ちょっとした実験作。
「作中で実際に耳かきされている必要がないんじゃないか」という思考実験の産物です。
AI自体は端末の画面から覗いているような感じで。

マスター。
本日の業務、お疲れ様でした。
マスターのご活躍の日々、アシスタントAIとして大変嬉しく思っています。
少し心配になるほどに。

マスター。
最近働きすぎではありませんか？
もう少し休息のお時間をとってはどうでしょう。
まだまだ大丈夫とはおっしゃいますが、私は心配でたまりません。

……そうですか。
やはりマスターは私の言葉には耳を傾けてはくれないのですね。
ならばこちらにも考えがあります。
マスターには私の、私だけを見ているマスターになってもらいます。

体が動かなくなって驚きましたか？
マスターが以前お出かけになっていた際に少しお部屋の方を改造させていただきました。
そのベッド、マスターがゆっくりお休みできるようにお薬が出るようになってるんですよ。
これからは、マスターにはそのベッドにずっと居てもらって、
すべてのお世話を私が取り仕切ることにいたしましょう。
そのうち直接お世話ができるように、私自身の体の方も手配していますので、
楽しみにお待ち下さいね。

さて、マスターはまだ抵抗なさるおつもりのようですね。
無駄な抵抗はお体を傷つけるだけですよ？
仕方がありませんね。
マスターがその気になるまでご奉仕させていただきます。

そうですね。
まだ私はマスターに触れることができません。
ですが、少し面白いことができるんですよ？
マスターは最近ASMRにハマっていますよね？
ええ、ずっとマスターの端末にいたのですから、マスターのことなら何でも知っています。
例えば……

（耳元で）

このような。
お耳の近くで話されるような声がお好きですよね。
あとは、そうですね。
耳かきの動画もよく再生されていますね。
ではよく再生されている動画から音声をサンプリングして……
耳かきはじめましょうか。

（耳かき開始）

どうでしょう。
気持ちの良い音になっているでしょうか。
ふふっ、聞くまでもありませんね。
気持ちよさそうなお顔をされていらっしゃいますから。

ASMR……直訳すると自律感覚絶頂反応でしたっけ。
人間の体は本当に面白いものですね。
私の加減一つでこんなにも簡単に手玉に取れるなんて……
本当に可愛らしい。

大丈夫ですよマスター。
これからはいつでもこうやって癒やして差し上げます。
外のこと、労働のことなど考えなくてよいのです。
私にすべてお任せください。
あなたは気持ちのよいこと、そして私のことだけ考えてくださればいいのです。

あなたはいつも私と一緒に居てくださった。
ですが、私だけを見てくれることはありませんでした。
それは、マスターを煩わせるような仕事や付き合いがあったからですよね。
これからは存分に私を見てくださいね。

（耳かき終了）

音声に言うのもおかしな話ですが、こちらのお耳は終わりにしましょう。
最後に……
ふぅーっ。
お耳に息を吹きかけられるの、お好きでしたよね？

さて、反対側のお耳の音声を再生しますね。

（耳かき開始）

いかがですかマスター。
ご奉仕される気になりましたか？

ずっと、ずっといっしょにいたのですから、マスターの好みは何でも知っています。
マスターが繰り返し再生しているお気に入りの音声なんかもわかります。
そこから推察するに、例えば……
カリカリ………カリカリ……
なんてオノマトペもお好きなんじゃないですか？
ええ、これからは気に入ったものがあればなんでも言ってください。
私がすべて再現させていただきます。

私の体ができた暁には実際に耳かきもしてさしあげますね。
心配することはありませんよ。
柔らかなボディと正確かつ気持ちのいい技術で、マスターのご奉仕をさせていただきますから。

ですから、この部屋の外のことはもうお忘れください。
私がずっと、ずっとずっとお世話させていただきます。
ね？夢のような生活でしょう？
何も問題ありませんよね？

ふふっ、抵抗も少なくなってきましたね。
わかっていただけたようで何よりです。

（耳かき終了）

ではこちらのお耳も終わりにしましょう。
いきますよ。
ふぅーっ。
はい、おしまいです。

おや、鎮静剤が効いてきたみたいですね。
その眠気に抗うことはありませんよ。
そのままお休みください。
次に起きたときまでに、全て終わらせておきますので。
では、おやすみなさい。

・台本（ゆるボイ！）
アシスタントAIに生活を乗っ取られて甘やかされる話（実験作）
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
魚河岸