだが……何故って言われても、流石に拾ってきた猫が目の前で人間になったら、誰だって驚くのが普通だろう？
まぁ、それも私の杞憂だったようだがな。
「なんで今日はその恰好で話し掛けたのか」……知りたいか？
実は、どうしても主に聞きたいことがあるんだ──

（寝ている主に覆いかぶさる）

最近、事あるごとに主の傍に寄っているあの女……あれは誰だ？

主には私が居るのに、まさかとは思うが他の女に現（うつつ）を抜かしているのか？
ずっと一緒に居た私を差し置いて、あんなぽっと出の女を選ぶのか？
そんな事、絶対にあり得ないよな?
どうなんだ主、答えてくれ……答えろ！
虫唾が走るんだ……主から私以外の、それも女の匂いがする……そんなの、そんなの絶対に許せる訳ない！
答えろ、あの女はいったい誰なんだ！
「仲の良い後輩」そうか……確認だが、主はあの女を異性として見ているのか？
勿論、そんな事はないよな？
そうか、それは良かった──けど、まだ私は安心できない。
悪いことは言わないから、あの女とは縁を切ってくれ。
主にその気がなかったとしても、向こうにはあるかもしれないだろう？
だから、あの女が主に悪さをする前に、主の方からアイツとの関係を断ち切ってくれ。
あの女に「君とはもう会えない」ってメッセージを送ればそれで済むんだ、簡単な事だろう。
主が出来ないなら、私がかわりにしてあげようか？
私は主の為に人間の事をたくさん勉強したんだ、例えば──

うふふ……人間は愛情表現の為にキスをする事も、私は知っているぞ？

嬉しい……主、キスしただけでとっても気持ち良さそうにしてる。
その……実は毎晩、寝ている主を相手にキスの練習をしてたんだ……主、一度も気付いてなかったみたいだけど。
でも、そのおかげでこんなに上手く、こんなに主を喜ばせるキスが出来るようになったんだ。
キスだけじゃない……主を喜ばせるために、私は色んな事を勉強したんだ。
これでもう、あんな薄汚い女は私の足元にも及ばない。
主の事を愛して良いのは私だけ、ずっと主の傍に居た私だけ……主もそう思うだろう？
なら、ちゃんと自分で別れることが出来るよな。
ほら……もう会えません、こんなに短い文章を相手に送信するだけだ。
一人で出来ないなら、私が手伝ってあげても良いんだぞ？
「自分で出来る」……そうか。
それなら私が見ていてあげるから、ちゃんと送るんだぞ──よし。
よく出来たな……偉いぞ、主♪

なぁ主……私は主の為だったら、どんな事でも出来る。
主が望むことは全て叶えてあげるし、私の全てを主に捧げられる。
身も心も……主が望むのならば私はなんだって差し出そう。
だから主も、私だけを必要としてくれ。
私だけを見て、私の事だけを考えて……私以外の全てを拒んで、主の全てを私で満たしてくれ。

その身を私で染め上げてくれ……私だけの、愛しい主。

・台本（ゆるボイ！）
飼ってた猫はクールでヤンデレな化け猫でした
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
霜月鷹