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- エルフ
公開日2021年09月12日 21:03
更新日2021年09月12日 21:03
文字数
5092文字(約 16分59秒)
推奨音声形式
指定なし
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
ハーフエルフ
視聴者役柄
旅人
場所
エルフの集落
あらすじ
ある日、エルフたちの住む森で火事が起こった。たまたま見回りをしていたハーフエルフの少女は一人、延焼を防ごうとする。
しかし、そこで奇跡的に大雨が降って森は全焼を免れた。
ホッとしている彼女の元に現れたのは、絵を描きながら各地を放浪しているという、一人の男であった…
しかし、そこで奇跡的に大雨が降って森は全焼を免れた。
ホッとしている彼女の元に現れたのは、絵を描きながら各地を放浪しているという、一人の男であった…
本編
よし、特に異常はなし、と。
今日も問題はないみたい。
えぇ、そろそろ戻りましょうか。
ん…?ちょっと待って。なんか焦げ臭い…
か、火事⁉︎なんで急に…⁉︎
貴女はこのことをみんなに知らせて!
わたしはこれ以上火が燃え広がらないよう、食い止めるから!
わたしは平気!早く行って!
とは言ったものの…もうこんなに燃え広がってる…
ッ、とにかく延焼だけでも食い止めないと…!
(土砂降りの雨)
え…?なんで急に雨が…?さっきまで普通に晴れてたのに…
は、はい…びっくりしました。
火事が起きたと思ったら、今度は急に土砂降りの雨が…
って、あなたは…?しれっと隣に立ってますけど、どちら様ですか?
旅人さん、ですか?そうだったんですね。
けどここはエルフの森なんです…知らなかったのなら仕方ないですけど、無断で立ち入られるのはちょっと…
とりあえず喉が渇いて死にそうだから水がほしいって…少し待っててください。すぐ取ってきますので。
え、ええと…それはよかったです。
それでその…一応事情をお伺いしてもよろしいですか?
へ?ここはエルフの住む森だってことは知ってた?ならどうして…
な、なんでしょう…わたしの顔に何かついてます?
綺麗…⁉︎いえ、別にそんなことありません!
わたしより綺麗な娘はたくさんいますし!
そうです!実際に見てみればわかりますよ!
頼みがあるって…なんですか?
絵のモデル?それってつまり、わたしの絵を描くってことですか?
ありがたいお話だとは思うんですけど…わたしなんかじゃ、きっとダメです…
いえ、そうやって褒めていただけるのはありがたいのですが、やっぱり自信が持てないといいますか…
それは…と、とにかくここはエルフの森ですから!
ほら、わたしの仲間が来ないうちに早く行ってください!
い・い・か・ら!あんまりしつこいと力づくで追い出しますよ⁉︎
はぁ〜…やっと行ってくれた…
人間絡みのトラブルは面倒だから、できるだけ穏便にお引き取り願おうってのが、集落の方針だし…
仕方ないよね。うん、仕方ない…
おはよう。えと、朝からなんの騒ぎ?
人間の男が長老と交渉中⁉︎
え、その人何しにきたの?
めちゃくちゃ美人のエルフの娘がいたから、ぜひその娘の絵を描かせてほしいって、まさか…!
ご、ごめんなさい!ちょっと失礼します!
あ…やっぱりこのあいだの旅人さん!なんでここに⁉︎
あ、長老……えと、はい。最近知り合ったというか、なんというか…
(手を握られて懇願される)
え⁉︎ちょ、ちょっと落ち着いてください!みんな見てますから!
(閑話休題)
し、失礼しました、長老…
はい…どうやら彼はわたしの絵を描きたいみたいで…
朝からお騒がせして申し訳ありません…
え?いいのですか?ですが…
あ、あぁ、なるほど…
早く描いてもらってお引き取り願おうと…そういうわけですね。
承知いたしました。ではそのように。
え?わたしの意志、ですか?
わたしは大丈夫です。絵のモデルになるくらい、どうってことありませんから。なるのは初めてですけど…
はい。問題ありません。それでは失礼します。
と、いうわけです。存分に描いてもらって構いません。
はい。ただし、描き終わったらすぐにエルフの集落から出ること。いいですね?
決まりですね。それでは早速始めましょう。
あ、あの〜…まだですか?
す、すみません!じっとしてます!
(全然動けないし、たまにポーズ変えるように言われて変えたらダメ出しされるし…辛いよ〜…)
え?今日はここまでって…一日で終わらないんですか⁉︎
そ、そんなに時間がかかるものなんですね…わかりました。
(あと何日続くんだろ…あんまり長くないといいけどなぁ…)
(ノック音)
あの〜…お食事持ってきましたけど〜…
はい、失礼します。
わかりました。ここに置いておけばよろしいですね?
…あの、何を見てらっしゃるんですか?それ、何も描かれてませんけど…
真っ白なキャンバスにイメージを描いてる?
へ、へぇ〜、そうなんですね…
(全然わかんない…何言ってるんだろ、この人…)
は、はい!長居してすみませんでした!失礼します!
はぁ〜…気難しい人だなぁ…
何考えてるのか全然わかんないし…
ううん、弱気になっちゃダメ!
わたしが少し我慢すればそれで済むんだから!頑張ろ!
今日はどこまで進みました?
え⁉︎最初から描き直してる⁉︎なんで⁉︎
実物とあまりに違いすぎて破り捨てたって…そんなぁ〜…
少し時間をくれって、ちょっと!どこ行くんですか⁉︎
ちょ、ちょっと!なに他の女の子にナンパしてるんですか!
とりあえず描く練習?わたしじゃなくてよくなったってことですか?
わたしを描くための練習って…
それがなんで他の娘を描くことに繋がるんですか⁉︎
も、もう〜!わかりました!
そこまで言うなら好きなだけ練習でもなんでもしてください!
けど他の娘に迷惑かけてると判断したら、ここから問答無用で叩き出しますから!いいですね⁉︎
はぁ…ごめんね。そういうことだから、少しの間だけ彼に付き合ってあげて。よろしくね。
す、すごい…本物みたい…
え、これ、本当に旅人さんが描いたの?
ってことは、あそこに並んでる行列って…
みんな旅人さんに描いてもらうために並んでるってこと?
へー…ちなみにそれ描くのにどれくらい時間かかってた?
う、うそ⁉︎1時間足らずで⁉︎
わたしのときは4時間も5時間もかかってたのに!
むう〜…なんでわたしだけ…
他の娘はみんな早く描き上がってるみたいなのに…
え?わたしだけ特別扱いされてるから?
なんで…もう旅人さんのこと全然わかんない〜!
ご、ごめん…一旦落ち着く。
そう、だよね。とりあえず旅人さんが満足するまで待つしかないよね…
無理やり叩き出してもまた舞い戻ってきそうだし…
ん、もう時間か。とりあえず森の見回り行ってくる。
(わたしとみんなの違うところ…いや、まさかね。そんなの見た目だけでわかるはずないし…ただの偶然に決まってる、はず…)
えっと、長老。これは一体…
え⁉︎これ、全部旅人さんが⁉︎
す、すごい…短期間でこんなクオリティの絵が描けるなんて…
あと集落の女で描かれてないのはわたしだけ?
そうなんですね…けどあれから旅人さんにずっと声かけられてないんですが…
どうしてもわたしだけ描けないって嘆いてた?
な、なんとかしろって言われても!わたしだってどうしたらいいか…
う〜…わかりました。とりあえずやれるだけのことはやってみます。
あの、少しいいですか?
へ?なんですか、その反応?
ふつうに声かけただけなんですけど…
やっぱり美しさが段違いって、わ、わたしがですか⁉︎
う、うぅ〜…その、あんまり言われると照れますから、その辺で勘弁してください…
あの、なんでわたしだけ描けないんですか?
他の娘はあんなに上手に描いてたのに…
美しさが違うから?旅人さんの言ってることがよくわかりません…
とりあえずどうすれば上手く描けるか、ヒントくらいはないんですか?
美しさのイメージを自分の心に映し出せれば描ける…?
わたしのどこが美しいのかよくわかりませんが…そういうことでしたら、少しだけ協力します。
そこに座って目を瞑ってください……一応言っときますけど、薄目開けるのは禁止ですからね?
よし……ではお隣失礼します。
なんの真似だって、とりあえずわたしを身近に感じてください。
芸術がなんなのか知りませんが、わたしのことを少しは知ろうとしてください。
わたしのこと何も知らずに描こうとしてたんなら、傲慢にも程がありますよ?
はい。わたしはここにいます。ちゃんとわたしの存在を感じてください。
え?……少しお前のことを教えてほしい?
もっと人…じゃなくてエルフへの頼み方ってものがあるんじゃないですか?
ふふ、冗談です。けどやっとわたしのことを知ろうとしてくれて嬉しいです。
わたし、実は他のみんなと一点だけ違うところがあるんです。
はい。わたしは純血のエルフではなく、半分人間の血が混ざってるんです。いわゆるハーフエルフですね。
そう。父が人間で、母がエルフの子どもです。
父はたまたまこのエルフの森に迷い込んで、そこを母に助けられたのが馴れ初めみたいです。
えぇ、元々この集落では人間との接触はしていなかったのですが、父と母が結婚して以降は人間もそれなりに出入りするようになりました。
両親?両親はわたしが幼い頃に亡くなってしまって…
いえ、気にしないでください。話を戻しますね。
ただ、人間が出入りするようになってから、文化の違いから諍いも多々起こるようになってしまって…
それからまた、わたしたちエルフは人間と距離をとって生活するようになりました。それが今の状況ですね。
そうです。この集落でただ一人、わたしだけがハーフエルフなんです。
はい、お察しの通り、この集落で人間とエルフが結婚して子どもを産んだのはわたしの両親しかいません。
ただ、集落のみんなはこんなわたしを差別することなく優しく接し、育ててくれました。
自分だけ人間の血が混ざってるという劣等感はありましたけど、それでも今日まで元気にやってこれたのはみんなのおかげなんです。
だからそんなに美しかったのかって、そういうわけではありません。
むしろ混血のわたしより、純血のエルフの方が美しいと思うのですが…
わっ!きゅ、急に叫んでどうしたんですか⁉︎
え?今なら描ける?本当ですか⁉︎
は、はい!では早速お願いします!
あの〜…どうですか、進捗は?
え、もう描けた⁉︎早すぎません⁉︎まだ1時間も経ってませんよ⁉︎
これがわたし?嘘…こんなに綺麗なはずがない…
そう言いたいのに、これがわたし自身だってなんとなくわかる…不思議。
疲れたから膝を貸してくれ?いいですけど…
どうですか?不快ではありませんか?
そ、そうですか。ならよかったです…ふふっ。
いえ。旅人さんのそんな安らかな表情初めて見たなって思って。
…?間に合ってよかったって、どういう…?
死ぬ前にこの世で最も美しいと言われている種族であるエルフをどうしても描きたかったって…なんですか、それ。
そんなの聞いてませんよ…なんで旅人さんが死ぬことになるんですか…?
え…旅人さん、聖職者だったんですか⁉︎全然そうは見えなかった…
奇跡を起こす力で人々を救ってきた…すごいじゃないですか。
けどなんで今は旅をして絵なんか描いてるんです?
邪教の連中に力を悪用されそうになったから逃げて放浪してた、と。絵は元々の趣味だったんですね。
え、じゃあわたしたちが最初に会ったときの、あの大雨は偶然じゃなくて旅人さんが…?
あれが最後の奇跡だったって…どういうこと?
奇跡を起こす力は寿命を削って使ってた…⁉︎
あの大雨を起こした時には、ほぼ全部の寿命を使い切ってたって…なんでそんなことしたんですか!
そりゃあのときは、大火事が起きる寸前でしたけど!
自分の命と引き換えにするほどのことでもないでしょう⁉︎
あの時点ではわたしとすら接触していなかったはずなのに、どうして…
わたしを見たから?それって……
ひ、一目惚れ⁉︎わたしに⁉︎
あ…………じゃあ旅人さんがこうして命尽きようとしてるのはわたしのせいってことですね。
だってそうじゃないですか。わたしにさえ出会わなければ、あんな火事放っておいてさっさと逃げていたでしょう?
なんで涼しい顔でそんなことが言えるんですか…もうすぐ死ぬんですよ?
バカ…ほんっっっとうにバカ!
なに勝手に自己満足して安らかに眠ろうとしてるんですか!バカバカ!
酷いし、おまけにズルいです!
わたしの気持ちも知らないで!
えぇ、ホントは嫉妬してたんです。
最初はわたしのことが綺麗だから描きたいって言ってたくせに、練習と称して他の女の子を描きにいって!
どうせわたしがハーフエルフだったからとか、やっぱり旅人さんも純血のエルフの女の子が好みなんだとか、すっごくモヤモヤしてました!
そうですよ!本当はわたしだけを描いて欲しかった!わたしだけを見て欲しかった…
たしかに最初は嫌々やってて疲れもしましたけど…
それでも絵のモデルになるなんて初めてで、綺麗だって言われて悪い気はしなかったんです。
やっとわたしだけを見て描いてくれたと思ったら、今度はもう長くないからあの世に行くって…
冗談じゃないですよ!ふざけるのも大概にしてください!
こればっかりはどうしようもないから諦めろって、酷いです…
旅人さんのことも自分自身のことも、やっと好きになり始めたっていうのに…こんなのってありません。
今俺にできることならなんでもする?
だったら…今この瞬間だけ、わたしの恋人になってください。
(キス)
ギリギリ間に合ったみたいですね。まだ唇が暖かかった…
キスの感想、聞かせてもらっていいですか?
…あの、黙ってたらなにも分かりません。
何か一言くらい言ってください。
本当にズルい人です。わたしだけ恥をかいたじゃないですか。
最初から最後まで自分勝手な人…
けどわたし、そんな旅人さんのことは嫌いじゃないです。
おやすみなさい、旅人さん。
わたしがそばにいてあげてるんですから、良い夢くらいみてくださいね…
今日も問題はないみたい。
えぇ、そろそろ戻りましょうか。
ん…?ちょっと待って。なんか焦げ臭い…
か、火事⁉︎なんで急に…⁉︎
貴女はこのことをみんなに知らせて!
わたしはこれ以上火が燃え広がらないよう、食い止めるから!
わたしは平気!早く行って!
とは言ったものの…もうこんなに燃え広がってる…
ッ、とにかく延焼だけでも食い止めないと…!
(土砂降りの雨)
え…?なんで急に雨が…?さっきまで普通に晴れてたのに…
は、はい…びっくりしました。
火事が起きたと思ったら、今度は急に土砂降りの雨が…
って、あなたは…?しれっと隣に立ってますけど、どちら様ですか?
旅人さん、ですか?そうだったんですね。
けどここはエルフの森なんです…知らなかったのなら仕方ないですけど、無断で立ち入られるのはちょっと…
とりあえず喉が渇いて死にそうだから水がほしいって…少し待っててください。すぐ取ってきますので。
え、ええと…それはよかったです。
それでその…一応事情をお伺いしてもよろしいですか?
へ?ここはエルフの住む森だってことは知ってた?ならどうして…
な、なんでしょう…わたしの顔に何かついてます?
綺麗…⁉︎いえ、別にそんなことありません!
わたしより綺麗な娘はたくさんいますし!
そうです!実際に見てみればわかりますよ!
頼みがあるって…なんですか?
絵のモデル?それってつまり、わたしの絵を描くってことですか?
ありがたいお話だとは思うんですけど…わたしなんかじゃ、きっとダメです…
いえ、そうやって褒めていただけるのはありがたいのですが、やっぱり自信が持てないといいますか…
それは…と、とにかくここはエルフの森ですから!
ほら、わたしの仲間が来ないうちに早く行ってください!
い・い・か・ら!あんまりしつこいと力づくで追い出しますよ⁉︎
はぁ〜…やっと行ってくれた…
人間絡みのトラブルは面倒だから、できるだけ穏便にお引き取り願おうってのが、集落の方針だし…
仕方ないよね。うん、仕方ない…
おはよう。えと、朝からなんの騒ぎ?
人間の男が長老と交渉中⁉︎
え、その人何しにきたの?
めちゃくちゃ美人のエルフの娘がいたから、ぜひその娘の絵を描かせてほしいって、まさか…!
ご、ごめんなさい!ちょっと失礼します!
あ…やっぱりこのあいだの旅人さん!なんでここに⁉︎
あ、長老……えと、はい。最近知り合ったというか、なんというか…
(手を握られて懇願される)
え⁉︎ちょ、ちょっと落ち着いてください!みんな見てますから!
(閑話休題)
し、失礼しました、長老…
はい…どうやら彼はわたしの絵を描きたいみたいで…
朝からお騒がせして申し訳ありません…
え?いいのですか?ですが…
あ、あぁ、なるほど…
早く描いてもらってお引き取り願おうと…そういうわけですね。
承知いたしました。ではそのように。
え?わたしの意志、ですか?
わたしは大丈夫です。絵のモデルになるくらい、どうってことありませんから。なるのは初めてですけど…
はい。問題ありません。それでは失礼します。
と、いうわけです。存分に描いてもらって構いません。
はい。ただし、描き終わったらすぐにエルフの集落から出ること。いいですね?
決まりですね。それでは早速始めましょう。
あ、あの〜…まだですか?
す、すみません!じっとしてます!
(全然動けないし、たまにポーズ変えるように言われて変えたらダメ出しされるし…辛いよ〜…)
え?今日はここまでって…一日で終わらないんですか⁉︎
そ、そんなに時間がかかるものなんですね…わかりました。
(あと何日続くんだろ…あんまり長くないといいけどなぁ…)
(ノック音)
あの〜…お食事持ってきましたけど〜…
はい、失礼します。
わかりました。ここに置いておけばよろしいですね?
…あの、何を見てらっしゃるんですか?それ、何も描かれてませんけど…
真っ白なキャンバスにイメージを描いてる?
へ、へぇ〜、そうなんですね…
(全然わかんない…何言ってるんだろ、この人…)
は、はい!長居してすみませんでした!失礼します!
はぁ〜…気難しい人だなぁ…
何考えてるのか全然わかんないし…
ううん、弱気になっちゃダメ!
わたしが少し我慢すればそれで済むんだから!頑張ろ!
今日はどこまで進みました?
え⁉︎最初から描き直してる⁉︎なんで⁉︎
実物とあまりに違いすぎて破り捨てたって…そんなぁ〜…
少し時間をくれって、ちょっと!どこ行くんですか⁉︎
ちょ、ちょっと!なに他の女の子にナンパしてるんですか!
とりあえず描く練習?わたしじゃなくてよくなったってことですか?
わたしを描くための練習って…
それがなんで他の娘を描くことに繋がるんですか⁉︎
も、もう〜!わかりました!
そこまで言うなら好きなだけ練習でもなんでもしてください!
けど他の娘に迷惑かけてると判断したら、ここから問答無用で叩き出しますから!いいですね⁉︎
はぁ…ごめんね。そういうことだから、少しの間だけ彼に付き合ってあげて。よろしくね。
す、すごい…本物みたい…
え、これ、本当に旅人さんが描いたの?
ってことは、あそこに並んでる行列って…
みんな旅人さんに描いてもらうために並んでるってこと?
へー…ちなみにそれ描くのにどれくらい時間かかってた?
う、うそ⁉︎1時間足らずで⁉︎
わたしのときは4時間も5時間もかかってたのに!
むう〜…なんでわたしだけ…
他の娘はみんな早く描き上がってるみたいなのに…
え?わたしだけ特別扱いされてるから?
なんで…もう旅人さんのこと全然わかんない〜!
ご、ごめん…一旦落ち着く。
そう、だよね。とりあえず旅人さんが満足するまで待つしかないよね…
無理やり叩き出してもまた舞い戻ってきそうだし…
ん、もう時間か。とりあえず森の見回り行ってくる。
(わたしとみんなの違うところ…いや、まさかね。そんなの見た目だけでわかるはずないし…ただの偶然に決まってる、はず…)
えっと、長老。これは一体…
え⁉︎これ、全部旅人さんが⁉︎
す、すごい…短期間でこんなクオリティの絵が描けるなんて…
あと集落の女で描かれてないのはわたしだけ?
そうなんですね…けどあれから旅人さんにずっと声かけられてないんですが…
どうしてもわたしだけ描けないって嘆いてた?
な、なんとかしろって言われても!わたしだってどうしたらいいか…
う〜…わかりました。とりあえずやれるだけのことはやってみます。
あの、少しいいですか?
へ?なんですか、その反応?
ふつうに声かけただけなんですけど…
やっぱり美しさが段違いって、わ、わたしがですか⁉︎
う、うぅ〜…その、あんまり言われると照れますから、その辺で勘弁してください…
あの、なんでわたしだけ描けないんですか?
他の娘はあんなに上手に描いてたのに…
美しさが違うから?旅人さんの言ってることがよくわかりません…
とりあえずどうすれば上手く描けるか、ヒントくらいはないんですか?
美しさのイメージを自分の心に映し出せれば描ける…?
わたしのどこが美しいのかよくわかりませんが…そういうことでしたら、少しだけ協力します。
そこに座って目を瞑ってください……一応言っときますけど、薄目開けるのは禁止ですからね?
よし……ではお隣失礼します。
なんの真似だって、とりあえずわたしを身近に感じてください。
芸術がなんなのか知りませんが、わたしのことを少しは知ろうとしてください。
わたしのこと何も知らずに描こうとしてたんなら、傲慢にも程がありますよ?
はい。わたしはここにいます。ちゃんとわたしの存在を感じてください。
え?……少しお前のことを教えてほしい?
もっと人…じゃなくてエルフへの頼み方ってものがあるんじゃないですか?
ふふ、冗談です。けどやっとわたしのことを知ろうとしてくれて嬉しいです。
わたし、実は他のみんなと一点だけ違うところがあるんです。
はい。わたしは純血のエルフではなく、半分人間の血が混ざってるんです。いわゆるハーフエルフですね。
そう。父が人間で、母がエルフの子どもです。
父はたまたまこのエルフの森に迷い込んで、そこを母に助けられたのが馴れ初めみたいです。
えぇ、元々この集落では人間との接触はしていなかったのですが、父と母が結婚して以降は人間もそれなりに出入りするようになりました。
両親?両親はわたしが幼い頃に亡くなってしまって…
いえ、気にしないでください。話を戻しますね。
ただ、人間が出入りするようになってから、文化の違いから諍いも多々起こるようになってしまって…
それからまた、わたしたちエルフは人間と距離をとって生活するようになりました。それが今の状況ですね。
そうです。この集落でただ一人、わたしだけがハーフエルフなんです。
はい、お察しの通り、この集落で人間とエルフが結婚して子どもを産んだのはわたしの両親しかいません。
ただ、集落のみんなはこんなわたしを差別することなく優しく接し、育ててくれました。
自分だけ人間の血が混ざってるという劣等感はありましたけど、それでも今日まで元気にやってこれたのはみんなのおかげなんです。
だからそんなに美しかったのかって、そういうわけではありません。
むしろ混血のわたしより、純血のエルフの方が美しいと思うのですが…
わっ!きゅ、急に叫んでどうしたんですか⁉︎
え?今なら描ける?本当ですか⁉︎
は、はい!では早速お願いします!
あの〜…どうですか、進捗は?
え、もう描けた⁉︎早すぎません⁉︎まだ1時間も経ってませんよ⁉︎
これがわたし?嘘…こんなに綺麗なはずがない…
そう言いたいのに、これがわたし自身だってなんとなくわかる…不思議。
疲れたから膝を貸してくれ?いいですけど…
どうですか?不快ではありませんか?
そ、そうですか。ならよかったです…ふふっ。
いえ。旅人さんのそんな安らかな表情初めて見たなって思って。
…?間に合ってよかったって、どういう…?
死ぬ前にこの世で最も美しいと言われている種族であるエルフをどうしても描きたかったって…なんですか、それ。
そんなの聞いてませんよ…なんで旅人さんが死ぬことになるんですか…?
え…旅人さん、聖職者だったんですか⁉︎全然そうは見えなかった…
奇跡を起こす力で人々を救ってきた…すごいじゃないですか。
けどなんで今は旅をして絵なんか描いてるんです?
邪教の連中に力を悪用されそうになったから逃げて放浪してた、と。絵は元々の趣味だったんですね。
え、じゃあわたしたちが最初に会ったときの、あの大雨は偶然じゃなくて旅人さんが…?
あれが最後の奇跡だったって…どういうこと?
奇跡を起こす力は寿命を削って使ってた…⁉︎
あの大雨を起こした時には、ほぼ全部の寿命を使い切ってたって…なんでそんなことしたんですか!
そりゃあのときは、大火事が起きる寸前でしたけど!
自分の命と引き換えにするほどのことでもないでしょう⁉︎
あの時点ではわたしとすら接触していなかったはずなのに、どうして…
わたしを見たから?それって……
ひ、一目惚れ⁉︎わたしに⁉︎
あ…………じゃあ旅人さんがこうして命尽きようとしてるのはわたしのせいってことですね。
だってそうじゃないですか。わたしにさえ出会わなければ、あんな火事放っておいてさっさと逃げていたでしょう?
なんで涼しい顔でそんなことが言えるんですか…もうすぐ死ぬんですよ?
バカ…ほんっっっとうにバカ!
なに勝手に自己満足して安らかに眠ろうとしてるんですか!バカバカ!
酷いし、おまけにズルいです!
わたしの気持ちも知らないで!
えぇ、ホントは嫉妬してたんです。
最初はわたしのことが綺麗だから描きたいって言ってたくせに、練習と称して他の女の子を描きにいって!
どうせわたしがハーフエルフだったからとか、やっぱり旅人さんも純血のエルフの女の子が好みなんだとか、すっごくモヤモヤしてました!
そうですよ!本当はわたしだけを描いて欲しかった!わたしだけを見て欲しかった…
たしかに最初は嫌々やってて疲れもしましたけど…
それでも絵のモデルになるなんて初めてで、綺麗だって言われて悪い気はしなかったんです。
やっとわたしだけを見て描いてくれたと思ったら、今度はもう長くないからあの世に行くって…
冗談じゃないですよ!ふざけるのも大概にしてください!
こればっかりはどうしようもないから諦めろって、酷いです…
旅人さんのことも自分自身のことも、やっと好きになり始めたっていうのに…こんなのってありません。
今俺にできることならなんでもする?
だったら…今この瞬間だけ、わたしの恋人になってください。
(キス)
ギリギリ間に合ったみたいですね。まだ唇が暖かかった…
キスの感想、聞かせてもらっていいですか?
…あの、黙ってたらなにも分かりません。
何か一言くらい言ってください。
本当にズルい人です。わたしだけ恥をかいたじゃないですか。
最初から最後まで自分勝手な人…
けどわたし、そんな旅人さんのことは嫌いじゃないです。
おやすみなさい、旅人さん。
わたしがそばにいてあげてるんですから、良い夢くらいみてくださいね…
クレジット
ライター情報
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台本の創作は自由にやらせてもらっております。よろしくお願いします。
台本の創作は自由にやらせてもらっております。よろしくお願いします。
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松平蒼太郎 の投稿台本(最大10件)