（重い扉が閉じる音）

ねぇ、起きて……起きて……起きて……
あ、起きた……♪
ねぇ……私……喉、渇いてるの……だからお水、頂戴……
お水、お願い……喉……渇いて、上手く喋れないの。
だから……お願い……お水、頂戴……これ？
この、透明な、柔らかいビンみたいな……この中にお水、あるの？
なら、飲ませて……お水、私に飲ませて……私、独りじゃ何も出来ないの……
だからお願い、お水……私に飲ませて……

ありがとう……おかげで喉、もう渇いてない。
まだ少し、変な感じだけど……もう大丈夫、ありがとうね。
これ、お水のお礼……私には、これしか出来ないから。
手首、触るね……あぁ……素敵……とってもスベスベで優しい……あの人達みたい。
はい、これがお礼だよ。
私の糸、無くならないように……誰にも取られないように、しっかり結んだよ。
「よく見えない」……？
そっか、貴方は目、暗いところだとよく見えないもんね。
待っててね、お水のお礼、二つ目……お部屋の明かり、付けてあげる。
これくらいなら、私一人でも出来るから……明かり、付けてあげるね♪

（火の灯る音）

どう？これで周り、ちゃんと見える？
良かった……でも、どうして貴方は驚いているの？
もしかして明かり、嫌いだった？
それならすぐに消すけど……私？私に驚いたの？
私の体？私、体が不思議なの？
そっか……貴方、人間さんには翅もないし、こんなに腕もないもんね～
うふふ……この翅、とっても綺麗でしょ♪
ひらひらして、とっても綺麗で……私の自慢なの♪
でもね……私はこの翅になる事、出来なかったの……
繭を破る前にね、熱い水に、落とされて……私は……私達は……あぁ……！
熱い……熱い熱い熱い熱いあついあついアツイッ！
いや……やめて……苦しい……痛い……熱い……息が出来ない……！
苦しいよ、このままじゃ私、死んじゃうよ……！
嫌だ、嫌だ……やめて……お願い……
ねぇ……あんなに優しく、してくれたのに……なんで……なんで助けてくれないの!?

あ、ごめんね……ちょっと昔の事、思い出しちゃって……
でもね、あの時は蛹から孵る事は出来なかったけど、今はほら……こんなに綺麗な翅♪こんなに素敵な体♪
私はね、素敵な姿になれたの♪
これも全部、貴方のおかげ……私を供養する祠に、小さな貴方がお参りをしてくれたおかげ。
私にお参りして、お供え物をくれて、だからね……私はこんなに成長できたの♪
ありがとぉ……とっても嬉しいよぉ……

でもさぁ……貴方、なんでお参りしてくれなくなったの……？

私、貴方がお参り……お世話してくれなくなったから、お水も飲めなくて、食べ物も食べれなくて、ず～っと辛かったんだよ？
私は貴方の事が大好きだったのに、貴方は私を忘れて……哀しかったなぁ……辛かったなぁ……
だからね、私は貴方をここに連れて来たの。
私の居場所、私が生きていける場所……これからはこの場所でね、貴方と私、ずーっと一緒♪
もう絶対に離れない……離さない……絶対、何処にも行かせないからね……！
私はず～っと貴方にお世話をされて、貴方はそのお礼に柔らかな糸に包まれて……身も心も、魂も残らず全部、み～んな私に縛られるの♪
私、貴方がお世話してくれた分だけ貴方を愛してあげる……貴方が私に尽くしてあげて、私はお返しをする……それが私と人間の関係♪
だからほら……笑って？
私の糸を欲しがった人達みたいに、私を愛でていっぱい笑って？
ねぇ……私はこんなに嬉しいのに、貴方はちっとも笑ってない……それ、変だよ……それなら変じゃないように、私が笑わせてあげる。
糸で口の端を釣って……うん、とっても素敵な笑顔♪
これであなたも私もずっと笑顔、もうずっと幸せ……うふふふふ♪

ねぇ貴方……私、貴方の愛がほしいな……♪
いっぱい、い～っぱい……私の体に収まりきらない、零れて溢れちゃうくらいの愛。
温かくて素敵な愛……私に頂戴♪

・台本（ゆるボイ！）
コカゲノアイボ
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
霜月鷹