へぇ……君、今日は部活終るの早かったね。
もしかして何か適当な理由を付けて抜け出してきたとか、そんな感じかな。
あれ、もしかして驚かせちゃったかな？
私、君の事が大好きだから顔を見なくたって、君が近くに来れば絶対に気付けるよ。
でも、そんな私でも分からない事があるの……どうして君は、私の後ろからこっそり近付こうとしてたのかな？
ひょっとして、手に持ってる紙袋の中身が関係してるのかな。
私への差し入れ……そっか、ありがとね。
ん、どうかしたの？
「なんで後ろに自分が居るって分かったのか」……それ、気になるんだ。

ねぇ、その理由……知りたい？

私ってね、目はあんまり良くないけど、そのぶん普通の人よりずっと鼻が利くんだ。
だからね、こうやって目を閉じても、私は君が何処にいるか分かるの。
本当に分かるのかって顔してるね……それならさ、試してみる？
それじゃあ私は目を閉じてるから、適当な所に立ってて。
十秒数え終わったら、私は君のいる所まで真っ直ぐ歩いていくから。
それじゃあカウント始めるけど、あんまり意地悪な隠れ方はしないでね……私、意地悪されると拗ねるから。

じゅう、きゅう、はち、なな、ろく、ご、よん、さん、に、いち……ぜろ。

君の匂いはこっちからするから──ほら、捕まえた。
ね、凄いでしょ。
君からは服に染み付いた洗剤の匂いと、おひさまの匂い……あとはちょっとだけ汗の匂いと、これはシャンプーの匂いかな？
そんな感じのが混ざり合って、気分が落ち着く匂いがするんだ……香水とかと違って控えめだけど、それでもはっきり分かる君の匂い。
私はこの匂いが好きだから、君がどこに居たって匂いで君の事が分かるんだよ。
あれ……どうしたの？
なんか顔、赤いけど……もしかして、照れちゃった？
それなら君、これからもっと顔が赤くなっちゃうね……どういう意味か知りたいの？
それはね──こういう事だよ。

うん、君の体……とってもあったかいね。
ちょっと震えてるのは緊張してるせいかな、それとも寒いからなのかな。
もし寒いならもっと密着して、君の事をいっぱい温めてあげる。
ほら、力を抜いて……君も私に集中して。
大丈夫、ここには私達以外は誰も居ないから、周りの目なんか気にする必要ないよ。
そんな事よりさ、君が感じている私の事……私に教えて。
「甘い匂いがする」……？
そうだね、それは私が気に入ってる香水……他には？
香水以外だと、私からはどんな匂いがするのかな……ふふ、そうだね。
ちょっとだけ汗かいてるから、その匂いもするかも。
それじゃあしばらく、このままにしてよっか。
私に集中して……私の事、いっぱい堪能してね。


えっと、そろそろ良い感じかな……ん、なんの事か気になるの？
そうだね……君、マーキングって知ってる？
動物が自分の縄張りとかに匂いを残して、自分のモノだってアピールする為の方法。
私もね、それを真似してみたんだ。
ほら、君の体……私の匂いがするでしょ？
私の匂いを君にいっぱいつけて、この人は私のモノだって皆にアピールするの。
あぁ……でも、これじゃちょっと足りないかもしれないね。
どうしようかな……そうだ、ちょっと手首出してもらって良いかな？
この香水、君にも付けてあげる。
ハンカチに吹きかけて、これで君の手首を軽くゴシゴシすれば──ほら、良い匂いでしょ？
ふふ、君から私と同じ匂いがする……これなら皆も、私達の事を分かってくれるね。
「あれ、あの二人って同じ香水使ってる……もしかして⁉」って、学校中で話題になっちゃうかも。
二人で同じ香水を使って、二人とも同じ匂いがして、二人でいつも一緒に居て……そんなの、皆すぐ気付くに決まってるよ。
これでマーキングは完璧……って言いたいんだけど、実はまだ終わってないんだよね。
私から君へのマーキングは済んでるけど、君から私へのマーキングはまだでしょ？
明日は学校も休みだしさ──

今夜はいっぱい、マーキングして欲しいな♪

・台本（ゆるボイ！）
嗅覚が自慢の彼女に甘々マーキングされる
https://twitter.com/yuru_voi

・台本制作者
霜月鷹