久々に書いたシチュエーションボイスです。微ホラー気味ですがコメディも込みな感じ。ずっとオチどうしようかなーって考えながら書きました。変に無理してエロくしようって気持ち無しに書けて楽しかったです。

そこの君、早く！こっちに来て！
ゾンビに襲われる前に、早く！
よし、ドア閉めるよ、せーの！

ふぅ・・・大丈夫？無事？よかった。
この倉庫、頑丈そうだし、少なくとも、ゾンビだらけの外よりは安全じゃないかな。

それにしても、見事に町中、ゾンビだらけだね。
まるで、いや、まんまホラー映画の世界って感じ。
この倉庫も、いつまで持つかわからないけど、外のゾンビが減るまで、とりあえずね。

君、よく無事だったね。まぁ、私も同じか。
大丈夫？ケガとかしてない？

え？お腹すいた？
アハハ、確かに、それは同感。
朝起きたら、まわりの皆、全員ゾンビになってるんだもん。
何も食べる暇なんかなかったよね。
いやー、言われたら急に意識しちゃうなー。お腹すいたよー。

ねぇ、ちなみになんだけど、足の指っていらないと思わない？

だって、歩くのにも別に足の指って使わないしさ。
だったら、無くてもいいんじゃないかなーって。
いや、特に他意はないんだけどね。

え？何？
私がゾンビに噛まれてないかって？
何言ってんの。噛まれたら一瞬であいつらの仲間だよ。誰かが噛まれたとこ見なかったの？
そうでしょ？もう、笑えない冗談やめてよ。

あ、そういえば、ちっちゃい頃って腕とか脚を自分で噛んだりしなかった？
程よく痛くて、噛み跡が残るのが楽しくて、親に注意されてもついやっちゃうのよね。
私、よくやりすぎて血が出たり、友達を噛んで泣かせちゃったりしてたなぁ。

え？本当に噛まれてないかって？
だから、ほら、どこも噛まれてないでしょ？
え、腕のとこ？あ、これは、あの、ほら、今言った、噛み癖ってやつ。
お腹がすくと、ついやっちゃうの。
でも血が出るほどやるのはやりすぎだよね。
どんだけお腹すいてんだって、恥ずかしー。

でも、君もさっきから似たようなことしてるの気付いてる？
さっきからずっと自分の爪噛んでるよ。
癖なの？無意識？
不安だとそうなるの？へー。

ねぇ、私が代わりに噛んであげようか？

いやいや、癖は直した方がいいからさ。全然、全然、他意はないんだって。
本当本当、先っちょだけ、先っちょだけでいいから。

やっぱり噛まれてるだろって？
もーやめてよー、自分の爪を噛んでるのは君の方でしょ？

でも確かに、噛まれてからどれくらいでゾンビになるかって、本当のところはわからないよね。たまたま見た人がすぐにゾンビになっただけで、もしかしたら時間差があるのかも。

いや、だから私は噛まれてないってば。
私は噛まれるより、噛む方が好きなの。

やん、ちょっと、変なこと言わせないでよ恥ずかしい。

そういえば君、何も武器になるようなもの、持ってないのね。
私は家にあった包丁だけ持ってるけど。
よくそれで、あんなゾンビだらけの中、生き残れたね。
そんな、無防備な格好で・・・

ねぇ、爪、噛みすぎじゃない？ボロボロになってるよ。

にしても、本当にお腹すいた。
ねぇ、死ぬ前に食べるとしたら、何がいい？最後の晩餐ってやつ。

私はね、スズメバチをいつか食べてみたいってずっと思ってたの。
毒があるから無理って思うでしょ？でもね、スズメバチの毒は刺されて血液に入ると毒だけど、食べる分には大丈夫らしいの。
蜂の子とか、スズメバチのお酒とか聞いたことない？

でも、今は別のものが食べたいな。
スズメバチなんかじゃ、物足りないよ。
もっとたくさん、お肉とか・・・

ん？なんで離れたの？
ねぇ、どうしたの、逃げないでよ。
ちょっと、何、ドアを開けようとしてるの？
今ドアを開けたら、まだゾンビに食い殺されちゃうよ。

そんなに焦っても、ドアは開かないよ。
ねえ、どうして逃げるの？教えてよ。

え？
私が、ゾンビだろって？

うーん・・・そうか。
そう思っちゃうんだ。
よいしょ。

もう、近づいただけでそんなにおびえないでよ、傷つくなぁ。
ね、手を出して。

震えてるね・・・
腕、ちょっと、借りるよ。

はむ。んむ、んぐ。

ね？噛まれても大丈夫でしょ？
大丈夫。私は、ゾンビじゃないよ。

ねぇ、人とこうやって触れ合うと、不安が薄まる感じがしない？
急に、こんなゾンビだらけの世界になっちゃってさ。
人と触れ合うのが、今までより全然、難しくなっちゃって。
だから、こうやって傍にいることが、本当に大事だと思うの。
君が私から離れていく度に、いなくなっちゃいそうで、すごく不安だったんだよ。

ねぇ、足も出して。
大丈夫、汚くないよ。
あーん・・・

【骨をかみ砕く音】

プッ。（吐き出す音）
あー、あご、痛いー。歯ー、砕けるってー。

足の指、なくなっちゃったねぇ。
え？言ったでしょ？足の指はいらないって。
だって、肉もほとんどついてないし、動き回られても困るし。
フフ、意外と足の指がないと、うまく歩けないんだね。
私はいらないけど、君にとっては大事だったかな。

本当はちゃんと、包丁で解体したかったんだけど。
でも君が、自分の手の指をあんまり齧るもんだからさ、ちょっと急いじゃった。
だって、私が食べる分がなくなっちゃうじゃん。

気づいてなかったの？君、爪どころか、自分の手の指、もう全部食べちゃってたんだよ。
そんな手じゃ、ドア、開けたくても開けられないでしょ。

でも、相手じゃなくて、自分を食べるゾンビなんて珍しいね。
君、もしかしたら、ゾンビになる前はすごく優しい人だったのかな。
ついつい、話し込んじゃった。

でも、もう限界かなって。
これ以上、食べる量が減っても嫌だし。
あんまり完全にゾンビになられても、こっちも危ないし。
ゾンビになりかけくらいの方が、安全かもだしね。
実際にゾンビを食べてどうなるのかなんて、全然わからないけど。

まぁでも、最悪、ゾンビになってもいいんだけどね。
最後の晩餐、死ぬ前に食べたかったものが、本当に食べられるんだから。

じゃ、噛まれたら元も子もないから、首から落とすね。
それで君が完全に死ぬのかも、わからないけど。

首だけになっても生きてたら・・・私が君を食べてる間、また話し相手になってよ。
1人は寂しいからさ。
じゃ、さよなら・・・いや、またね。
いただきます。

・台本（ゆるボイ！）
多分ゾンビにかまれてる子と同じ空間に二人きりで・・・【最後の晩餐】
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
タナカジロー