あ……ようやく目が覚めたのね。おはよう、気分はどうかしら？
普通……？そう、それは良かったわ。
「私が誰なのか？」……そんな事、今はどうでもいいでしょう？
それより貴方、やっぱりとても素敵な人間ね……こうして目の前にいる貴方を見ているだけで、気持ちが昂ってくるわ。
ねぇ……少しだけ、貴方に触れても良いかしら？
私ね、初めて貴方を見つけた時からずーっと、貴方の体に触れてみたいって思ってたの。
やっぱり冷たい……でも、とっても暖かい気持ちになる……なんだか不思議な感じね。
あら、自分の体が冷たいの……気になるの？
そうね……それなら……此処、どこだと思う？
とっても広くて暗くて、ところどころ青い炎が揺らめいてる……ほら、あそこ……向こうに大きな河が見えるでしょう？
あの河はね、向こうの世界を繋ぐ道なの……まぁ、道と言っても一方通行なのだけどね。
ここに来てしまった魂は、もう二度と現世に戻る事はできない。
私の許可があれば帰してあげる事も出来るけど……他の魂はともかく、貴方だけは絶対に帰してなんかあげないから♪
うふふ、ようやく分かったのかしら？

正解、ここは冥界──死者の国よ♪

貴方は死んでしまって、私が支配する冥界まで落ちてきてしまったの。
本当なら他の死者と同じように魂だけの存在になるのだけど、貴方は私の想い人……だから特別に体をあげたの。
あら……なんだか顔色が悪いわね、大丈夫？
その様子だと、自分が死んでしまった事が信じられないのね……もっとお話したいのだけど、これではどうしようもないわ。
そうだ……貴方って確か「耳かき」っていうのが好きなのよね？
道具はすぐに用意できるから、私が耳かきをしてあげるわ♪
ほら、私が「ひざまくら」っていうのもしてあげるから……ほら、こっちにおいで。
ありがとう、素直に従ってくれて嬉しいわ♪
それじゃあまずは……こっちの耳から始めるわね。

（耳かき開始）

ねぇ……貴方、生きてる時に不思議な夢を見た事がない？
とっても大きな蛇に襲われたり、ライオンの群れに襲われる夢……その夢を見る度に怖くて飛び起きてたわよね。
夢に出て来た動物って、もしかしてあそこにいる子達かしら？
あ、こら……急に動いたら、耳の中が傷付いちゃうわよ？
心配しなくて良いのよ、あの子達は私の忠実なしもべ……貴方を襲わないように言いつけてあるから、安心してちょうだい。
私が貴方に夢中になってる時にね、あの子達も貴方の事が気になったみたいなの……それで貴方の夢に忍び込んでたみたいで……ごめんなさい、私のペット達が貴方を怖がらせてしまって。

（耳かき終了）

はい、こっちの耳は終わったわよ。どうかしら……気分、少しは落ち着いたかしら？
良かった……それじゃあ、今度は反対側を向いて。
こっちのお耳も、貴方に喜んでもらえるように頑張るわね♪

（耳かき開始）

ねぇ……貴方、どうして自分がここに来てしまったか、覚えてる？
そう、覚えてないのね……まぁ良いわ、今の貴方には過程なんて関係ないもの。
私は貴方が生きていた頃から貴方の事が好きで、その貴方は私の冥界に来た……それなら、私の役目は貴方の事を全霊でもてなす、ただそれだけよ。

（耳かき終了）

はい、これで耳かきはおしまい……私の耳かき、気持ち良かったかしら？
それは良かった……あら、なんだかぼーっとしてるみたいだけど、大丈夫？
「眠くなってきた」……そう、それなら少し眠ると良いわ。えぇ、このまま私の膝で眠って結構よ。
おやすみなさい、今はゆっくり休んでね。




うふふ、ようやく手に入れた……貴方が私のしたことを覚えていなかったのは、嬉しい誤算だったわ。
あぁ……でも、覚えていないって言うより、最期まで自分に何が起こったのか分からないっていう方が正しいのかしら？
蛇さんに背後から丸呑みにされて、そのまま喰い殺されてしまったんだもの……怖がる暇もなかったでしょうね。
私はね、気に入った魂は絶対に手に入れないと気が済まない、だから貴方は死んでしまった。
私に気に入られたのが運の尽き……本当に可哀相ね、お気の毒だわ。
これでもう、貴方は何処にも行けない。
生まれ変わる事も無ければ世界に溶けて消える事もない……私と一緒に、永遠にこの冥界で生きていくの。

うふふ……これからの毎日、とっても楽しみだわ♪

・台本（ゆるボイ！）
冥界の女神のヤンデレ耳かき
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
霜月鷹